05-14.作戦会議①
「あら♪ 今日はいっぱいね♪」
ロロ、エフィ、キャロちゃんの三姉妹の他に、私、パティ、ルシアと更にシュテルとスノウまで一緒だ。キャロちゃんを気に入ったシュテルが同行を望んだのだ。キャロちゃん本人は未だ戸惑いや照れが抜けきれていないが、それでもシュテルの積極的な態度に満更でも無い様子だ。(たぶん)初めての同年代の友達に内心興味津々なのだろう。
「スノウ。子供達を頼む」
「はい。エリクさん」
スノウは子守役だ。話をしている間はキャロちゃんとシュテルを側に置いておくわけにもいかんからな。
スノウ達が席を外した後、私達は昨晩と同じように席について話を始めた。最初はパティが切り出した。
「今朝方エフィ達とも情報を共有させて頂きました。色々と情報が錯綜しているようです。それぞれの認識と思惑を一旦整理されて頂きたく思います。その後、問題解決について話し合うと致しましょう。お二人もよろしいでしょうか?」
「「はい」」
「ありがとうございます。それでは最初に事実確認をさせて頂きます。先ずは現大統領のお孫さんとロロ先輩の婚約関係について。これはまったくの事実無根であり、あくまで向こう側が勝手に宣言して広めているというお話で間違いありませんか?」
「「はい」」
「ただしお二人の婚約関係について、この国では半ば公然の真実として認められている事でもある。既に五年も前から相手方は公言し続けてきた事柄であるという認識で間違いありませんか?」
「「はい」」
「その間この家からの声明等は?」
「出しておりませんな。と言うより出せなかったのです」
「それは何故ですか?」
「そちらにわかりやすくお伝えするならば我々は平民なのです。現在この国に貴族も王族もありません。一平民に過ぎない我々が直接大統領家に対して物申せる場はありません。その伝手も早々に手を離れていきました。気付いた時には遅きに失していたのです」
お父上がスラスラと語ってくれた。どうやら一晩で覚悟を決めてくださったようだ。私達に託してくださるつもりかもしれない。もちろんそれは戦うという意味ではないのだろうけれど。
「州知事を務められているのではないのですか?」
「もちろん違います。そもそもこの地は首都ですらありません」
だろうな。仮にも国境付近にあり、小さいが城まである町だと言うのに、肝心の城の中がもぬけの殻なのだ。普通に考えればあり得ない事だ。この地にこそ兵や国境を守る者達を配備すべきなのだ。この世界は前世のような平和な世界とは違う。どれだけ共和国が広大で平和ボケしていたとしても隣国のカルモナド王国を恐れていない筈がない。あの国は強大だ。強者の国だ。いつ牙を向けてくるかなんてわからない。普通ならそう考える筈だ。
「何故この地は」
「エリク、その件は後で説明してあげる。今回の件とは関係ないわ」
「わかった」
パティは何か知っているのだな。カルモナドと共和国で何か協定でも結ばれているのだろうか。それにしたってとは思うけれど。
「話を戻しましょう。相手方からの連絡はどのように? その頻度と大まかな内容も教えて頂けますか?」
「遣いの者が訪れるのです。頻度は半年に一度程度、内容はシャーロットの要求一点のみです。おそらく我々の言葉は相手方まで届いておらんのでしょうな」
使いっ走りしか来ないのか。当然か。ここから連邦政府の直轄地である特別区は随分と離れているそうだしな。お偉いさんがそんな長旅してられないだろうし。
「わかりました。では次にこの家が被っている被害状況を教えて頂けますか? 何らかの制裁行為を受けているものとお見受けいたしますが」
「明らかなのは噂話の流布程度です。ただし意図的な悪意が込められたものではありますが」
「それはどのような? お話し辛いかもしれませんが、」
「いえ。お話します。内容は国外との共謀についてです。我々はカルモナド王国と結託し、謀反を起こそうとしているのではと囁かれているのです」
何と言うかまぁ……。ロロの留学をそうやって利用したのか。もしかしたらエフィとルシアが仲睦まじくしていた事も噂の補強に利用されていたのやもしれんな。
「エフィとルーティは知らなかったの?」
「ええ。聞いたことも無いわ」
「知らないね。その噂っていうのはこの町だけに流されているんだと思うよ。少なくとも学園では聞いたことが無い」
そうなると意図は明確だな。下手に多くの者達の耳に入って婚約自体が流れる事を避けたかったのだろう。あくまで田舎者達の下らない与太話で済ませようとしたのか。もしくはヴァイス家を悪役に、悲劇のヒロインであるロロを救い出すみたいな絵空事でも仕込むつもりなのだろうか。
「何故二人はエフィにまで真実を隠したのですか?」
「娘を巻き込まない為です」
「何故エフィがロロ先輩を連れ戻すのを止めなかったのですか?」
「娘を逃がす為です。シャーロットはある程度の事情を把握しておりましたので。上手く引き止めてくれる事を願っていたのです」
「本当にそうですか? ロロ先輩がこの家に帰宅した直後のお父様の反応はそのように見受けられませんでした。お父様としては娘に帰ってきてほしかったのですよね?」
「……」
何故そこで黙る? この期に及んで何を隠している? 私達が味方である事はわかっている筈であろう?
「……一瞬安堵してしまっただけです。認めましょう。私は不甲斐ない父だ。賢く優秀な娘がこの窮地救ってくれるのではと一瞬考えてしまったのです」
違う。何か本音は別のところにある筈だ。それはなんだ?
「わかりました。今はその前提で話を進めましょう」
パティは冷静だな。確かにこれ以上お父上を詰めても意味は無いな。真意を聞くのは問題が全て片付いてからでも構わない筈だ。きっと。少なくともこの二人が敵である筈は無いのだから。




