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05-39.神器

 一通り聞きたい事を聞き終え、二人を送り返す事にした。どうやらラシェルさんが二ネットさんを守ってくれていたようだ。そこは問題無いと言うので信じる事にした。



『だからってこのまま放置はダメだよ。何かしらの形で決着をつけないと』


 キトリも少しだけ譲歩する姿勢を見せてくれた。正面から彼らに盗みを謝罪するのではなく、御神体が消えた事による騒ぎさえ収めるなら方法は任せると言ってくれたのだ。



「どの道我らも話はつけねばならん」


 今後もカルモナドに妙な細工を続けられるのは困る。共和国の方だってそうだ。マルコス氏関連は解決の目処が立っているのでよしとしよう。その清算までとなればより条件が厳しくなってしまうからな。



『潜伏者達を纏めて送り返せば手を出してはならない相手と認識するでしょう』


『それは脅すって事?』


『交渉です。至極平和的な』


 落ち着いて二人とも。仲違いはダメだって。二人の気持ちはわかるけどもう少し仲良くしよう。キトリ、ルベド。



「神器の回収を諦めさせるのはどうかしら?」


 リタ?



「何か名案があるのか?」


「そもそも神は望んでいないのでしょう?」


「神器の回収をか? 何故そう思う?」


「だって教会の信仰を認めていないじゃない。偽名を名乗るっていうのはそういう事よね。その教会が神の与えた力を集めるのは神の意思に反しているのではないかしら? そもそも神は特定の集団の為じゃなくて、困っている誰かの為に神器を与えてくださっている筈なのでしょう? 今のように王国や教会が神器を巻き上げていくやり方は否定したいのではないかしら?」


 ふむ……。



「ネル姉さんは何か知っているか?」


『……いえ。主様は何も』


「ルベドはどうだ?」


『……』


「話し辛い事なら」


『ダメだよ、エリちゃん。そうやって甘やかすから話しが進まないんだよ』


『キトリはルベド姉さんの件では口出ししないでください』


「いや。キトリの言う通りだな。すまん、ルベド。今回ばかりは話しておくれ。私は家族を守りたい。家族の大切なものもだ。脅威を退けるのに役立つ事ならば知っておきたい」


『……私も知りません。少なくともギンカが知りたいであろう事は』


「そうか。ならばいい」


『よくないんだけどなぁ』


『キトリ!』


 こっちもこっちで前途多難だなぁ……。



『少なくとも創造主様は期限を定められませんでした』


「そうね。神器は自壊する事も無く残り続けているものね。本来なら役目を終えた時点でこの世界から消えるべきよね。そういう意味では王国と教会のやり方も間違ってはいないのかしら。彼らが一処に集めてくれているから世界中で混乱が生じていないんですもの」


 確かに。やり方はともかく容認されるだけの理由もあるのだな。



「女神様の代弁者として神器の回収をやめるように伝えるのは難しかろう。一部の者達は従うかもしれんが、それで教会全体が完全に諦めるとも思えん」


「けど足を引っ張る事は出来る筈よ。一部でも此方側についてくれるならそれで十分よ」


『不和を撒く為にお母様を騙るなんて許さないよ』


『この件に関しては私も同意します』


 キトリとネル姉さんは反対か。



「貴方達の理想とする解決方法なんて存在するのかしら?」


「そんな言い方はやめておくれ」


「放っておく事は許さない。けど手段は選べ。彼らを争わせる事なく事態を収めてみせろ。そんな無茶を言われても正直困ってしまうわ。だってそうでしょ? 彼らは元々相容れない存在なんですもの。私達とだけじゃないわよ? 彼ら自身も内部で競い合いをしているのよ? 姿を表さず、声も届けず、名をも偽る神なんてとっくに見限られているのよ。彼らが偽名の事を知らなくたって、自分達が軽んじられている事はわかっているの。私達と同様に彼らの信仰もとっくに失われているの。残った信奉者なんて本当にごく一握りの筈よ」


 困った。返す言葉も無い。リタの言う事はどれも正論だ。



「けれどそんな人達ですら実在の女神を信仰しているわけじゃない。ただ教会が説く教えに賛同しているだけ。それを心の拠り所としているだけなの。そしてだからこそ皆は自分達の為に頑張っているの。今更神やそれに準じる者が上から目線で指図してきても従う筈が無いじゃない」


 そこはある意味女神様がご自身で望まれた事なのだよな。



「言っておくけどキトリが乗り込んだって意味は無いわよ。誰かの私欲の為に利用されるだけ。既に神は部外者なの。それを履き違えて影響力を過信してはダメよ」


「影響力はあるわ。わかりやすく力を示してやればいいの。たったそれだけで多くの人が従うでしょう。例え私利私欲の権化が支配層にいるのだとしても、表面上は傅くでしょう。リタも言った通りよ。私欲を満たす為に近づいてくるわ」


 結局は変わらんだろうがな。ともかく今回の事態を収めるという目標は果たせるだろう。



「そうね。ニア姉さんの言う方法なら手っ取り早いわね。ならいっそ盗み出してはどうかしら? 全ての神器を奪い取ってしまえば彼らが私達に歯向かう事はなくなるわ。彼らがやろうとしている事を彼らにやり返してあげましょう。世界中全ての神器を私達の下に集めてしまいましょう。それで世界は幾分か平和になるわ」


 極論だな。流石に賛同はしかねるがな。あながち間違っているとも言えんのが問題だが。



「どの道私達が動き続ければ神の意思と認識されるのも時間の問題よね。既にネル姉様が名乗ってしまったんだもの。今はまだカルモナドの一部しか知らない事だけど、いずれ必ず世界中に広まると思うの。教会は選択を迫られるわ。私達を敵と定めるのか、或いは私達と同調するのか。素直に信仰はしないでしょうね。女神様の御遣いとして手厚く"保護"しようと動くでしょうね。例え私達を軟禁したとしても。そしたら今度は世界中で鬼ごっこしなきゃいけなくなるかもね。案外リタの提案も悪くないのかも。今のうちに敵の戦力を削っておかなきゃ後で後悔する事になるのかも」


 パティまでそのような事を……。



『神器の回収案には賛同します』


 ネル姉さんもなのか?



『ですがそれはあくまで不必要な者からです。役目を終えた神器はこの世界を去るべき。リタのその言葉には賛成です。教会や王国のように溜め込んでいる者達からは取り上げましょう。主様が直々に与えたものについてはそのままに。これを我々の役目とするべきではないでしょうか』


 それは……私達も神器なのだぞ。姉さん……。

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