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05-25.助手と探偵

「相変わらず動きが無いな」


 もう直マルコス氏はヴァイス家に到着するだろう。ここまで誰も仕掛けてこないとはな。全ては単なる勘違いだったのだろうか。誰も悪意なんて持っていなかったのだろうか。



「やっぱりヴァイス家で事件を起こすんじゃないかしら?」


「濡れ衣を着せるつもりか」


 それは私も考えたけども。けれどヴァイス家には相変わらず人がおらんのだ。今はお父上、お母上、キャロちゃん、エフィ、ルシア、それからメイドさんが二人。たったそれだけだ。敵の手の者が紛れ込んでいる筈もない。


 仮に、あり得ない事だがもし仮にだ。古くからヴァイス家に仕えてくれて、噂が立っても変わらず仕え続けてくれていたメイドさんが二人とも敵の配下だったとして。それだけでマルコス氏を害せるとは思えない。


 マルコス氏につく二人の護衛は相当な手練れだ。私も見ていて間違いないと確信している。かく言うマルコス氏本人だってそれなり以上の実力の持ち主だ。容易く命を奪われるとは考えづらい。当然敵もその程度は把握している筈だ。


 つまりヴァイス家に濡れ衣を着せるにしても目撃者と実行犯は別に必要だ。ならばマルコス氏一行の旅の途中のどこかで仲間に加わらせておくべきだ。一行の警戒心を弱めつつ、無理なく決定的瞬間に立ち会う為の口実になる筈だ。


 マルコス氏の移動速度が想定より早すぎて黒幕に情報が届いていないのだろうか。そんな事があり得るだろうか。彼らは馬車で移動しているのだ。飛行魔術を扱えずとも単独で馬を駆る者なら先回りする事だって出来る筈だ。わざわざ偽の文通なんてものまで仕掛けておいて動向を把握出来ていないなんて事があり得るのだろうか。



 そもそも黒幕の目的がわからん。何故マルコス氏を騙す必要があったのだ? 何故ヴァイス家を貶める必要が? 本当に目的はあの城と町なのか? 言っちゃあなんだが、今のヴァイス家は力ずくで排除する事だって容易かった筈では?


 実はカルモナド王家との関係性も理解した上で動いているのか? カルモナドの動きを封じる為に回りくどい策略を仕掛けているのか? あくまでやらかしたのはヴァイス家の者達だったと言い張る為に? そんな小細工が通用するのか?


 或いは戦争こそが真の目的なのか? ヴァイス家の取り潰しを共和国に主導させる為に? 自分達が実行役ではカルモナドに睨まれた際に本国に切り捨てられる可能性もあるものな。だからマルコス氏を誘い出そうとでもしたのだろうか。


 ならば何故手紙に誘い出す為の内容を書かなかったのだろうか。何故五年もの間、偽の文通を続けていたのだろうか。グズグズしすぎてマルコス氏本人が疑ってしまったではないか。こうなってしまっては全ての罪が明るみに出るのも時間の問題だろう。彼は指導者としては物足りないのかもしれんが、それでも優秀で誠実な男だ。どれだけ時間が掛かっても必ずヴァイス家の汚名を濯いで見せるだろう。



