05-38.思わぬ再会
「あっ! 貴方様は!?」
「昼間は世話になりましたね」
もう一度姉さんに頼んで女神様風の姿に変えてもらうと、拘束を解かれた二ネットさんはすぐさまその場に跪いた。
「!?」
もう一人の尋問官さん? は一瞬驚きこそしたものの、完全にこちらを疑っている様子だ。私が女神様だとは思っていないのだろう。視線が明らかにそう物語っている。
「二ネット! あれは違います! 断じて我らの主ではありません! 目を覚ましなさい! あなたは騙されているのです!」
何やら確信している様子だ。いったい何を根拠に言い切っているのだろう。
『目です。レティと同じです』
あっ! そうか! あの神器か! まさかあれを使う者がレティ以外にも居たとはな。
「いかにも。私は女神様本人ではありません」
「そんな!?」
「私は女神様の御遣いです。ある意味貴方がたとは志を同じくする者です」
「よくもそのような戯言を!」
「そもそも私は自分が女神だなどと名乗った覚えはありませんよ。貴方がたが勝手に勘違いなされたのです」
「御神体を盗みだしておいて言い逃れするつもりですか!」
「彼女は女神様の娘、つまり私の姉です。そして私には彼女を目覚めさせる責務があります。それが女神様より賜った使命なのです。強引な真似をした事は謝罪します。ですから話をしましょう。先ずは誤解を紐解いていくと致しましょう」
「!!?」
その時突然キトリが姿を表した。キトリの顔を見て、尋問官さん(仮)は先程より大きく驚きを示した。
「き、キトリ様!?」
およ?
「久しぶり。ラシェル」
ありゃ? 知り合いだったの?
「色々ごめんね。混乱させてしまったよね。ちゃんと説明するから話を聞いてくれるかな? この人が今言った事は全て本当だよ。私が保証する。私達はただ姉を目覚めさせたいだけなの。虫がいいとは思うけど、信じてくれると嬉しいな」
「はっはい!!」
何さそれ。そういう事なら先に言ってよもう。
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ラシェルさんは二ネットさんの上司にあたる人だそうだ。そして十五年前にキトリを導いた者でもある。別に尋問官でもなければ、当てずっぽうで私達を否定していたわけでもなかったのだ。キトリのやり方を知っていたからこそ、私達の行動に疑いを抱いたのだ。十五年前はまだ神器を持っていなかったのだろう。キトリの魂の形までは知らなかった筈だ。
「何故話さなかった?」
「……ごめん。変わりすぎててわからなかった」
本当にそれだけか?
「ほら、エリク。もうそこはいいじゃない。話を進めましょう。でないとまた謝罪合戦になってしまうわよ」
そうだな。完全に悪いのは此方側なのだが、ラシェルさんの方が恐縮してしまっているのだよなぁ。無理もないけど。
「どうぞ何なりと」
完全に私達を認めてくれたようだ。キトリが気付いてくれて良かったと割り切ろう。
もういっその事と思い、包み隠さず一通りこちらの状況を伝えてみた。
「教会は一枚岩ではありません」
だよねって感じだ。正直そこはわかってた。
「ご懸念の通りです。神器を回収する為の計画は動いています」
こっちもあっさり認められちゃった。
「申し訳ございません。私には止められるだけの力がありません」
流石にそこまで都合の良い展開は期待してないさ。
「御神体の件も同様です。失われた事はすぐに皆の知る所となりました。これは決して二ネットが口を滑らせたわけではありません。始めから監視されていたが故なのです」
そこは私達の迂闊さが招いた事だ。勿論責めるつもりは無いともさ。
「皆様が表舞台に出る事態は避けるべきかと」
つまりラシェルさんは私達が大聖堂に謝りに行くのは反対なのだな。まあそうだよね。二ネットさんのような信者はともかく、ラシェルさんのような理解者はそうそう現れないだろう。彼女が子供の頃にキトリと会っていたから事なきを得ただけだ。大多数の者達は私達を利用しようとするか、大切な御神体を取り戻そうとするかのどちらかだろう。或いは私達が女神様の代役を務めるかだ。何らかの形で責任を取る必要が生じるだろう。しかし今の私達はどれをも選べない。私達には私達の生活がある。大聖堂に閉じ込められては困ってしまう。
「エリちゃん約束してくれたよね?」
そうなんだよなぁ。あれは早まったよなぁ。
「後悔してる?」
「正直」
「ダメだよ。私は変えないからね」
「キトリ様。幼き私は貴方様のお考えに甚く感銘を受けました」
「まるで今は違うって言いたげだね」
「我々人間は皆、大切なモノを守る事で精一杯なのです。善人であれ、悪人であれ、それは変わりません」
「そうやって取り零していくのが正しい事なの?」
「はい。本当に大切なモノを守る為ならば取捨選択も必要です。私はそのように考えを改めました」
「そっか。大人になったんだね。ラシェルも」
「はい。キトリ様のお陰です」
「……うん」




