05-23.帰宅
「色々と文句も言いたいところではあるけれど、まさかあんなにあっさり認めて貰えるなんて驚いたわ」
リタが若干ご機嫌斜めだ。そして同時に気恥ずかしげだ。折角独り立ちを認めてもらえたと言うのに素直に喜びづらいのだ。まあ気持ちはわかるがな。ふふ。
「お主が本気で頼み込んだからさ。リタのお父上は耳聡いお方だ。それに娘の事もよくよく考えてくださっている。この結果は必然だったとも」
「そうね。けど私だけじゃないわ。パティが話してくれたお陰よ。あれでパパも安心したんだと思うの。パパもパパで色々と企んではいたけど、パティが頑張ってくれなかったらきっと認めてはくれなかったと思う」
そうだな。魔導研究所の所長として相応しい弁舌だった。それに何よりパティは心の底からリタを求めていた。事業主の立場としてもリタを欲しているのだと訴えかけてくれた。あそこまで褒められては親としても悪い気はしないだろう。魔力至上主義な社会で思い悩む娘を見てきたのなら尚の事だったのだろう。
ただまあ、リタのお父上も中々食えない御仁ではあった。リタのお父上なのだから当然と言えば当然か。
私達がリタを引き抜いた代わりに私達の起こした問題は全て引き受けると約束してくださった。これは勿論その功績も含めてという意味だ。それに妖精王の力を間近で観察するという目的もあるらしい。
既にそれが可能な人員を放ってあるようだ。つまりリタがやろうとしていた表向きの護衛役のちゃんとした版だ。お嬢様の思いつきとは違う旅慣れた手勢を派遣してあるわけだ。
これがどういう事なのかと言うなら、つまりはリタの策が完全に漏れていたわけだ。リタは大丈夫だなんて言っていたけれど、私達が最初にあの家で話していた時も筒抜けだったのだろう。当然それ意外にもリタがコソコソ裏で動き回っていた全てが見透かされていたわけだ。まあ、リタもリタで大統領のお孫さんを呼びつけたり、旅支度の為に馬車を確保したりと色々派手に動き回っていたものな。そりゃバレるか。
これにはリタもカンカンだったけれど、それ以上にしてやられた事が悔しくて、けど独り立ちを認められた事もまた嬉しくて、なんだかんだと複雑な心境らしい。
「私達は派手にやり過ぎない程度に動くとしよう。その後始末はお父上が派遣してくださった者達が担ってくれる筈だ」
お陰様で随分と話しがスッキリしたな。私個人としては手放しで喜べる結果だ。心強い味方も出来た事だし。
「とにかく帰ろう。続きは帰ってから話し合おう」
そろそろユーシャと触れ合わないと限界だ。毎日話してはいるけど、やっぱり直に抱きしめないとだな。
「家出の支度は済んでるわ。私もこのまま連れて行って」
「いいのか? 数日くらい家族と過ごしても構わんぞ?」
「どんな顔して戻れってのよ」
まあ、うん。恥ずかしいのはわかるけどさ。
「まあいいか。ロロのついでだ。リタにも時折里帰りの機会を設けるとしよう」
それまでに私も転移を習得しておこう。無理かな? ソラも使えないみたいだし。でもやるだけやっておこう。
なんなら別に二人の里帰りはソラに飛んでもらうって手もあるな。あまりドラゴンに国境を越えさせるべきではないが、そこはオルニスに人化したソラを運んでもらえば問題あるまい。オルニスだって三、四人くらいなら運べるからな。私とリタとソラだけで行けば問題無い筈だ。うむ。完璧だな。
一先ず今回はルベドに作ってもらった転移門で一旦自宅に帰り、ユーシャとシュテルを回収してからもう一度ヴァイス家を訪れた。
「そうですか。ご尽力に感謝致します」
お父上達にも状況を説明すると嬉しそうに返してくれた。少しは肩の荷が降りてくれたようだ。まだ問題解決には時間も掛かるが、それでも国のトップに近い者が動き出してくれたのだ。後はきっと時間の問題だ。私達も何事もなく運ぶよう、しっかり護衛を全うするとしよう。
話を終えて帰宅しようとしたところで、キャロちゃんが大声を上げて泣き出してしまった。釣られてシュテルも泣き出した。二人はすっかり仲良くなってくれたようだ。お別れするのが寂しいらしい。
話をしている最中は別室でユーシャとシュテルと遊んでいてもらったのだが、今回はそう長い時間でもなかった。まだまだ遊び足りないのだろう。それに二日ぶりに会えた事も原因かもしれない。また会えなくなると気付いたのだろう。
『この子の送り迎え程度は務めてあげます』