「焦らなくても一番怪しい所がまだ残っているじゃない」


「リタは黒幕を知っていたのか?」


「いいえ。私も知らないわ。そもそも婚約話の真相だってエリク達から聞いて始めて知ったんですもの」


「ならば心当たりは?」


「ここまで来たら二つに一つよ。犯人は州知事かメイドのどちらかね」


「メイドだと? あの二人はありえんという話だろうが」


「坊っちゃんの配下には犯人なんて最初からいなかったの。メイドの一人が偽の手紙と嘘の返事を流していたと考えれば辻褄も合うわ」


「噂の方も彼女らのどちらかが流したと?」


「そうね。もしかしたらお父様も共犯だったりして」


「ありえん」


「そう言い切る根拠は? 本人達の供述以外に何かあるのかしら?」


「そもそもそんな事をする理由が無いだろうが」


「そうね。動機は大切ね。けど本当に無いと言い切れるのかしら? エリクはあの方達の何を知っているの?」


「それは……」


「『何故』『誰が』『どうやって』推理する上で大切なのはこの三つよ。メイドやお父様には手段がある。なら後は動機を調べないとね」


「何故お母上は除外したのだ?」


「明確に動機がないからよ。婚約に賛成しているなら悪しざまに罵ったりはしないわ」


「そこはお父上だって同じであろう」


「けどスタンスの違いもハッキリしているでしょう? お父様は言い淀んだと言ったじゃない」


 婚約破棄を望むかとパティが聞いた時の話か。お父上はそんな事せず逃げてくれと返してきたのだ。



「だが結局はお父上も賛同されたではないか」


「人って追い詰められた時程咄嗟の言動に本心が反映させれるものよ。落ち着いて考えた答えに意味は無いわ」


「まるで見てきたかのように言うのだな」


「想像力を働かせただけよ。貴方達の説明に過不足があったなら私の想像もきっと間違ったものとなっているのでしょうね」


「安心しろ。私は記憶力に自信があるのだ」


「つまり私達って良いコンビって事よね♪」


 はいはい。



「まあ一つの推理として受け止めておこう。それより私はもう一つの方が気になっているのだが」


「州知事が犯人説? 少なくとも動機はいっぱいあるでしょうね。あのお城とっても綺麗だったし。思わず欲しくなっちゃうのも仕方のない事なのかも」


「少なくともそのような理由ではないと思うがな」


「それはどうして? カルモナドが厄介者扱いされているから? 人の欲望ってその程度の事で揺らぐかしら? 大昔の約定なんて今も受け継がれているとは考えないんじゃない? 実際ヴァイス家があそこまで追い詰められても気付く事すら無いんだし」


「この五年は様子見の為だったと?」


「可能性はあるわね。そろそろ誘い出そうと考えていたのかも。けど想定外のタイミングで動き出したから対応が間に合っていないのかもしれないわね」


「彼らは寄るつもりだ。ヴァイス家に顔を出す前に身なりを整えるそうだ」


「ならギリギリ間に合うでしょう♪ きっと歓待しながら仕掛けてくる筈よ♪」


「正直ヴァイス家の中に裏切り者がいると考えるよりはそちらの方がマシだな。気持ち的には」


「そういうのはダメよ。推理する時はフラットでいないと」


「だがリタの物言いはまるで他人事のようだ。ロロだってリタの家族なのだぞ。もっと言葉には気を遣っておくれ」


「ダメよ。あなたがそんなんじゃ。多くの家族を抱え込んだのだから裁定は誠実に執り行いなさい。そんな考え方をしていたらいずれこの家族だって不和を抱え込んでしまうわよ」


「……そうだな。リタの言う通りなのだろうな」


「ふふ♪ でもそんな甘い所も好きよ♪ あなた♪」


「まだ魔力は流しておらん筈だぞ? まさか横流しか?」


「うふふ♪ 何の話かしら♪ 私にはわからないわ♪」


「おい。正直に話せ」


 少なくとも魔力視で見える程の残滓は無いようだが……。



「調べてみたら良いじゃない♪ 私に魔力を流せば全てがわかるのでしょう?」


「そんな手にかかるわけなかろう。正直に答えんなら眷属化も無しだぞ」


「それは横暴よ。やっていない事の証明って難しいのよ?」


「これは全員問いただすしかないか。万が一犯人が見つかった時はリタを実家に送り返すとしよう」


「エリクの眷属から魔力を貰ったりはしてないってば。これは本当よ?」


「ルベド」


『感じますね。これはシュテルのものですね』


 は? え? そこ?


 確かにシュテルは日常的に私やユーシャから私の魔力を取り込んでいるが……。



「あはは~♪ バレちゃった♪」


 観念するのが早いな。



「流石に悪質過ぎるな」


 まさか幼児を騙して横領するとは。



「けど嘘はついてないわ。眷属から横流しして貰ったわけじゃないもの。ただちょっとシュテルちゃんと遊んでる時に魔導を体験させてもらっただけよ。不可抗力よ」


 まあ、そう言われると責めるのも違うかもだけど……。



「本当よ? 狙ってやった事じゃないの。きっと一緒に居たユーシャも証人になってくれるわ」


 買収済みというわけか。まったく。



「酷いわ。ここまで言っても信じてくれないなんて」


「人の視線と勝手に会話するでない」


 黙っていてもポンポン話しが進んでいくのだよなぁ。正直たまに鬱陶しくなる。勿論それだけじゃないけども。



「手を出せ」


「はい♪」


 少しは躊躇わない? 本当なら今の叱られる流れだよ?


『やるのですか?』


 ごめんルベド。私これ以上家族を疑いたくないの。


『そんなものに頼らなければ信じられないのですか?』


 ……。



「あれ? やめちゃうの?」


「……もう少し待て」


「ふふ♪ 本当にあと少しでいけそうね♪」


 やっぱり余計な事まで喋りすぎだな。お陰で少し冷静になれたけど。

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