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05-17.調査報告会

「そうなんです! 姉さんたらあの時だって!」


 ロロとの思い出話は盛り上がり、いつの間にかエフィの方が熱心に語り始めていた。この娘はやはりお姉ちゃんが大好きなようだ。案外ルシアもロロと似てたりするのだろうか。



「「「ただいま~」」」


 三人も帰ってきたな。ロロの視界も覗いていたから当然把握はしていたけども。



「おかえり。今日のところは何も無かったな。悪いがピーちゃん達の方も同様だ。一応ターゲットに近づく事は出来たが都合よくロロの話題を口にするような事も無かった。何か方法を考えねばな。せめて町中で発見されたという噂でも立てばとは思うのだが」


「心配は要らないわ。きっとそっちも時間の問題よ」


 そうだな。このままロロが歩き回っていればどちらかに反応があるやもしれん。



「ターゲットってどんな人だったの?」


「今日見た限りでは普通の好青年と言ったところだな。勤勉で優しく周囲への気遣いを欠かさぬ仕事熱心な若者だった」


 少しばかり歳はいっているが、それでも精々ロロより十歳程度上なだけだ。まあ、二十代前半の者が当時十一のロロにこっそり婚約を申し込んだなんてのはちょっとどうかと思うけれども。



「大絶賛じゃない。思っていたのと全然違うわね」


「正直な。私としても思えんよ。あの者が全てを主導していたとは到底な」


 流石に今日一日だけじゃ確実とまでは言わないけどさ。でもルシアから聞いていた評判の方も間違いなさそうだ。と言うか大統領府自体が割と明るく楽しい感じの職場って雰囲気だった。何処もかしこも案外と平和なものなのだな。もっと権謀術数渦巻くギスギス空間を想像していたのに。別にそれを期待していたわけではないけども。



「なら部下達の暴走が原因なのかもね。彼らだって五年も成果を上げられずに上からせっつかれ続けていたんでしょうから。多少強引に動いても不自然とまでは言えないわね」


「だからと言って反逆者に仕立てるのは後先考え無さすぎだがな。将来の大統領夫人の経歴に瑕疵を仕込むなんぞ正気の沙汰とは思えん」


「それこそ死に物狂いなのかも。結果が出せなくちゃ立場だって無くなってしまうもの。周囲からはそんな簡単な仕事も出来ないのかって揶揄されるのでしょうね。ロロ先輩の現状という実情なんて誰も見てくれないままね」


「或いはその瑕疵をこそ利用しようとしているのやも。主犯は間に立つ者であったりはせんだろうか。例えばあの町に最も近い州知事が城を狙って工作をしかけているとかな」


「無い話じゃないわね。でもそれなら使者が半年に一度なのはおかしいわ。そんな近場から送り込んできてるならもっと頻繁に仕掛けてくる筈よ」


「そうとは限らんぞ。いっそロロが見つからん方が都合も良いのだ。時間がかかればその分仕込みも浸透するだろうさ」


「それでもやっぱり考えづらいわ。リスクが高すぎるもの。ロロ先輩が家の窮状を知って嫁ぐ事を決意したなら徹底的な調査が為されるでしょう。真相が明るみに出るのもきっとすぐよ」


「そうだな。犯行として考えるには杜撰過ぎるか」


「問題を切り分けて考えてみましょう」


「うむ。一つは婚約の既成事実化だ。二つ目はヴァイス家の外患誘致疑惑だな」


「一つ目については間違いなくサルディバァル家が主導したものよね。もしかしたら何かしら誤解もあったのかもしれないけれど。ただ少なくとも国中にそれが広まりきるまで放っておいたわけよね。エリクは良い人そうだって言っていたけれど、やっぱり根本的な原因はその人にあると思うの」


「そうだな。そもそも意図的に拡散した可能性の方が高そうだ。彼が真に誠実であるならなんとしても止めた筈だ。しかしどうやらその様子も無いらしい。少なくとも今に至ってすら彼から直接ヴァイス家への釈明が無かったのも事実だ」


 彼、マルコス・サルディバァルが現状を認識していない筈は無い。彼にとってロロに断られた過去は無かった事になっているのか、ロロに対して伝えた「諦めない」という言葉の結果がこれなのか。


 ならもしかすると政治家らしく外堀から埋めるのを是としているだけなのやも。そもそもの常識からして違う可能性もある。自らのやっている事が罪なき少女とその家族を追い詰めるだけなのだと理解していないだけなのか?


