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04-65.教訓と注意喚起

「今から忍び込みましょう」


「ダメだってば。しつこいぞ姉さん」


 これで何度目だ。まさか鍵開けの手段が手に入って舞い上がっているのか? 相談しに来てくれた事だけでも褒めてやるべきだっただろうか。



「まあ話を聞いて下さい」


「はい♪ ネルさん♪ お聞きします♪」


「良い心がけです。そろそろパティさんの事も許してあげましょう」


 チョロい……。



「嬉しいわ♪ ネル姉様♪」


「よろしい♪」


 仲直りは嬉しいがな。



「それで姉さん。どのような正当性があると言うのだ?」


 取り敢えず聞いてやらねば引き下がってくれぬのだろう。勝手に忍びこまれても困るし聞くだけ聞いておくか。



「危険なのです」


 危険? 箱が?



「考えてもみてください。あの箱に封じられた者の心境を」


「つまり開けた途端に暴れ出すかもって話かしら?」


「そうです! その通りなのです! 流石はパティさん! ご理解頂けましたね! では行きましょう!」


「待て待て。それで何故忍び込むなんて話になるのだ?」


「伝えてしまえば封印を解く許可が取り消されるかもしれないからよ」


「その通りです!」


 なんで姉さんがドヤ顔なのさ。



「そして伝えなければ周囲の者達を危険に晒すと?」


「ええ。そうです。城の中で私と同等か或いはそれ以上の力を持つ存在が暴れ出す危険があるのです。被害は甚大なものとなるでしょう」


 言い切りおったな……。これは姉さんが待ち切れないから誇張して煽っているのもありそうだ。とは言え今の話は否定できるものでもない。女神様の神器が施した封印だ。中身は時間すら止まっているかもしれない。アウルムにだって出来るんだから女神様に出来ない筈も無いんだし。


 そうなると箱の中身の姉さんは封じられたその時の状態で固定されているかもしれない。人々から恐れられ、恐らく一方的に神器に封じられたその時にだ。出た瞬間に攻撃を放ってくる可能性も無いでもない。勿論他の手段で拘束されていたり、そもそも既に機能を停止している可能性もあるが。



「単純に保護を目的として封じられた可能性もあるだろ」


「賭けますか? チップは城の人々の命です」


「意地の悪い言い方をしおって」


「ですが事実です」


「そうね。ネル姉様の懸念は正しいと思うわ」


 それはそうだが……。



「だからと言って盗み出すのは違うであろう」


「ちゃんと戻します。先に少し話をつけておくだけです」


「バレると言っておろうに」


「細工はお任せを」


「どうやって監視しているのかわかったのか?」


「ええ。抜かりありません」


 本当に? 姉さんが私に嘘をつくとは思えないけど……。



「お姉ちゃんを信じられませんか?」


「それはそれだ。箱に戻るのを嫌がったらどうする」


「私が身代わりになります」


 この即答ぶりは……。予め私の質問は想定済みか。それだけ本気なのだな。少なくとも思いつきで突撃してきたわけではないようだ。なんて面倒な……。



「なあ姉さん。私は姉さんの頼みならば何でも叶えてやりたいと思っている。それは信じてくれるな?」


「勿論です。ギンカはシスコンですから」


 そういう言い方されるとなんか反発したくなるよね。



「それでもだ。それでも今回ばかりは頼みを聞くわけにはいかんのだ。順序が逆だ。私達は先ず精一杯の努力をするべきなのだ。それでどうにもならなくなったのなら、その時は力尽くで箱を奪うとしよう」


「説得が先だと? ギンカはギルドの件から何も学んでいないのですか?」


 それは……。



「かの王ですら変わりません。人である以上、人が社会性を持つ生き物である以上、自ずと譲れない何かに縛られるものなのです」


 ギルド長のように意固地になると言うのか……。



「あの箱の中身が妖精王以上の脅威であると明言してしまえば彼らとてそれを解き放つわけにはいかなくなるのです。当然既に想像はしているでしょう。女神の遣いの姉だと伝えたのですから。私達と同等以上の力ある存在として認識した筈です」


 だろうな。あの王は愚か者ではない。私達の想定以上に思考を巡らせ、深刻に現状を受け止めていることだろう。



「ですがそれでも明言はしていないのです。だからこそ彼らも目をつむる事が出来るのです。何でもかんでも正直に伝えれば良いわけではありません。私達が言葉にしない事で彼ら自身も言い訳が出来るのです」


 理屈はわかる。理屈はわかるのだが……。



「エリク。私もネル姉様に賛成よ」


 またか……。



「なあパティ。盗みはダメだなんて事は言われずともわかっている筈だ。あの陛下はパティの真摯な訴えを無碍にするような者ではない。先に話をするべきだ。せめて陛下にだけでも」


「それは無理よ。そんなのただ陛下に責任を押し付けるだけじゃない。例え理解を示してくれたとしても、それはそれで脅威を感じさせる結果にしかならないわ」


「脅威だと? 箱の中身以外にか?」


「だってそうでしょ? エリクは陛下の下まで忍び込んで話をするのでしょう? それが出来てしまうと見せつけるのでしょう?」


「そんな必要はない。パティが一人で行けば済む話だ」


「いいえ。陛下はきっともう話をしてくださらないわ。少なくとも私達と一対一でだなんて周りが許しはしないわ」


 ……ベルトランが止めるか。先日も城内を騒がせすぎてしまったものな。例えパティだけであっても、それが正面からのものであったとしても、妖精王の一味を陛下に近づけさせるのは忠臣達が許さんだろうな。



「まさか姉さんはこれが目的で姿を表したのか?」


「違いますよ。私はただ見ていられなかっただけです。人の王ごときに玉座から見下される我が妹の姿を」


「だから見下ろしてみせたと?」


「効果は抜群だったでしょう?」


 だろうけどさ……。



「決を採ろう。これは私達だけで決断すべきではない」


「良いわよ。皆に相談しましょう」


「折角裁量権を貰ったと言うのにですか? それはただ責任の分散を目的としているだけなのではありませんか? 集団の主として貴方がた二人が責任を持つべきなのでは?」


「それも人にとっては必要な事だ」


「私達は皆で幸せになるの。だから手に余ると思えば皆にも助けを求めるの」


「まあ良いですけど。ですが、あまり悠長にしている余裕は無いかもしれませんよ。他にも鍵を見つけ出して我々を出し抜こうとする者だっているかもしれないんですから」


「それこそ姉さんのせいだろ」


「私が干渉しなくたって変わりません。確かに少々煽りすぎてしまったとも言えなくも無いですが」


「大丈夫よ。陛下だってその可能性は想定しているわ」


「ならより厳重な場所へ箱を移してしまうかもしれません」


「これ以上煽らんでおくれ。焦らず準備を済ませよう。それまでニアにも目を光らせてもらっておくとも」


「むぅ。ギンカはあの女の事を信頼しすぎです。あの女だって完全な味方ではないのです。油断しないでください」


「わかったわかった。それよりもう少し話を詰めておこう。皆に相談するのはその後だ」


「そうね。そうしましょう」


「仕方ありませんね。我慢して付き合ってあげます」


 それは結構。

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