01-29.人体実験
「ユ~シャ♪」
「なに?」
「違う違う。こういう時は名前を呼び返すの。
はい。私の名前呼んでみて」
「?パティ?」
「ユ~シャ♪」
「……パティ」
「ユ~シャ~♪」
「パティ」
「ユぅちゃ~ん♪」
「?」
風呂から上がり部屋に戻ると、今度はユーシャを後ろから抱きしめて自分に寄り掛からせたパティが、更に距離を縮めようと奮闘していた。
「先は長そうだな。
まあこれも必要な事か。
メイド長。我々は先に話を進めていよう」
「はい。エリク様」
「先ずは昨晩借りた資料の件だ。
あれにはディアナの診断結果も含まれていたな。
やはり彼女に必要なのは何よりも強い肉体だ。目指すのは回復ではなく改良。これは医療技術のみでどうにかなる話ではない。魔術にこそ、その可能性が秘められていると私は考えている」
大きく文明の発展した世界ならともかく、この世界には高度な医療機器など存在するまい。出来る事には限度があるだろう。
「我々も同意見です」
「うむ。
そこで早速だが、一つ試してみたい事がある。
これは少々頼みづらい事でもあるのだが」
「なんでしょう?
なんなりと仰って下さいませ」
「私は魔力を流す事で対象を詳しく把握する事が出来る」
ジュリちゃんの店で人形達を動かした時に気付いたのだ。
それにこの体、そして先程のパティも同様だった。
魔力を流し込めば、対象の内部構造までもが丸裸になる。
おそらく魔力を通じて私の感覚が延長されているからなのだろう。
「まさかお嬢様に?
あのような破廉恥な行いを?」
「そう睨むな。
だから頼みづらいと言っているだろう」
「……先ずは私にお試しを」
「良いのか?」
これは全身弄られるようなものだ。
それも内側から。隅々まで。
本当に理解しているのだろうか。
「構いません。
お嬢様の為だと仰るなら、いかようにもお使い下さい」
「……わかった」
メイド長。お主の覚悟はしかと受け取った。
ならば遠慮なく試させてもらおう。
「っ!?」
メイド長の差し出した指先から魔力を流し込んでいく。
メイド長は一瞬怯んだようだったが、何も言わずに堪えている。
「どうだ?
これで腕一本だ。
先に進めても問題ないか?」
メイド長は無言で首を縦に振った。
どうやら喋る余裕が無いらしい。額に汗まで浮かべ始めた。
本当に進めても良いのだろうか。
いや、ここで躊躇するべきではないな。
メイド長の覚悟を無駄にはすまい。
そのまま更に魔力を流し込んでいき、腕から肩、肩から、胸、そこから更に全身へと魔力を行き渡らせていった。
「これで一通りは済んだか」
「まだ……です……」
苦しげなメイド長が首を横に振る。
確かにまだ一箇所残ってはいる。
私自身が意図的に止めたからだ。
「頭はやめておけ。
何が起きるかわからんぞ」
「……どうぞ……構わずに……」
いきなり人体実験はマズいだろう。
そういうのは最初、マウスとかで試してみるべきだ。
「ダメだ」
私は少し悩んだものの、メイド長の言葉を却下して魔力を抜き取った。
「っ!!?!!」
メイド長は無言で悶えた後、全身を震わせてその場に蹲ってしまった。
「あ、えっと……すまぬ。
少しずつ抜いていくべきだったな」
一気に引き抜いてしまったせいで、何かトドメを刺してしまったのかもしれない……。
「またエリクがセクハラしてるわよ」
「エリクの浮気者」
違うから!そういんじゃないから!
すっかり仲良しね!二人共!
「エリク、それ私にもやって。
少し確かめてみたい事があるのよ」
「私にも」
「ダメです!お母さん許しません!」
「やっぱりセクハラだったのね」
「幻滅だよ」
そんなんじゃないやい!
「よかろう。
これは私の無実を証明するためだ。やむを得ぬのだ」
「なにか言い聞かせ始めたわね。自分に」
「やっぱりやましい事あるんじゃない?」
うるさいやい!
私はパティとユーシャにも魔力を放ち、そのまま中身に浸透させるよう流し込んでいった。
「あ!?え!?そんな遠隔でも!?っ!ひゃんっ!」
「……?」
あれ?
ユーシャはなんともないのか?
そのまま全身に魔力を行き渡らせても、勢いよく引き抜いても、ユーシャはキョトンとしたままだった。
「ねえ、エリク。
私にだけ手を抜いたの?」
「いや、パティと変わらんぞ?」
「私にもそう見えました」
あ、メイド長。復活してる。
「ふぅ……多分耐性があるのよ。
これって要は、くすぐられてるようなものだから。
何度か繰り返せば多少は慣れるんじゃないかしら?」
確かにパティの復活はメイド長よりずっと速かった。
でも擽りって慣れて耐性つくようなものだっけ?
単にユーシャが鈍すぎるだけでは?
「エリクいつの間に……///」
何故照れおる。