05-43.スモールワールド現象
「そうか。うむ。承知した。ルベド様の縁者に託すならば此方も否は無い」
あっさりとソラの嫁入りは許可された。ルベド様々だな。
「お母さんは?」
「……戻っておらん」
「そう。残念。一度会ってみたかったのに」
こっちもなんだか淡白なやり取りだな。数百年越しに初めて会った父と娘なのに。
「もう一つの件も承知しておる。安心せよ。我らが今の聖教国に力を貸す事はありえん。彼らも我らに助力を乞う事はあり得んじゃろう」
「仲が悪いのですか?」
「そもそも国交が無い。奴らは我らを見下しておるからな」
どういうこっちゃ? まさかこの竜の大群を相手に勝てるつもりなのか?
「驕っておるのだ。奴らは神の恩寵を一身に受ける権利があると信じておる。我らと争えば必ず神が助力するとな」
えぇ……。
「奴らは簒奪者に過ぎぬと言うのにな。ルベド様が築き上げてきたものの価値を何一つとして理解しておらんのだ」
『無理もない事です。人にとって二千年は長すぎたのでしょう』
そもそも国の成り立ちからすればルベドは敵と思われているのかも。今の時代にルベドの容姿を知る者はおらんだろうけど。二タスやキトリはずっと封印状態だったんだろうし。キトリが聖櫃に入る瞬間を目撃している者がいるなら別だけど。
「ですが完全に人との関わりを断っているわけでも無いのですよね?」
ギルドが竜王の容姿を知っていた。それもかなり正確に。でなければソラの出生が判明する事も無かった筈だ。おそらく聖教国以外なら国交が続いている国も残っているのだろう。
「うむ。この地を訪れる人間がおらんわけではない。我々の中にもまた人の国を旅する者達はおる。人の作る飯と酒は美味い。それでも一処に長居する者は少なかろうがな」
ガッハッハと笑う竜王様。なんだかんだと人間の事は気に入っているようだ。
「アウルム」
「◯!」
「おお! それはもしや!?」
大量の酒樽に直ぐ様興味を示してくれた。手土産に用意しておいて正解だったな。
「どうぞ。お納めください」
「うむ♪ うむ♪ 善き哉♪ 善き哉♪」
めっちゃ嬉しそう。
ついでに周囲の竜達も続々と集まってきた。けれどある程度の所で円を描くようにピタリと足を止めてしまった。
「しゅて?」
シュテルが自分を指して首を傾げている。キャロちゃんは目を瞑ってシュテルに抱きついている。
「お主とも久しいな。そのような形をしておるとは思わなんだが」
「?」
「なんじゃ。覚えておらんのか。と言うよりまだ目覚めておらんのか」
「う~?」
「まるで赤子のようだのう」
さっきから何の話をしておるのだ? シュテルは見ての通り赤ん坊……あ、いや。聖女の杖だけど……え?
「もしや竜王様は」
「うむ。知っておるぞ。勿論だとも。こやつめはこの地で散々暴れおったのじゃからな」
? 聖女が?
「それは持ち主の話ですよね? この子は杖の方なのですが……」
「杖がそのような姿を成す筈があるまい。奴は記憶と魂を封じたのじゃろう。しかし未だ覚醒には至っておらんようじゃ。表層の魂は投影されたものであろうな。そのまま封じておくが良かろう。世の為にはな」
またもガッハッハと笑う竜王様。
……えっと。どういうこっちゃ?
『彼が言った通りです。シュテルはある人物を元に生み出された仮想の人格です。封印から漏れ出た記憶と魂があの子を形作ったのです』
ルベドは知ってたの?
『ええ、まあ』
そういうの今度から早く言ってね。
『……』
まだ何か気付いてる?
『……後にしましょう』
そうだね。時間ある時にゆっくり話そっか。
『はい』
『私は気が付きませんでした』
『私も~。そういうものかって受け入れちゃった』
ネル姉さんとキトリはこっち側だったか。無理もない。私も全然思い至らなかったし。そもそもシュテルに関しては諸事情で調べもしていなかったからね。けどそうも言ってられなさそうだ。時間がある時にでも調べてみよう。必要なら封印を強化しよう。私のシュテルを他の誰かに上書きされても困るし。
「けど何故会った事も無い筈のソラが?」
「……会ったことあるのかも」
年代が合わんぞ? 聖女が活動していたのはソラが生まれるよりずっと前の筈だ。
「我が妻フランとも仲が良かったでな。そんな事もあるじゃろう」
「婆さんが……そっか。シュテルとは会ってたんだ……」
どうやら竜王様とソラは納得しているようだ。婆さんとやらはソラに色々と教えてくれた人物の事だろう。その割には随分と苦手意識を持っている様子だけど。よっぽどスパルタだったのかな? と言うかその人が聖女で間違いないの?
『おそらく杖の力で延命していたのでしょう』
最近まで生きていたって事?
『最近とは言っても二百年程前の話だとは思いますが。延命も二、三百年で限界を迎えたようですね。挙げ句転生とは。随分と生き汚いと言うか。往生際が悪いと言うか』
竜王国で暴れたって話と合わせると、聖女の人物像が途端に物騒なものになるよね。
『まあ、彼女ならやるでしょうね。間違いなく』
そっか。ネル姉さんは知っているのか。
『私も知ってるよ。後で詳しく聞かせてあげる。きっとエリちゃん驚くよ♪』
えぇ……なんか知るの怖くなってきたぁ……。




