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05-41.姉妹喧嘩と世界平和

 早朝、まだ日も昇らぬ内にマルコス氏一行が州都を出ると、想定通りに神器を持った追跡者達が現れた。彼らは一行から十分に距離を保ったまま追跡を続けている。どうやらヴァイス家から大きな力が消えた事には気付いていないようだ。


 そしてどうやら州知事殿は向こう側らしい。昨晩の内に追跡者達に向けたであろう手紙を部下に託した場面を目撃している。この情報も後でリタのお父上に届けるとしよう。



『このまま泳がせておくのですか?』


「マルコス氏にも危機感を抱いてもらわねばならん。制圧は襲撃が始まってからだ」


『既に裏が取れているのだから止めた方が良い。なんて事は言わないのですか? キトリ』


『意地悪言わないでよ。言ったら怒るくせに』


『当然です』


 ルベド。


『喧嘩はしていません。牽制しただけです』


 そういうのもダメだってば。


『わかりました。ギンカがそう言うのなら』


『ルベちゃんってエリちゃんの事大好きだよね』


『あんなにツンツンしていたのに。落ちるの早すぎですね』


『うるさいです』


「キトリとネル姉さんも仲良くしてってば」


 もう。何時まで経っても落ち着きそうにないんだから。



『そろそろ分けてはどうです?』


「キトリから目は離せないよ」


『まだ? なんで? 絶対服従するまでダメって事?』


「そこまでは言ってないさ。けれど困ったな。誰かにユーシャの方を頼みたかったのだが」


『私が行くわけにはいかないでしょう。ルベド姉さんとキトリを残してしまえばギンカの負担が増えてしまいます。かと言ってキトリにユーシャは任せられません。ならばここはルベド姉さんが適任かと』


「う~ん……」


『ギンカ……』


「それは無しで」


『甘すぎです! と言うかなんですか今の! ルベド姉さんはそんな甘え方する人じゃなかった筈でしょう!?』


『うるさいです。ここで大きな声を出さないでください。ギンカが嫌がるでしょう』


『ギンカギンカって! そんな姉さんにはがっかりです!』


『ネルちゃんが言えた事かなぁ』


「キトリは全方位に喧嘩売らんと気が済まんのか?」


 今のままじゃ普通に嫌な奴だぞ?


『うぐっ……』


 あ、しまった。思わず考えてしまった。


『むしろ今まで隠せていた事の方が器用です』


『普通はギンカのような表層意識の制御なんかできません』


『無駄に器用だよね……』


 お陰様でな。



 まあいいや。話進まないから一旦放って切り替えよう。


『私まで一緒にしないでください』


『ズルいです! ルベド姉さん!』


『ルベちゃんとネルちゃんもまあまあ仲悪いよね』


 なんだかなぁ。



「エリク」


「おはよう、ユーシャ。シュテルとキャロちゃんも起きたのか?」


「ううん。まだ寝てる」


「そうか。こちらへおいで」


「うん」


 ユーシャを膝の間に座らせて後ろから抱きしめる。



「疲れてる?」


「少しな」


「良いよ。好きにして」


「ならこのままだ。もう少しな」


「うん」


 ユーシャを抱きしめながら考える。現状共和国の問題も教会の問題も直接的には手を出せない。出来るのは下っ端を倒して警告する事くらいだ。後はリタのお父上や教会の者達自身に委ねる他ない。


 でなければ力尽くで事を起こすしかなくなってしまう。もしリタのお父上や現大統領がベリル氏に敗北したなら、或いは教会の者達が性懲りも無く手を伸ばしてきたなら、その時は私達が動くしかないだろう。力尽くで神器を奪い取り、ヴァイス家に手を伸ばす悪党共を退けるしかなくなるのだ。


 そんな事態は避けねばならん。その時は私達が矢面に立たされてしまう。下手をするとカルモナドも巻き込まれるやもしれん。再びカルモナドが抱える神器を奪い取ろうと、今度は教会も本気で戦力を送ってくるかもしれん。小細工を弄するのではなく、力尽くで事を成そうとするかもしれん。


 だが現実的に考えるなら距離的に戦争など不可能だ。片道に年単位の旅路を要するのだ。やるとしたら道中の国々を征服して世界を統一でもするしかない。そうでなければ軍を送り込める筈もない。彼らが転移やそれを為す神器を持っていないのであればの話だが。



『もう一つ懸念があります。かの国は竜王国と隣接していますから』


 そうだった。そっちの問題もあったのだな。ソラの件が届けば結託して攻め込んでくるかもしれん。国を成す程のドラゴンの群れに攻め込まれては、いかなカルモナドと言えど抵抗は不可能だろう。またたく間に攻め滅ぼされてしまう。



『竜王とは面識があります。顔繋ぎを受け持ちましょう』


 予定より随分早いけどやむを得ないね。ヴァイス家の騒動に区切りがついたらすぐにお邪魔しよう。お願い。ルベド。



『はい。先に行って挨拶しておきましょう。後は任せましたよ、ネルケ』


『はい! ルベド姉さん!』


『私は?』


『キトリはくれぐれも邪魔をしないでください』


『しくしく。お姉ちゃんが冷たい』


 自業自得じゃないかな。


『うぐっ……エリちゃんまで……』


 私達が何度言っても突っかかってきたのはキトリの方だ。


『それは……悪いと思ってるけどさ……でも譲れないものはあるわけで……』


 勿論それが悪いと思っているわけではないさ。ただ少し感情的になり過ぎていたのだ。キトリだけの話ではないがな。


『……うん。そうだね。気を付けるよ』


 うむ。気長に良い関係を築いていくとしよう。私達もその為の努力を続けよう。姉妹とだけでなく、世界中の人々と手を取り合っていけるように。かつてルベドが興したエルメラのように。

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