01-32.大切なもの
「名前を付けましょう」
「何だ?もう子供が出来た未来でも妄想しているのか?
というかお主、まさか男だったなどと言わんだろうな?」
「誰が貧乳ですって?」
「言っとらんだろうが」
それとあれだ。
私は好きだぞ。パティの体。
何せバランスが良いからな。
うちの娘に想う所があるわけでは勿論無いが。
「まったく!失礼しちゃうわ!
こんな美少女つかまえて男だなんて!」
「そうだよ、エリク。
今のは失礼だよ」
「ああ、すまぬ。失言だった。
パティの美貌は認めているとも。うむ」
容姿だけは良いんだけどなぁ……。
まあ、性格も言うほど悪くはないようだが。
「あらあら~♪
エリクは私にホの字なのね~♪」
ちょいちょい時代遅れな言葉が出てくるのは何故なのか。
やっぱり中身おじさんなのではなかろうか。
「まさかお主、前世の記憶があるなどと言わんだろうな?」
「藪から棒に何よ突然」
「いや、何でもない。
話を戻そう」
この話題は止めておこう。
実は中身男だとか聞かされても反応に困るだけだ。
既に娘との風呂まで許してしまったのだ。
場合によっては始末せねばならんくなる。
「エリクがパティに惚れてるって話だったよね?」
「違う。そんなわけなかろう。
そしてもっと前の話だ」
「私とユーシャが子作りするって話?
良いわよ。方法を探してみましょう。
ディアナを救った後にね」
「なら私が男になる。
それで、エリクとパティ纏めてお嫁さんにする」
な!?
「きゃぁ~~~!!!
今の聞いた!?ねえ!聞いた!?
ユーシャったら!なんて可愛いの!
なるなる!私ユーシャのお嫁さんになるぅ!」
「させんわ!!
違う!その話でもない!
名付けだ!何に名付けると言うのだ!」
「だから♪
私達の子供によ♪だーりん♪」
「誰がだーりんだ!
お主のだーりんはユーシャという話だったろうが!」
「お義母様の許可も出たわ!
早速式をあげましょう!」
「は!?違う!ダメだ!認めんぞ!
そもそもユーシャはまだ未成年だ!」
「なら婚約よ!
取り敢えず指輪買いに行きましょう!
最高の素材で仕立てさせるわ!
安心して!良い職人知ってるから!」
「やめんか!!」
「お二人共。どうかそこまでに。
これ以上騒ぐならつまみ出しますよ」
「「ごめんなさい」」
まったく。何で私まで……。
「エリク様。
パティが申し上げているのは、エリク様のお力の件です」
「力?」
どゆこと?
必殺技みたいに叫ぶの?
「名前は指標よ。
これも自身の力を把握するのに必要なプロセスよ」
こやつ、いきなり落ち着きおったな。
いや、今もユーシャを抱きしめて頬ずりしているのだが。
取り敢えず声音だけは落ち着いておる。
「話はわかったが、それはどうなのだ?
必要以上に縛ってしまうのではないのか?」
「うふふ♪良いとこ突くわね♪
でもそれで構わないのよ。
縛るのが目的なんですもの」
「どういう事だ?」
「そのまんまよ。
名前で縛って小分けにしていくの。
そうして手札を増やしていきましょう。
多すぎて扱いきれなくなったら整理すれば良いんだから。
その頃には力の理解も深まっているはずよ。
新しい力の使い方や組み合わせなんかも、自然と理解できるようになるわ」
「うむ……まあよい。任せよう」
「ふふ♪少し想像し辛かったかしら♪
大丈夫よ。私が導いてあげるわ。
私達、長い付き合いになるでしょうしね♪」
「……どうだかな」
「何よ。思わせぶりな態度ね」
「エリク?まさか?」
「違うぞユーシャ。そうではない。
ユーシャがパティにセクハラされすぎて拒絶する可能性の話だ。愛想を尽かして別れを切り出すのも無いとは言えまい」
「無いよ。絶対。パティが裏切らない限り。絶対に」
本当に。よく懐いたものだな……。
「ユーシャ。
これをあげるわ」
自らの指から抜き取った指輪をユーシャに着けたパティ。
「え?」
「これは私のお母様から貰った大切なものよ。
婚約指輪と思って受け取って頂戴」
「ダメ!そんなのダメ!」
「ふふ♪冗談よ♪
その辺の露天で買ったお気に入りよ♪
これでも気持ちは伝わるかしら?」
「……ダメ。返す。受け取れない」
「どうして?
嘘をついていたから?」
「そう。信頼の証としては不適切。どっちにしても。
お母さん大切にしない人、私嫌い」
「……そう。そうよね。ごめんなさい。
あはは。失敗しちゃったわね。
少し調子に乗りすぎたのかしら」
あまり褒められた冗談ではなかったな。
まあ、どちらが本当の事であったのかはわからんが。
何にせよ、あの指輪は大切な物に違いあるまい。
一瞬だが、ホッとした様子を見せていた。
本人は隠しきったつもりであろうがな。