05-27.言葉足らず
「それで? 今日はどこに行きたいのだ?」
ユーシャと手を繋いで二人で歩く。ふふ♪ これこそ至高の時間だな♪ 薬瓶時代は考えられんかった事だな♪
『まだ屋敷も出ていないのに大げさな』
いいの!
「ネルお姉ちゃん」
『なんですか?』
「キトリお姉ちゃんを探しに行きたいの。聖教国に連れて行って」
え? え? なんで? デートって? え?
『可愛そうに。こんなに動揺したギンカは初めて見ました』
『大丈夫です。ギンカ。傷は浅いです。デートのついでに人探しをすると思えば良いのです』
「そうだよ。ルベドお姉ちゃんの言う通り。少しずつ聖教国の事も知っておこう。今回見つけらなくてもいいからさ」
ああ。そうか。下見をしておこうと。なるほど。流石は私のユーシャだ。いつの間にやら思慮深くなっちゃってまあ。
「ネルお姉ちゃんがエリクの方に戻っちゃったから。私も便利なお姉ちゃんが欲しいの。キトリお姉ちゃんを一緒に見つけてくれる?」
あれ? 不思議なポケット扱いなの?
『便利とはなんですか。失礼しちゃいますね。ユーシャも少しはギンカを見習ってください。大したことでなくとも私の力を頼るんですから』
「なんで? いいじゃん。減るもんでもなし。折角便利な力があるんだから使わなかったらもったいないよ。だってネルお姉ちゃんだって使う為に努力して身につけたんでしょ?」
『ユーシャの為にならないと言っているのです。あなたが何の力も持たぬのはただ使い方を知らないからです。人間に師事しているだけでは真の力を発揮する事なんて出来ません』
「私の中に居た時はそんな事言わなかったじゃん。何でもお願い聞いてくれたじゃん」
まあネル姉さんは甘いからな。特にユーシャ相手だと尚の事。
「ネルお姉ちゃんが付きっきりで教えてくれるならそれでも良いんだよ? 私の中に帰ってきてくれる?」
『うぐっ……』
葛藤してらっしゃる。
『こちらは気にせず帰っては如何です?』
ルベドはお口チャックね。
『今は出来ません……』
「ならキトリお姉ちゃん探しに行こうよ。キトリお姉ちゃんには私のお師匠様になってもらうね」
『ぐぬぬぅ……』
仕方ない。少し助け舟を出してやるか。
「メアリとタマラもおるだろうに。焦って修行時間を増やす必要は無いのでないか?」
確かにユーシャ固有の力については姉さん達の教えを受けねば開花せんのかもしれんが、極一般的な人としての戦闘技能もそれはそれで大切なものだ。魔術は無理でも体術は成長を続けているのだ。今の調子で続けていれば十分に強くなれる筈だ。人知を超えるのはその後からでも遅くはあるまい。だからこそネル姉さんだって何も教えなかったのだろうし。
『そうです! そうなんです! 流石は私のギンカです!』
「エリクは私のだよ。勘違いしないで」
『そもそも三人ともギンカの所有物なのでは? 勿論私は認めていませんが』
仲良くね~。
「まさかと思うがネル姉さん。私の所に戻る事をユーシャに相談せんかったのか?」
「されてない。朝起きたら居なかった」
『あはは~……ごめんなさい……』
ネル姉さんの言葉が足りないのは何時もの事だがな。
『仕方がないのです。私達が何でも導いてしまえばギンカ達の成長が滞りますから。特にネルケは難しいのでしょう』
あら。まさかルベドから擁護の言葉が出るなんて。
『なんですか? 不満ですか? 仲良くしろと言ったのはギンカですよ?』
不満なんてあるわけないじゃん。普通に嬉しいだけだよ。
『ルベド姉さん!!』
『うるさいです。後は貴方達で勝手にやってください』
「そっか。それで。うん。やっぱりネルお姉ちゃんは帰ってこなくていいや」
『そんなぁ!?』
「ルベドお姉ちゃんと仲良くするんでしょ? それも大切な事だよね。寂しいけど我慢するから。だから頑張ってお姉ちゃん」
『ユーシャぁ! お姉ちゃん頑張りますぅ!!』
「うん。だからキトリお姉ちゃん探しに行こう。ネルお姉ちゃんの代わりが必要だもん」
『はい! 任せてください!』
なんだかなぁ。
「あまり遅くならんうちに行くとしよう。今晩あたり向こうにも動きがある筈だ」
マルコス氏がヴァイス家の町と最も近い州都に辿り着く筈だ。夜は念の為私も家で待機しているべきだろう。何時出動となるかわからんからな。一分一秒を争う事態になる可能性もある。毒でも盛られたら命を落とす前に治療しにいかねばならんし。
「そっか。じゃあ早く行こう」
「うむ」
私達はネル姉さんの開いてくれた転移門をくぐってグレイス聖教国へと足を踏み入れた。
「しまった。ここは通貨が違うのではないか?」
『そうですね。流石に両替も難しいかもしれません』
折角のデートなのに。食べ歩きはまたの機会にだな。
『ここには二タスの身体も安置されています。回収していきましょう』
「そうか。それは……え?」
なんで? なんでしれっと教えてくれたの? 今まで頑なに教えてくれなかったじゃん!
