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05-29.正義と秩序

「し、司祭の二ネットと申します!!」


 元気いっぱい司祭さんは虚空に向かって言葉を放った。



「私はこちらです」


「しっ失礼致しましたぁ!!?!」


 あかん。また別方向向いてる。面倒くさくなってきたな。首尾良くこの人以外を追い払う事は出来たけど、このままじゃまともに話も進みそうにない。いっそ姿を表すか? けど今日も黒ゴスだぞ? 神様っぽくないんじゃないか?


『私が変えてあげましょう♪ 主様っぽくすれば良いのですよね♪』


 じゃあお願い。ネル姉さん。


『はい♪』


 それからルベドも。


『はいはい』


「わっ!? わわっ!? まさかお姿まで!!」


「落ち着きなさい」


「はい!!!」


 ダメだこりゃ。


 それから暫くして、司祭さんが落ち着いたのを見計らってから声を掛けた。



「二ネット」


「はわっ!? 私の名前を!?」


 一々大げさに遮るな。



「はっ!? 大変失礼致しましたぁ!!」


 一応目を合わせればこちらの気持ちを察する事は出来るのだな。あの神器を持たされていたくらいだから相応の立場なのだろうか。


『いえ、司祭はそこまででもないですね』


 まあそうだよね。この落ち着きの無さでお偉いさんって事も無いよね。ならたまたまか。大丈夫? 後で紛失したって怒られない? 一応目撃者はいっぱいいたから心配要らないか。



「説明を。二ネット。貴方達は何故私を追いかけ回したのですか?」


「たっ大変失礼致しましたぁ!!!」


「一々大声を出さないでください。そこまで恐れずとも問答無用で罰したりはしません。ですから先ずは説明を。何故あのような事をしでかしたのですか? 私が隠れている事に気付かなかったわけではありませんね?」


「はわっ!? つまり答え次第で罰される!?」


 ついに心の声まで喋りだしたな。



「落ち着け二ネット! 責任重大よ! 総勢一億の信徒達の命運はこの手に! いっ一億!? そんなの無理だよぉ!」


 自分の言葉にすらダメージを受け始めたぞ? あと一億は流石に盛りすぎじゃない? カルモナドみたいに全く信仰していない人達も少なくないと思うよ?



「でもここを乗り越えれば私も晴れて聖女様に!? 主のお言葉を直接耳にしあまつさえその御姿までをもこの視界に収めた唯一の存在となるのだもの! きっと皆もちやほやしてくれる筈よ! だから頑張れ二ネット! 負けるな二ネット! きっと未来は明るいわ!」


 取り敢えず私の事は神本人だと思われているようだ。地味に収穫だな。



「もうよいです。先程の件は不問と致します」


「はっはい!! (なっなんで!? 私まだ何も言ってないよ!? はっ!? まさか私の誠意が伝わった!? 言葉にするまでもなく!? 流石です! 主よ! 一生ついて行きます!!)」


 また漏れてるよ? もしかしてわざとなの? 私を試してるの? そもそも誠意なんか欠片も無かったよね? 欲望ダダ漏れだったよね?



「あわわ!?」


 やはり視線には敏感なのだな。私の不信感は伝わっているようだ。暴走癖さえなければ本当は優秀なのかもしれない。単に人の顔色を伺って生きる癖が身についているだけかもだけど。



「二ネット。これから私は行く所があります。貴方が伴をなさい。他の誰をも近づけてはなりません」


「はっ! はい!!!」


「よろしい。では行きますよ。貴方が先導なさい。露払いは任せましたよ」


「はい! ……え? えっと、どちらに?」


「はぁ……」


「はわっ!? (私なにか聞き逃してた!? 主の言葉聞き逃してた!?)」


 まあ言ってないけど。なんかこのまま押し通せそう。



「私は娘の身体を回収しに参りました。貴方達が神体と称するものが収められた聖櫃に用があります」


「え!? 娘!? えっ!? えぇぇぇええええ!?」


 こいつ普通に無礼だな。いや、私は別に神様でもなんでもないんだけども。実は気付かれてる? おちょくられてる?



「まさか場所がわからないと言うのですか? ならば他の者を」


「分かります! ご案内致します!」


「案内ではなく先導しろと言ったのです。貴方の役目は露払いです。間違えないでください」


「失礼致しましたぁぁあああ!!」


 やっぱり人選間違えたかなぁ。でもまあ、お陰で都合良く話しが進んでいるのも事実だし。もう少しだけ付き合ってもらうとしよう。後は首尾良くニタスの肉体を回収したらさっさと帰るとしよう。うん。




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 なんだかんだと目的の場所まで邪魔が入る事もなく辿り着けた。案外と二ネットには人望があるのだろうか。本当にここまで人払いしてくれるとは。それともあのガラス玉以外にも私達の力を察知する何かがあったのだろうか。



「これですね」


 あら? 開かない?



「主よ? これには封印が……」


 あかん。不審がられてる。


『任せてください』


 ルベドが力を流すとあっさりと聖櫃の蓋が動き出した。


「おぉ!? やはり貴方様は!?」


 嘘でしょ? 今の今まで疑ってたの? いやさっきまでそんな様子無かったよね?



「? あれ? 二人?」


『キトリ!? どうしてここに!?』


 聖櫃の中には二人の少女が眠っていた。そして何故か二人共素っ裸だ。片方の少女にもう片方の少女が絡みつくようにして寄り添っている。まるで雪山で遭難した時に身体を温めようとするかのように。


『おそらくキトリは二タスを目覚めさせようとしたのでしょう』


 なるほど。けれど今はキトリも完全に機能を停止しているようだ。これは二タスが二度と目覚めないとされている事に関係があるのだろうか。


『無茶をしたものです。キトリを目覚めさせるにも少し時間がかかるかもしれません』


 ならとにかく回収して引き上げよう。こんな姿を大勢の前に晒したくはないし。


 アウルムに二人の身体を回収させて聖櫃の蓋を閉じ、ルベドによって再び封印が施された。



「二ネット。今見たことは誰にも伝えてはなりません。約束できますね?」


「えっと……ですが……」


「で・き・ま・す・ね?」


「はっはい! 決して漏らしません!!」


「よろしい。では行きますよ。もうここに用はありません」


「はい!!」


 再び司祭二ネットの先導で転移妨害の結界から脱出した私達は、他の誰に呼び止められる事もなく、無事に自宅へと帰還した。聖櫃の中身が空になったと知られれば問題になるかもしれぬが、流石にそれはあの司祭さんもわかっているだろう。口外はしない筈だ。けど念の為今度また様子を見に行くとしよう。私達のせいで罰せられていたりしたら寝覚めが悪いし。物が物だけにその時は命も無いかもしれないからね。万が一の時は救い出してやらねば。けど今晩は忙しいんだよなぁ。これからキトリ達も目覚めさせなきゃだし。マルコス氏達の件もあるし。アウルムの一部でも……え? 切り落としてきた? 流石だな。ありがとう。アウルム。やはりお前は頼りになるな♪

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