04-64.イメチェン
「エリクさんは何を買ったの?」
「これか? これはだな……ふふ♪ 内緒だ♪」
「え~! 教えてよぉ~!」
「ならば当ててみるがいい」
「竜の匂いがする」
ソラが不機嫌だ。その視線はあたかも浮気を咎めているかのようだ。これ以上は危険かもしれん。取り敢えずアウルムに収納してもらおう。
「あ! まだ見てるのに!」
「屋敷に帰ったらな」
「それもそうね。竜の素材が使われた高価な品を町中で見せびらかすのも良くないものね」
リリィは聞き分けが良いなぁ。
「でもなんだろう? 暗器?」
「うむ。そのような使われ方をする場合もあるな」
本来の使い道とは違うけど。
「なら身につけるものなのね……」
賢い。
どうやらこの辺りの者達が普段から身につける事は無いようだ。ジュリちゃんはよく知っておったな。それを竜の骨で作るのは相変わらず意味がわからないけど。
----------------------
「プレゼント? ありがとう! エリク♪」
私が身につけているとソラに睨まれそうなので遅れて帰ってきたパティに渡す事にした。
「これは~。ふふ♪ かんざしね♪」
「なんだ。パティは知っておったのか」
「ええ♪ 本で見たことがあるわ♪ 流石に付け方はわからないけど」
「こちらに来い。つけてやろう」
「ありがと♪」
パティのよく手入れされたストレートの長髪も勿論大好きだが、学園卒業を期にイメチェンも悪くない。卒業祝いもまだだったしな。いかんな。私としたことが。最初からそのつもりだった事にしておこう。うむ。……シルビア達の分も後でまた買いに行こう。忘れずに。
「よし出来た。思った通りだな。よく似合っているぞ」
「えへへ~♪」
喜んでもらえて何よりだ。
「なんだかより大人っぽくなった気がするな」
「ふっふ~ん♪」
ドヤ可愛い。
「先に皆に見せに行くか?」
「う~ん……。後にしましょう♪ 先に話を済ませちゃいましょう♪」
そう言いつつも、共にソファに腰掛けたパティは私に寄りかかって嬉しそうに甘えてきた。先にイチャイチャタイムを挟むようだ。
暫くしてパティが落ち着いたのを見計らって話を切り出す事にした。
「改めて卒業おめでとう。パティ」
「ふふ♪ ありがとう♪」
「これからは二人で過ごす時間も増えるだろう」
「学園は行かない事にしたの?」
「まあな。私がいては騒動の火種となる」
「あ~……それなら仕方がないわね」
「うむ。ディアナには悪いと思うのだがな。補助はロロかメアリにでも頼むとしよう」
「アカネにしましょう。大丈夫よ。こっちは心配無いわ」
「そうか。なら任せよう」
「手配しておくわね♪」
学園の件はそんな所だろうか。
「イネスの方はどう?」
「計画通りだ。ニアが侯爵に加護を渡してくれた」
「お父様も協力を約束してくださったし、これで一先ず心配は要らないかしら」
「後は第三王子次第だな。どうしてもイネスでなければならんと駄々をこねるやもしれん」
「イネスは可愛いものね♪」
笑い事じゃないんだよなぁ。
「鍵の方はどうだ?」
「ネルさんが持っているわ」
「なんだ。もう出来たのか」
「ええ、まあ」
何故苦笑い気味なのだ?
「万能キーって冒険者にも需要があるから」
「……まさかピッキングするのか?」
「いえ、正確には鍵を作るための……まあ、任せておいて」
何故言い淀む。
「相手は神器だぞ? 本当にそんなものが通用するのか?」
「ネルさんはいけるって」
そうかぁ……。
「あまり刺激するような事はするなよ」
「わかってるわ。これ以上陛下に睨まれたら王都でやっていけないもの。と言うかエリクには言われたくないわね」
それはそう。
「ツレない事を言うでない。私とパティは常に一蓮托生だ」
「そうね。ふふ♪」
あかん。またイチャイチャタイム始まりそう。今日のパティは何時にも増して浮かれているなぁ。
「次はディアナの卒業後の話だがな」
「聖教国にいるお姉様を探しに行くのよね」
「うむ。ソラの帰郷のついでにな」
「そのまま残りのお姉様達も探して旅を続ける?」
「出来ればそうしたい。……が」
「が?」
「そう急ぐものでも無いからな。どの道当てもない話だ。或いは地盤固めをしっかりと済ませてからの方が全ての目的を達成するのも早いかもしれん」
「拠点を決めようって話ね♪」
「いずれはな。だがこの国で活動を続けるのは難しいやもしれん」
「追い出されないように気を遣いつつ、次の拠点候補も準備しておく必要があるわけね♪」
何故そこで楽しそう?
「パティ。私達は不老の存在だ。寿命は存在せん」
「ええ。眷属もなのよね?」
「そうだ。だから今後はより厳格な審査の上で眷属化を判断すべきなのだ」
「私も早めに加えてくれると嬉しいわ♪」
「やだ。パティはあと十年は眷属にせんぞ。最も私好みの姿で固定すると決めておるのだ」
「長すぎよ!? せめて三年でしょ!?」
何故この世界の成人年齢は十五なのに、パティもレティも二十前に拘るのだろうか。
「パティは私の理想の美少女だ! 故にこそ! 歳を重ねて妖艶さを身に着けたパティも見たいのだ! 心配要らん! 絶対に魅力は増していく! 私の目に狂いは無い!」
取り敢えず力説してみる。
「うっ」
このまま勢いで押し切れそう。
「最高潮に達したその時こそ成長を止めるとしよう! その段階に至ったならば依存症がどうとか言ったりせん! 私の全力を以ってパティを繋ぎ止めよう!」
「……わ、わかったわ。エリクがそこまで言うなら」
ふふ♪ チョロい♪
と言うか真っ赤だな。そんなに照れてもらえるとは。
「パティは可愛いなぁ」
「そう……ありがと……きゃっ!?」
これは仕方ない。私悪くない。パティが悪いのだ。パティがそんな態度を取るから押し倒したくなってしまったのだ。
「ちょ、ちょっとエリク……ここ、じゃ……」
抵抗が弱々しい。瞳が潤んでいる。これはあかん。止まれそうにない。
「ギンカ」
「ちょっと後にしてくれ。ネル姉さん。今忙し……うん? 姉さん?」
「少し話があります。パティさんにもです。二人とも身体を起こしてください」
「「……はい」」




