05-09.姉妹飲み会
「何用ですか。二人揃って」
月夜を背景に物憂げに佇むルベドは神秘的な美しさを放っていた。呑気に近付いてきた私達を見て不機嫌そうな表情を浮かべて尚、その美しさは不思議な魅力を誇っている。
まるで一つの芸術品のようだ。ユーシャもいずれはこうなるのだろうか。それは随分と先の事なのかもしれない。ネル姉さんは千年を生きて尚ユーシャと大した違いが無い。少なくとも見た目は。その倍以上を生きてきたルベドだからこそ……と言うわけでもないか。二千年前の記憶のルベドも今と変わらなかったし。
きっとどれだけ女神様に近いかという事なのだろう。ユーシャやネル姉さんより遥かに女神様と近しい存在なのだ。だからこれは神々しさとも言えるのだろう。月に最も似合うのはディアナだと思っていたが、ルベドもそれ以上にこの光景を引き立てている。
「今晩は三人で語らいたいと思いまして」
「嫌です。お引取りを」
ばっさりだ。
「まあそう言わず。ほれ。ルベドの好きそうな甘味も用意したのだ」
「……それがなくなるまでなら」
ちょろい。
「お酒もありますよ♪ ギンカも付き合ってください♪」
家の中でならいいかな。いいよね。うん。たぶん大丈夫。
「とするとつまみも欲しくなるなぁ」
「◯!」
え? アウルム?
アウルムが干物を取り出してくれた。なんて出来る子なんでしょう♪
「何故あなた程の者がギンカに従っているのですか?」
ルベドがアウルムに問いかけると、アウルムが触手を伸ばして手の形を作り、力強く親指を上げた。
「……そうですか」
え? 何かわかったの?
「いえ、私は……」
あれ? 会話続いてる?
「あなたは物好きなのですね」
少しだけルベドの頬が緩んだ。アウルムから何か楽しくなるような事を言われたらしい。
「ギンカ」
「う、うむ。どうしたルベド?」
「早く菓子を出しなさい」
あ、はい。さーせん。
バルコニーに設置された席で深夜の飲み会が始まった。
そう。飲み会だ。決して月見や夜会なんてお淑やかなものではない。
「だいたぁい! あ~なたぁ~でぇ~すね~!」
あかん。ルベドは絡み酒タイプだったらしい。そしてめっちゃ弱い。
「きぃ~て~るぅ~で~すかぁ~!!」
「うむ。聞いておるとも」
「なぁ~にぃが! うむ! でぇ~すかぁ~!」
えぇ……。
「あ~たは! わぁ~しのいもーと! な~でしょ~!」
「う、はい。そうありたいと思っています」
「だぁったらぁ! もっといも~とら~しきゅ!」
「え、ええ。お姉ちゃん」
「そ~です! そーでいい~んです~! えへへ~! やぁ~と! わかぁ~て、ヒック! く~たんでぇ~しゅねぇ」
あれ? ルベドに抱きしめられてる? ほわい?
「二~タシュは~……zzz」
急に落ちるし……。
もしかしてよっぱらって私の事二タスと重ねてた?
ルベドが忘れるタイプだといいのだけど……。これ絶対後で気にして腹を立てるやつだし。
「可愛いお姉ちゃんですね♪」
「そうだな……それ何杯目だ?」
「え~と~……さあ♪ 忘れちゃいました♪」
ネル姉さんの方はウワバミだ。もしかして女神様要素が薄いせい? 神様ってお酒でしくじるイメージあるし。むしろ強いのは神様要素が足りていない証かもしれない。
「結局何にも聞けておらんぞ」
「いっそこのまま部屋まで持ち帰ってみては?」
「消し炭にされるだろうが」
「案外と受け入れるかもしれませんよ? やってしまったものは仕方がないと」
あれ? ネル姉さんがそっちの話題を平然と? ……実は酔っているのか?
「ネル姉さんもそのくらいにしておけ。ルベドが寝てしまったのだ。私達も部屋に戻ろう」
「え~! いけずですぅ~!」
やっぱり酔ってるな。女神様要素とか実はあんまり関係ないのかもしれない。単に私達は一様に酒に弱いのかも? 万能回復薬である私ですら酔うくらいだし。或いは女神様の粋な計らいかもしれない。お酒を楽しめるようにって。うん。なんかそんな気がしてきた。
「仕方ないな。もう少しだけだぞ」
「さっすがギンカ♪ 話がわかりますね♪」
アウルムに出してもらった毛布をルベドに掛けて、再び私もグラスを傾け始めた。いつの間にやらテーブルの上には干物と菓子以外のつまみも並んでいる。どうやらメアリが気を利かせてくれたらしい。しかも姉妹水入らずを壊さないように気配を消してこっそりと。けれど次来た時は必ず捕まえるとしよう。折角だからメアリとも飲みたいし。逃げずに付き合ってくれるといいのだけど。ルベド以外にも素直じゃない娘達はいるのだ。私ももっと気を配れるようにならねばな。
「さっさ♪ 次はこちらを♪」
「姉さんもだ。こっちも食べてみろ。美味いぞ」
「いただきます♪」
結局ルベドも途中から起きてまた飲み始めた。まるで何かを忘れようとでもするかのように。そして再び私に縋りつき眠りについた。そんな事を繰り返している内に夜も更けていった。結局ルベドは私から離れようとはしなかった。




