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05-22.残った問題

 パティと二人でロロを構いながら時間を潰していると、用事を済ませたリタが約束通りの時間に再び姿を表した。



「揃ってるわね♪ 結構♪ 結構♪」


 口癖なのかな?



「これから計画を話すわ。父に会ったら話を合わせて頂戴」


「結局自分で方法を見つけたのか?」


「ええ♪ でも心配しないで♪ あなた達のお陰でお誂え向きのネタが上がってくれたもの♪」


「どういう意味だ?」


「勿論坊っちゃんの件よ♪ 彼、今朝すぐに飛び出して行ってしまったの♪」


 それは当然知っているけども。ピーちゃん達に変わらず見張ってもらってあるし。彼はパティとの話し合いが終わった直後に仲間集めと極最低限の引き継ぎを一夜で終わらせて早朝馬車に飛び乗ったのだ。本気でヴァイス家周りの問題を自らの手で解決するつもりらしい。



「私は彼をサポートするわ♪ 貴方達も付き合って頂戴♪」


「サポートだと? まさかヴァイス家まで護送しろと言うのか?」


「ええ♪ 陰ながらね♪ それでピンチになったら飛び出すの♪」


 実はもう見張ってるんだよなぁ。眷属云々については当然リタにはまだ話していない。流石のリタもそこまでは想像が及ばなかったようだ。だからこれはそういう口実のお使い任務だ。脱走癖のあるリタに任せて貰えるとは思えんのだが。



「大丈夫よ♪ うちのパパはこの機を逃したりなんてしないわ♪」


 なんだかんだと言いつつ親子関係は良好なのだろうか。


 まあそりゃそうか。代々お偉いさんの家系だそうだし、当然血筋的にはリタも魔力持ちであった筈なのだろう。しかしリタは魔力を持って産まれてこなかった。魔力持ちを尊ぶこの国の者としてはいささか問題がある。家柄に相応しくないと排斥されていてもおかしくなかった。


 けれどリタの父君はリタを側に置いて自らと同じ道を歩ませようとしている。つまりそれがどんなに困難な道であってもリタになら成し遂げられると信じているのだ。当然そこには深い愛情や期待が込められている筈だ。当の本人はこんな調子だが、それでも父君の愛情を理解してはいるようだ。



 ならわざわざこっちに逃げ込んでこなくてもと思わなくも無いけれど、リタにも色々と思うところはあるのだろう。その辺は父君の様子も伺ってからだな。また強引に聞き出そうとしてはルベドに叱られちゃうし。


『一々予防線を張らないでください』


 ごめんごめん。



「ここからあの町までどれだけかかると思っているのだ。往復分まで考えれば数ヶ月はかかるだろうが」


 ルシアとエフィの二人だけなら飛行魔術で短縮も出来るだろうが、マルコス氏一行は馬車に乗って向かったのだ。つまり飛行魔術は満足に扱えん筈だ。そんなの片道一月以上はかかるだろう。流石に何ヶ月も付きっきりではいられんぞ。だからこそピーちゃん達に監視を任せたのだ。



「すっ惚けたって無駄よ! 私の目は誤魔化せないわ!」


 なにがさ。



「エリク達は何か特別な移動手段を持っているんでしょ? そうでなきゃ計算が合わないわ」


 ああ。そうだった。一度ヴァイス家に立ち寄った事はリタにも説明したのだものな。飛行魔術を使ったにしても早すぎたか。例えルシア程の魔力があったってずっとは飛んでいられない。途中で魔力を回復させる時間も考えればどうしたって日数もかかるものだ。リタは魔力を持たぬというのに飛行魔術を用いた場合の移動速度まで考慮して計算したのか。やはり目ざといな。そういうところは高評価だ。



「彼らには見せられんぞ?」


「勿論そんな事は頼まないわ。単に交代で見張りましょうって話よ♪ そうすれば負担も少なく済むでしょ♪」


 賢いな。本当に。転移の存在なんぞ知りもしないだろうに、それでも私達になら出来ると踏んで持ちかけてきたのか。



「リタはどうやって追いかけるつもりだ? 特殊な移動手段の他に馬車に並走する為の移動手段も必要だという事は理解しているのだろう?」


「意地悪言わないで。私は囮兼司令塔よ。実働要員はそちらから提供して頂戴」


 囮ときたか。私達が介入せざるを得なくなった時に身代わりになってくれるつもりなのだな。確かに必要かもしれんが、まだ色々と問題もあるように感じるな。負担が大きすぎて割に合わないのではなかろうか。



「彼らは相当な速さで移動を続けているぞ? 馬車での旅とは言え、一月以上もの間そんな相手についていくとなれば酷く過酷な旅となるだろうな。当然そこも交代要員を前提としたものなのだろう。しかし私達からすれば余計な手間がかかりすぎるな。そもそもリタ自身の事も心配だ。結局リタを守る為の人員も必要となるだろう。そこまでするくらいなら素直にリタを貰い受けて話を分けてしまった方が都合も良い。私達としてはな」


 どの道リタが家に帰らない口実も何かしらでっち上げなきゃいけなくなるんだろうし。そんな不義理を働くくらいなら最初からご両親に説明して連れ出した方がまだマシだ。



「そんな事して良いの? エリク達は極力目立ちたくないのでしょう?」


 気遣ってくれているのはわかるがな。私達がこの国でする事の全ての責任を負ってくれるつもりでいるのだろう。つまりリタは今回の件が単純に終わる話ではないと考えているわけか。これは道中マルコス氏が襲われる事まで織り込み済みだな。とすると、まさか敵の正体にも心当たりがあるのだろうか。リタはたった二晩で何を見つけてきたのだろう。