 もしそれだけの話しならばもう一度対話すれば事は済むのかもしれない。彼が常識の違う存在というだけで良識自体は持ち合わせているなら事態の収拾に協力だってしてくれるかもしれない。



「もう数日様子を見てみましょうか」


「うむ。先ずはそんなところか。ロロが見つかった際の向こうの出方でも真意は図れるだろうな。ロロの格好は目立つ。近い内に何かしらの反応は示すかもしれん」


「いっそ直接乗り込めば良いのでは? 姉さんが正面から乗り込んできたのに邪険にしたらそこまでって事で」


「信じてもらえるとは限らないでしょ。最悪成り代わろうとしてるとか思われて捕縛されちゃうよ」


「そもそもマルコス本人に話しが届くかも疑問が残る」


「そこはエリクさんが上手く誘導してください。あの小鳥さんに連れ出してもらえませんか?」


「まあやってやれん事もないが……」


「情報の集まっていない今の時点であまり強引な事はするべきじゃないわ。わざわざこちらから近づき過ぎてしまえば向こうが強引な手段で迫ってきた時に逃げられなくなるもの」


「逃げることくらいは簡単なのでは? また転移を使えば良いのですよね?」


「そういう意味じゃないわ。物理的に逃げ出せたって逃げてしまった事実が残っちゃうじゃない。この国で暮らし続ける以上はそれも問題となるでしょ。わざわざ大統領府に近付いておいて逃げるなんて何かやましい事があると言っているようなものだわ」


「向こうが捕まえようとしてこなければ逃げる必要も無いのです」


「だから先ずはそこを見極めましょう。彼らが友好的に近付いてくるのか、或いはロロ先輩を強引に捕まえようとするのか。彼らの出方次第でこちらも動きを考えるべきよ」


「まだるっこしいです」


「デス」


 まあ、うん。気持ちはわかるがな。でも話せばわかる相手と決まったわけでもないしな。逃げ道は残しておくべきだ。町中で声をかけられた程度なら咄嗟に逃げてしまったとしても言い訳は立つだろうさ。けれど自分達からノコノコ乗り込んで行ってそれで捕まったから逃げようじゃマズいだろう。


 最悪外患誘致疑惑も補強されかねん。パティはともかくルシアの事は知られているのだろうしな。何せわざわざ隣国から留学しに来た姫様だ。お偉いさん達だって一目見ておこうとくらい考えただろう。既に顔は割れている可能性がある。




「もう一つの問題についても考えてみよう」


「ヴァイス家が私達カルモナドと共謀しているって噂よね。よく考えたら私とルーティが揃ってこの地を物色してたら増々怪しまれかねないわよね」


「けどこの特別区においてはそのような噂は届いていない。噂が存在するのはあくまでヴァイス家の周囲だけだ」


「元々あの土地は本国とも毛色が異なりますから。あの城と小さな城下町だけである程度生活が完結しているのです。共和国に取り込まれこそしましたが文化等の面から見ても完全には混ざりきっていない状況です。つまりは一種の閉鎖環境に近い状況であるかと」


「ならば何故町の者達は噂を信じて離れていったのだ? 共和国や大統領よりもヴァイス家の方が遥か昔から続く王家の血筋として信頼を集めていたのではないのか?」


「内通者がいる筈です。町の中に裏切り者がいるのではないかと。それもある程度以上の発言力を持つ者が」


「イエ、違イマスネ。キット父が遠ザケタのデス。私達の問題に皆を巻キ込ミタクナカッタンデス」


 姉妹で意見が分かれたな。しかし二人とも根拠と呼べる程のものは無さそうだ。個人的にはロロの意見に賛同したいところではある。あのお父上なら考えそうな事だ。


 とは言えお父上の追い込まれようも考えるとエフィの意見も有り得そうだな。もしかしたら両方が正しいのかもしれない。お父上は全て察した上で耐え凌ぐ道を選んだのやも。



「実は婚約の件とは関係が無い可能性もあるのでは?」


「なるほど。あり得なくは無いわね。むしろサルディバァル家の足を引っ張ろうとしている第三者が噂を流したのかも」


「ただその場合は首都ここで噂が流れていないのが不自然になるな」


「単純に影響力が及ばないのかも。だとしたら近場の州知事が怪しいわよね。何時までも共和国に迎合しようとしないあの町に業を煮やしたのかも」


「目的はやはり城の乗っ取りか」


「州都をあの町に遷都させる為にヴァイス家を追い出したいのかしらね。だとしたらそんな計画が既に立てられている筈ね。忍び込めば証拠を掴めるかも」


 また別案だな。それは。この特別区で大した成果が得られなければ改めて考えるとしよう。



「軍の駐屯地としてだけでも利用できるなら国境の管理も今よりやりやすくなるだろうしな。そうだ。それで思い出した。教えておくれパティ。何故元ヴァイス王国は特別視されておるのだ? 共和国もわざわざ取り込んだ割に積極的に介入しようとはしておらんのだろう? さりとて一州として扱うつもりも無いようだ。パティは何か知っておるのだろう?」