『……』
ま、まあいいや。それだけ認めてくれたって事だもんね。喜びこそすれ、責めるような事じゃないもんね。……でもついさっき好きに動けって……いえ、なんでもありません。
「ちなみに具体的にはどこに?」
『大聖堂の最深部です。結界が張られており、直接転移で乗り込む事は出来ません。歩いて行ってください』
「それ近づけるの?」
『サポートします』
「騒ぎにならない?」
『なるでしょうね。今や女神アーエルの神体と目される聖遺物ですから。つまり崇拝の対象そのものでもある筈です』
何時も思うけどなんでそれをネル姉さんが知らんのさ。いやまあ、今回も何かしらあるんだろうけども。つまり一筋縄ではいかない筈だ。絶対。
「まさか盗ってドロンすれば問題無いと?」
『もともとあれは私のものです』
自分は所有物扱いされるの嫌がるのになぁ。
「良いよ。そこに行ってみよう。もしかしたらキトリお姉ちゃんも一緒にいるんじゃないかな。取り戻そうとして失敗しちゃったのかも。けどこっちはネルお姉ちゃんとルベドお姉ちゃんの二人がかりだもんね。それに何よりエリクもいる。きっと二人とも救い出せる筈だよ」
えぇ……。十五年前の時点、つまり五百年近く生きたキトリでも無理だったなら私なんて足手纏にしかならんだろう。ここは素直にネル姉さんとルベドに行ってもらった方が良いんじゃない?
『私達では気付かれかねません。この地にはカルモナド以上の神器が集まっているのです。中には力を感知する類の物も含まれるでしょう』
『幾つか心当たりがあります。対策はお任せください』
ルベドとネル姉さんが全力で支援してくれると言うなら試す程度の事はやぶさかでもないが……。
結局デートはしないの? 今日の所は情報収集でもしながらノンビリ食べ歩きとかするんじゃなかったの? いきなり最終決戦は想定外なんですけど? これならアニタ達にも声かけとけばよかったじゃん。大勢で行った方が危ないのかもしれないけどさぁ。
「本当に夕食までに帰れるのだろうな?」
『それは貴方達次第です』
『大聖堂の中でキトリを見つけたら奢らせましょう。私達に心配をかけた罰です』
いや、食事の心配をしてるわけじゃ……。と言うかさっき話したじゃん……。わざとすっとぼけてるんだろうけどさ。
まあいいか。危なそうなら早々に撤退するとしよう。姉さんズがこれだけやる気出してるのに失敗する可能性も考えづらいし。最悪の場合はアニタ達に助けに来てもらおう。バックアップが残っていると思えば心強いものだよね。うん。
それにしてもユーシャもルベドもネル姉さんも姉妹揃って何時も言葉が足りないよね。そもそも女神様からしてそうだし。女神様をモデルに生み出されたエーテルシリーズが似たような言動になるのも致し方のない事なのかもしれない。もうちょっとコミュニケーションを大切にしてもらいたいものだ。私も気を付けよう。他人事じゃあるまい。よくパティに叱られるし。まあそのパティ本人もしょっちゅう私に内緒で動くのだけども。これは類友ってやつなのかしら。




