05-44.家族会議
「もう行ってしまうのかのう」
「また来る。お母さん探しておいて」
「そうかそうか♪」
嬉しそう。
「ボクももう少し見て回りたかったなぁ」
「すまんな。諸々片付いたらまたいずれな」
ファムは今回完全に付き添いだったな。ユーシャとパティもだけど。キャロちゃんなんて半泣きでシュテルにしがみついてるだけだったし。無理やり連れて来られてしまったからな。申し訳ない事をしてしまった。
『シュテちゃんの方はまだ見て回りたいようだけどね』
『私が残りましょうか? 希望者だけでこのまま竜王国の見学ツアーを始めても構いませんよ?』
いいや。今回はやめておこう。ありがとう、ネル姉さん。
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「帰ってきたわね♪」
「うむ。決着をつけようではないか」
『そうでした。私も大事な一票ですからね』
うむ。少々小狡いとは思うが、私達は別々に四票入れさせてもらうとしよう。
「それじゃあ改めて状況を整理しましょう」
リタの主導で再び家族会議が始まった。
「一先ずヴァイス家にまつわる騒動については区切りがついたわ。刺客は捕らえて神器を取り上げ、父の部下達に引き渡した。後は向こうでよろしくやってくれるでしょう。私達が手を貸すのはここまで。ヴァイス家の噂の件もマルコスの坊っちゃんが解決してくれるでしょう。今はエフィとルシアも居るから心配は要らないわ。あの二人は優秀よ。追加で刺客が来たってそうそう遅れは取らないわ。私達も当面は頻繁に様子を見に行く事になるでしょうし、周囲で不穏な動きがあれば分かる筈よ。あの二人が見逃す事も無いでしょうしね」
シュテルとキャロちゃんはこれからも毎日のように会うだろうからな。ロロも適度に里帰りさせるつもりだし。ご近所付き合い感覚で様子を見る事は出来る筈だ。
「この国についても心配は要らないわね。ジェシー姉様と騎士団長が動いてくれているわ。既に潜伏者達を一網打尽にしてくれている頃でしょう」
パティが補足した通りだ。流石に仕事が早い。
「共和国内の問題も父含む現大統領一派が抑えてくれるわ。その為の証拠もいっぱい提供したもの。きっとパパは妖精王陛下に感謝してくれる筈よ♪」
なんか企んでそうな物言いだ。リタは実家と交渉したい事でもあるのだろうか。
「最後に残ったのは聖教国の問題ね。今回の議題の中心でもあるわ。あの国は神器を集めているの。カルモナドと違って世界中から。しかも手段を問わず。共和国と王国に戦争をさせてでも集めようとしたの。それが神から与えられた役目と考えているのでしょうね」
「或いは神の恩寵は全て自分達のものだとでも考えているのやもしれん」
「あり得ない話じゃないわね。経緯を考えれば神の興した国と言っても過言じゃないもの」
「しかしかの国は神の不在を憂いている」
「でしょうね。権威の失墜を招きかねない状況だもの。今後も神が無視を続けるならいずれ離反者や貶めようとする者達も現れるかもしれないわ。そんな中で起きた御神体の盗難騒ぎは影響も大きいものなのでしょうね」
そうだな。あの厳戒態勢を見る限り本気で焦っているのは間違いないな。
「さて。私達はこの問題をどうするべきかしら。見なかった事にして放置する? それとも御神体を持っていってしまった事を告白して謝罪する? 或いは開き直ってこちらの正義を主張する? 彼らが真に神の信者であるなら、無条件でエリク達に従うべきよね。現状この世界で唯一、神から直接お役目を賜った者達ですもの。神がエリクに姉達を集めろと言ったのだから。教会はエリクを全力でバックアップするべきよね。それが本来の在り方だと思うの。彼らがそう在ると言うなら名乗り出るのもやぶさかでもないわ」
「実際にそうはなるまいがな」
「でしょうね。まずエリクの言葉を信じる保証がないわ。力だけで信じる者達もいるでしょうけど、と言うか実際にいたようだけど、それもきっと全員ではないと思うの」
先日私達が密かに潜り込んだ際に集まっていたのは、特に信心深い者達だったのかもしれない。ただ大聖堂中の者達が集まっていたわけでもない。規模から察するなら本当に極一部の者達だけだ。彼らが教会としての意思決定権の全てを担っている筈もあるまい。私達が名乗り出ればもっと多くの者達が関わる事になる筈だ。誰も彼もが平服してくれるわけではない筈だ。
「まあ、この件に関してはエリクにも落ち度が無いわけじゃないわ。いくら自分の姉だからって無断で盗ってきていいわけじゃないのも確かね。彼らにとっての御神体である事も事前に分かっていたわけだし。事実として盗みを働いてしまった以上は、彼らと友好的に関わるのが難しくなったと言えるでしょうね」
「その通りだ。これ以上盗みを働くわけにもいかんだろう」
「待ちなさい。まだ話はそこまで行ってないわ」
「そろそろ本題に入ろう。纏めはもう十分だ」
「ダメよ。焦らないで。物事には順序があるものでしょ」
リタは何を勿体ぶっておるのだろう。この主張では後々不利になりそうだとしか思えんのだが。