「ふふ♪ 歴史の勉強が足りていないわね♪ サボっている間に教え子に追い抜かれてしまったじゃない♪」


「そうか。ディアナでも知っている事なのか」


 まあ、あの娘は編入テストで満点を叩き出したくらいだ。とっくに私を超えておるだろうさ。



「どちらかと言うとヴァイス王国はカルモナド王国にとっての特別なのよ。元々はヴァイス王家の一人がカルモナド王国を興したの。だから共和国はヴァイス王国をそのまま残しているのよ。カルモナド王国に対しての防波堤とする為にね」


 へぇ~。



「だがカルモナドにかつてのヴァイス王家の文化は伝わっておらんようだぞ?」


 アロハなんか着てるのベルトランくらいだし。



「元々はあれが嫌で家出したそうよ♪」


 まじかよ。



「冗談よ♪」


 普通に信じかけちゃったじゃん。



「単に失伝しただけじゃないかしら? カルモナドって昔はもっと苛烈な侵略国家だったから。新しい文化もどんどん取り入れていったみたいだし」


「それでもヴァイス王国だけは尊重しておったのだな」


「そんなところね♪ 今ではカルモナドの方がずっと大きな国だけど、ヴァイス王国にだけは手を出さなかったそうよ。そして今もね。けれど共和国がヴァイス王国を完全に淘汰してしまえば話は別よ。きっとカルモナドは、と言うか陛下は取り戻そうと動くでしょう」


「それが先祖に報いることになるのだな」


「そゆこと♪ 花丸をあげましょう♪」


「呑気な事を言っている場合か? そんな歴史も知らずにちょっかいをかけている者達がおるのだぞ? 下手をすればこれは私達だけの問題で済まなくなるぞ?」


 解決方法を間違えれば戦争が始まるかもしれない。セビーリアのような遠方の問題ではない。私達の住む王都からも比較的近い位置だ。それに何よりロロ達の故郷が戦場となるかもしれない。カルモナド側が破壊し尽くす事は無いだろうが、逆に共和国側が盾に使う可能性は十分に考えられる。そんな事態は必ず回避しなければならない。



「だからこそ用心深くいきましょう。エフィとロロ先輩も焦らないで。一つずつ問題を片付けていきましょう」


「「はい」」


「私も方針に異論は無いよ。けれど今晩はもう少しだけ動くとしよう。私とエフィで友達に会いに行ってくるよ。もしかしたら彼女なら大統領府とも直接コンタクトが取れるかもしれないからね」


「そうか元々この地に住まう友人もおるのだな」


「うん。今の時間なら実家にいるんじゃないかな」


「今度は私もついて行こう。二人だけで出歩かせるわけにはいかん」


「わかった。新しい友達として紹介するよ♪」


「なんなら義妹でもいいぞ」


「それもそうだね♪ なら私の事はお姉ちゃんと呼んでよ♪」


「ルシア義姉さん。頼りにしているぞ」


「うん♪ 任せて♪」


「エリクさん」


「取らんてば。そう怖い顔するな」


「違います。元々こういう顔なだけです」


 絶対そんな事無いと思う。顔だけはロロとよく似ているのだし。ロロみたいに何時もニコニコ笑顔だったら雰囲気一気に変わると思うよ。今はロロも難しい顔してるけどさ。



「私はエリクさんの義姉にあたるのでしょうか?」


 えっと……? あれ? どっちだ?


 パティがルシアの妹である事を考えるなら、エフィが私の姉になるのだけど、エフィの姉であるロロもまた私の婚約者だ。つまり私はエフィの姉でもあるわけだ。ややこしい。



「まあ追々だな。問題を解決してから考えるとしよう」


「面倒です。という事でよろしくお願いします。義姉さん」


 なんだ。結局そう呼びたかっただけなのか。



「あれれ♪ エフィとエリクさん仲良くなってる♪」


「まあ少しな。留守の間色々と語り合ったのでな」


「有意義な時間でした」


 ご満足頂けていたようで何より。

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