「勿論余計な事は言わんさ。真摯にお願いするだけだ」


「熱烈ね♪」


「まあ似たようなもんだ。どうせ時間の問題だし」


 こうなってくるとリタを眷属に加えてしまった方が色々と都合が良いのだよなぁ。魔術を扱えないのも実は結構困るやつだし。取り敢えず一人で放っておけないからな。それにいつか退屈したら私達の下からも逃げ出してしまいそうだし。



「あらあら♪ ふふふ♪ エリクも開き直ったのね♪」


「と言うより今はあまり余裕が無い。実は現在進行系で彼らの事も見守っておってな。これが案外と神経を使うのだ」


 自宅や学園やニアの方なんかも殆ど常に覗いてるからね。保護対象が増えると普通に疲れるのだ。回復薬成分も精神疲労までは癒やしてくれんからな。



「そんな事まで出来るのね♪ 予想以上だわ♪」


「やむを得んか。先に私の力を軽く説明しよう。計画はその上で練り直そう」


 リタがどれだけ賢かろうと私の力は常識の外にある類のものだ。想定しきれと言うのも無理があるからな。にしてはリタの想像力も良い線いっているのだが。本当にこれは想像だけで導いたものなのか?



「なら眷属にしちゃったら? もうあんまり時間ないんでしょ? リタもリタで何か準備してきちゃったみたいだし。今この場で計画を練り直す余裕は無いんじゃない?」


 そうだった。リタのお父上も既に待っているのだったな。けどなぁ。眷属化はなぁ。


 むむむ。困った。正直リタはまだ全幅の信頼がおける相手というわけでもない。下手な情報を与えてしまえば彼女の明晰な頭脳で余計なものまで紐解かれてしまうかもしれない。


 我が家に連れ込んでからならともかく、今すぐに情報だけ伝えるのは正直抵抗がある。もし仮にやっぱりやめたなんて言い出されたら面倒な事になってしまう。私達の情報はきっとリタにとっても武器になるだろう。それが脅しに使われたりなんかしたら面倒だ。私達に敵対するとまでは言わんが、より良い境遇を求めてくるかもしれない。何かそんな油断のならなさも感じてしまうのだ。



「うふふ♪ 眷属って何かしら♪」


 パティめ。余計な事を言いおって。



「睨まないで。遅かれ早かれ知る事になるでしょ」


 そうだけどさ。



「ここはリタの提案に甘えてしまってはどうかしら?」


「本気か? 余計長丁場になるぞ?」


「慎重を取るべきよ。もしもの時はモラレス家の方々にも味方になってもらいたいじゃない」


「それは……リタのお父上にも情報を明かすという事か?」


「名前だけね。私がカルモナドの姫でエリクが妖精王って事だけ伝えてしまいましょう。そろそろこっちにだって情報も届いている筈よ」


 そうか。私達が王都を騒がせていたのは既に半年以上前だものな。共和国にも妖精王の名は伝わっているかもしれん。私とした事がうっかりしていたな。つまりはリタもそういう事なのだな。



「ちなみにリタは私達の事をどの程度把握しているのだ?」


「王国最強の騎士団長を下したってあたりかしら♪」


 これはその程度じゃなさそうだな。なんなら魔導の事も知っていたっぽい。道理で埒外の力に驚かんわけだ。私達がその力で王国を騒がせた事まで知っておったのだな。いったい何時から気付いていたのやら。



「妖精王は他人に魔力を与える事も出来るのでしょう?」


 レティと爺様の決闘の事まで? 誰だ、そんな情報まで国外に漏らした奴は。あの場にいた魔力視持ちなんて王宮魔術師達くらいかと思っていたのだがな。まさか第三王子の一派にも魔力視持ちはいたのだろうか。それともレティの実力を知っていたから? あかん。思考が逸れてる。こんな事考えてる場合じゃないな。



「それって眷属になればいいのかしら?」


 ダメだこりゃ。やはり野放しにはできんな。


『結局力に頼るのですか?』


 うぐ……。


『ギンカにはがっかりです』


 待って。違うから。眷属化はしないから。


『ならどうするのです? これは彼女なりの挑発ですよ。今の話の流れから眷属化が首輪代わりであると察したのです。彼女はその首輪をかけられたがっているのです』


 そうだね。わかってるよ。リタからしたら家を出る口実にもなり、今までどれだけ欲しくても得られなかった魔力を手にするチャンスだ。けどだからこそ真っ向勝負にだって乗ってくれる筈だ。リタだけでなく、きっとリタのお父上もね。



『そうですか。なら信じてあげます』


 うん。頑張るよ。



「リタ。お父上には私から話をしよう。全て信じて任せておくれ」


「勿論よ♪ 期待しているわ♪」


 とにかく一つずつだ。先ずはリタとの約束を果たして、マルコス氏の見張り兼保護を続け、今一度ヴァイス家の様子を確認してから家に帰る。敵だとか諸々は後回しだ。いるなら必ず旅の最中に仕掛けてくる筈だ。こと守りに関してならば特段の自信もあるのだ。返り討ちにすれば済む話だ。そう割り切って一先ず置いておこう。

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