05-18.協力者
「やあ♪ リタ♪ 久しぶり♪」
「久しぶりぃ? 言う程かしら? あなた国に帰ったんじゃなかったの? なんでまだここにいるのよ。と言うかよく私の前に顔を出せたわね?」
なんか不機嫌? いやでも嬉しそう? 微妙な態度だ。このリタという少女はルシアに対して色々と複雑な感情を抱いているように見受けられる。
「義姉さん。こちらはリタ・モラレス。私達の友人です」
「そちらの方は? 今姉って呼んだのかしら?」
増々機嫌が悪くなったっぽい。エフィに対して怒っているというより、何か気分の悪くなる事を想像したって感じだ。
「こちらはエリクさんです。私の実の姉の婚約者です」
「"姉"の"婚約者ぁ"? 揃いも揃って嫌味かしらぁ?」
あかん。怒りのボルテージが上がってらっしゃる。そろそろ追い出されないかしら。
「実はリタに紹介したくて来たのです。エリクさんは複数の女性と関係をお持ちでして」
おいこら。
「ちなみに私の妹の恋人でもあるんだよ♪」
「……詳しく聞かせなさい」
なんでさ。
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「つまり私もハーレムに入れてくださるの?」
「入れんぞ? 何故そんな話になっておるのだ?」
意味が分からん。もっとちゃんと説明しろ。説明されても勧誘なんてする気は無いけど。言うまでもなく初対面だし。
「ちょっと。何で黙って連れてきたのよ。何の説明も済んでないじゃない」
「流石に気が引けてね♪」
パティとロロが居たからか? 悪いと思っていて私を人柱にしようとしているのか?
「義姉さんがついて来るって言い出したんじゃないですか」
「それはそれだろうが。何故私が勧誘しに来たみたいな話になっておるのだ」
「いえ、ぶっちゃけ冗談と言うか、ダシにしただけです。あのままでは話を聞いてくれそうになかったので」
ぶっちゃけるな。そういう事ならもう少し惚けておくべき場面だろうが。それから私にも根回しくらいしておけ。
「どうせそんな事だろうと思ったわ」
幸いリタ嬢側に大して気にした様子はない。むしろなんかシラケちゃったようだ。そりゃそうだよね。こんだけグダグダしてたら。なんかごめん。
「それで? 私に何の頼みがあるのかしら? 我が家を宿代わりにしたいって程度なら別に構わないわよ」
リタ嬢はソファにゴロンと横になって適当に手をヒラヒラと振りながらやる気無さそうに告げてきた。
「実は大統領のお孫さんについて探ってほしくてね」
「無理に決まってるでしょ。バカ言わないでよ」
「義姉さん。ここはやはり勧誘してあげるべきでは? きっと彼女もやる気を出してくれますよ」
「だから先ずは説明しろと言っているだろうが」
「リタは私と共にルシアを取り合った仲なのです」
そうなの? その割にはルシアに対しての方がお怒り気味だけど? 逆にエフィに対しては比較的友好的だ。
「変な言い方しないでよ。単に私はこの家から連れ出してほしかっただけよ。政治家なんてまっぴら御免なの」
なるへそ。その為に利用しようとしたのか。たぶんそれだけじゃないんだろうけど。とにかくこの三人が仲の良い友人関係であった事は間違いないのだろう。そうでなきゃ転がったまま話を続ける事なんざあるまい。いやまあ、私もいるんだけど。
「素直じゃないんです。彼女」
「私は女性が好きなだけ。ルシアの人格になんか興味は無いわ。むしろ私の好みで言うならエフィの方が上よ。けどあなたはお姉さんが……あれ? そういう事?」
気付くの遅いなぁ。色々と。
「そうです。例の婚約話をぶち壊してしまいたいのです」
「ふ~ん。へ~。ほ~」
なに?
「ふふ♪ あなた中々悪くないじゃない♪」
どうして今またそっちの話しを?
「責任取ってくださる? 私これでも政治家の端くれなの。そんな話に加担したら私の立場も無事じゃ済まないでしょうね♪ だからあなたが連れ出してくださるなら力を尽くすのもやぶさかではないのだけど♪」
「無事で済む手段に留めては頂けぬか?」
「はぁ~ふぅ~。やる気でないわ~」
はしたない。やめなさい。そんな大あくび。
「一旦持ち帰らせて頂きたい」
「どうぞ♪」
「違うぞ。お主の事じゃないぞ。話をだ。わかるだろ」
「そんなノンビリしている余裕はあるのかしら?」
「明日また伺わせていただこう。それより今はリタ嬢の事を教えて頂きたい。家族と相談する必要もあるのでな」
「いいわ♪ 前向きに考えてくださるなら幾らでも話しましょう♪」
急にやる気を出してきたな。ちょっと面白い子だとは思えてきたぞ。
「我が家は代々政治家の家系なの。私もつい先日までは学生だったわけだけども卒業後は当然のように定められた道を歩み始めたわ。在学期間中はルシアが最後の希望だなんて信じていたのだけど敢え無く裏切られてしまったわけ」
まあうん。そこまではわかったさ。おさらいありがとう。話を続けておくれ。
「趣味は人間観察。好きなものはエフィと女性全般。嫌いなものはルシアと甘いもの」
たぶん、いや間違いなくリタはルシアが好きだろ。しかも未だに本人が自覚すらしてないやつだ。そのくせどう見てもまだ引きずっておるだろ。なんだか面倒な事になってるな。
ルシアへの想いが残ってる時点でうちに来るのはなんか違くない? 別にルシアとエフィの間に割って入れとは言わないけどさ。でも私達は今後も仲の良い姉妹としてご近所付き合いくらいはするだろうし。どうせロロにも定期的な里帰りはさせるわけだからさ。
『ギンカの力なら忘れされる事も出来るじゃないですか』
ルベドはそれで良いと思うの?