というルベドの言葉に甘える事にして、再びキャロちゃんも連れて自宅に帰る事にした。また夕方頃に送り届ける約束だ。暫くはそんな生活が続きそうだな。代わりにロロでも置いていくか。まただんまりになっちゃったけど、お母上になら悩みも打ち明けられるかもしれないし。まあ、今日のところは連れ帰るけど。先ずは一人にさせてあげよう。きっとそんな時間も必要だ。
「私達はこっちに残るよ」
「両親の事も心配ですから。本当にお世話になりました」
ルシアとエフィはヴァイス家で過ごすそうだ。これ以上は出来る事も無いと判断したっぽい。何時までも私達に世話になるのも悪いと思ったのだろう。
「そう。ならまた来るわね。魔導の話だって全然し足りないもの」
パティは二人の手を取って名残惜しげにそう返した。パティまで泣き出さんだろうか。そんな大げさにしなくても暫くは毎日会いに来る事になりそうだけどね。シュテルとキャロちゃんの方もあるし。
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「という事で我が家に新しい仲間が増えました! リタとキャロちゃんです♪ はい拍手~♪」
この調子だとキャロちゃんが本当に家族に加わるのも時間の問題かもしれない。まだ十年は早いか。
「取り敢えず今日は一旦休みましょう。作戦会議は追々ね」
そうだな。二日ぶりの我が家だ。少しノンビリさせてもらうとしよう。マルコス氏の方も今日明日中にどうにかなるという事もあるまい。敵が仕掛けてくるとしたら、きっと十分首都から離れたところでだ。自らのテリトリーで絡め取るつもりでいる筈だ。
「待って! その前に一つ確認させて頂戴!」
解散しようとしたところでリタに呼び止められた。何か緊急性の高い大切な話しがあるようだ。そう感じ取れる程に鬼気迫る口調だった。
「私も指輪が欲しいわ! 皆のしてるそれってエリクハーレムの証なのよね!?」
図々しいな。いきなり何を言い出すのだ。確かに私もその方向性で受け入れるとは言ったかもだけど。
「勿論今すぐにとは言わないわ! 条件を教えて頂戴! 眷属になる方法もよ! そっちは嫌とは言わせないわ! 父の前でチラつかせた以上、私にも魔力を与えてくれなきゃ話しが違うものね!」
何故それを皆が揃ってる場で言うのさ。これも何かリタの作戦なのか?
「暫くは研修期間だ。仕事ぶりに応じて判断しよう」
まだリタには説明が足りていない部分もあるからな。諸々伝えてからお互い冷静に判断していかなくちゃだ。そもそもこうして連れ出せた以上は指輪も必要無いだろうに。リタは別に私に惚れているというわけでもないのだから。
「わかったわ! 期待していて頂戴!」
あれ? もう満足か? やけにあっさり引き下がったな。
『皆の反応を見ていたのですよ。彼女はこれから個別に話をつけていくつもりなのです』
それで地雷が埋まってないか確認したの?
『少なくとも自分も指輪を得る事は可能だと知れた筈です』
なるほどね。それであからさまに不機嫌になるような娘もいないもんね。
『油断していると外堀から埋められますよ。気付いたら全員彼女を受け入れているかもしれません』
まあそれはそれで良いんだけどさ。目的が眷属化なのもわかってる事だし。
『油断しないでください。彼女は野心家です。最終的な目的はこの家の乗っ取りです』
ルベドはえらく警戒しているね。けどそんな心配は要らないと思うよ。リタは確かに優秀だけど、今はまだレティやアニタ達に敵うとも思えないし。
『周りに優秀な者が多いのであれば尚更です。こういう子は経験さえ積めば急激に成長するものですよ』
わかった。そこまで言うなら気にかけておくよ。
『本当にわかっているのですか? 貴方がたはとても危ういバランスの上に成り立っているのですよ?』
そうだね。人も随分と増えたし。かと言って横の繋がりが極端に強いわけでもない。案外と普段話す人はそれぞれ限られているもんね。そういう意味では私達はまだ完全な家族になれていないのかもしれないね。
『わかっているなら良いのです。私は家族同士が争うところなんて見たくありません。私を悲しませたくないと言うなら気を付けてください』
うん。絶対ルベドにそんな姿は見せないよ。安心して見守っていて。
『まだまだ危なっかしいのです。あなた達は』
ふふ♪ 頼りにしてるよ♪ お姉ちゃん♪