『いいえ。あのような力は使うべきではありません。その点はギンカとも同意見です』
よかった。けどなんだか含みのありそうな物言いだね。
『パティはそう言うと思っただけです』
ああ、うん。そうだね。きっと眷属にしちゃえとか言い出すね。パティも気まぐれなんだから。
『ルールが分かりづらいだけでは?』
かもね。未だに私ですら読み切れないくらいだし。
「あと何か聞きたい事でもあるかしら?」
「特技はなんだ?」
「友達作りかしらね。逆に魔術の類は一切扱えないわ。私魔力持ってないんだもの」
なら何故言ったし。わざわざ自分の苦手なものを言う必要もあるまい。今はアピールの場なんだし。
「あら。余計な事言ったかしら。ごめんなさい。この国って先ずそこで人を判断する人が多いから」
「この国でも魔力持ちが優遇されているのか?」
「ええ。そうよ。エリクってカルモナド人よね? 向こうでも少なからずそんな風潮はあるでしょ。カルモナド王家なんて特にそうよね。王家の血筋に際立った魔力持ちを取り込み続けてきたのは有名な話ですもの。実際ルシアも学園では飛び抜けた魔力量を誇っていたわ」
「魔力持ちが拾われやすいのは確かだ。しかし当然それ以外の人員も大勢いるさ。実際リタ殿もそうであろう? 魔力を持たずとも若くして政治家の道を歩みだしているのだろ?」
「ごめんなさい。少し誇張したわ。私は単なる鞄持ちよ」
まあそりゃ今はそうだろうけども。新卒なんだし。そもそも選挙で選ばれたわけでもあるまいに。
「このままなら一生私の立場は変わらないわ。この国では生まれ持ったものが全てなの。家柄だけでも力だけでもダメ。けど私、そんなのじゃ満足出来ないの。お願いよ。エリク。私をここから連れ出して。国から、この家から逃がしてもらえたなら後は放り出してもらっても構わないわ」
「本当にこの国の政治家には魔力持ちしかおらんのか?」
「まあ、基本的にはそうだね。それも一種のステータスだから。選挙で勝ちやすいのは魔術戦で名を挙げた人達だし」
魔術戦? そんなのまであるのか? しかし戦闘技術と政治家の能力は関係なかろうに。
「なら何故エフィやヴァイス家が見逃されている? 引く手数多だったのではないのか?」
少なくともロロは私の眷属に加わる前からパティをも下す実力者だったのだ。魔力量も流石にパティ程ではないが十分なものだった。エフィも魔力量については相当だ。その血を取り込みたいと考えた者達は大勢いた筈だ。
「首都の者達からしたら田舎すぎるのです。彼らにとっては家柄も大切です」
「婚約話もそういう意味で悪目立ちして噂が広まったところはあるよね」
なるほど……。なんだか謀反の噂の件も段々きな臭さが増してきたな……。
「ただヴァイス家の者達が持つ魔力保有量が魅力的だったのも確かなんだ。ロロ姉様が逃げたって広まれば次はエフィが狙われるであろう事も想像がつく。大統領家が動いた事で大義名分みたいなものが生まれちゃったから。五年かけて少しずつ流れも変わっていったんだよ。あとそれにはエフィの学園での活躍も少なからず関係していると思うよ」
エフィはなにやったの? 後で聞いてみよう。気になるけど今はあまり関係無いだろうから後回しだな。
「マルコスはその為に話を広げたのか? 本来であれば忌避される婚約を正当化させる為に?」
「もしかしたらね」
ハッキリせんな。無理もないが。
「話の主題が逸れているわね。今は私が主役よ」
あ、ごめん。そうだよね。人様の自宅にこんな時間に押しかけて勝手に内輪話で盛り上がってたらダメだよね。しかも為政者に関するアレな話なんて。まじごめん。
けどなんか心配要らなそう。この娘とっても負けん気が強いタイプだと思うよ。どこでも上手くやっていけると思う。なんとなくだけど。
「とにかく約束なさい。協力したら私を攫って。そしたら後の事は全て上手くやってやるわ」
そんなに自信があるなら自分で逃げてみては?
「誰にでも得手不得手ってあるじゃない。私って自慢じゃないけど顔が広いのよ。勝手に家出なんてしてもすぐにバレちゃうわ。元々出て行きたいって話はどこでもしていたし。と言うか実際に家出したのも一度や二度じゃないし」
自業自得では?
「なあ、まさかと思うのだが。今この場での話もご家族に聞かれていたりせんだろうな?」
「流石に大丈夫よ。けどルシアとエフィがこの場にいる事だけは知られているわね。二人がこの家に遊びに来たのも一度や二度じゃないし。だから疑ってはいるでしょうね」
「そんな状態でどうやって連れ出せと言うのだ? ルシアとエフィが疑われてしまうじゃないか」
「その方法は貴方が考えて♪」
無茶を言いおって。この家は貴族のものとだって遜色ないのだ。侍従達だってそこかしこで見回っている。少々過剰かと思ったが事情を聞けば納得だな。
「正面からでも構わんか? 黙って攫うのは私の流儀に反するのでな」
「勿論よ♪ 説得出来るって言うなら完璧ね♪」
「流石に約束までは出来かねるがな。そもそも家族の許可を得ねばならん」
「期待してるわ♪」
「後はリタ殿の働き次第だ」
「言ったでしょ♪ 私お友達作るのは得意なの♪」
やっぱり家業も向いてるんじゃない?




