04-62.長い夜
「なんでマーちゃんまでいるの?」
今日はとことんリリィと二人で過ごすって話では?
「足並みは揃える必要があるかと」
「どの口で言ってんのよ!」
どうやらマーちゃんが無理やりついてきたようだ。
「クーちゃん様。姉さんとソラちゃんのあの空気の中に一人取り残される私を不憫とお思い頂けませんでしょうか」
あの二人はここをどこだと思ってるの? 人様の実家でナニを盛っているの?
「とめておくれ。私が見ていない間はマーちゃんだけが頼りなのだ」
流石にあの二人だって側にマーちゃんがいれば多少は自重する筈なのだ。多少は。実際四人で寝てる時は何もしてなかったし。してなかったよね?
「ヨヨヨ……クーちゃん様はお見捨てになられると言うのですね……ヨヨヨ……」
雑な芝居だ。そんなんで騙されるやつはおらんだろうに。
「……エリクさん。私からもお願い」
居たわ。
「本気か? 折角の二人きりだぞ?」
「ティナは親友だもの」
「リリィ♪ 信じてました♪」
なんだかなぁ。
「リリィがそう言うなら。だがマーちゃん。くれぐれも妙な事はするでないぞ。ここはディアナの実家なのだ。弁えておくれ」
「リリィと二人きりになりたがっていたクーちゃん様のお言葉とは思えませんね♪ いったいリリィとナニを」
「ファムに迎えに来てもらおう」
「あ! 違うんです! 軽口です! ごめんなさぁい!!」
まったく。
結局そのまま三人で早々にベットに潜り込む事にした。
「ふふ♪ エリクさん♪」
「うふふ♪ クーちゃん様♪」
ご機嫌だなぁ。両手に花だなぁ。
「今日は二人で何をしていたのですか?」
「ふっふっふ♪ 聞きたい? 聞きたいのね♪」
「そう聞いてるじゃないですか」
「それじゃあねえ~♪」
リリィは今日あった出来事を面白可笑しく、多少誇張しながら語り始めた。
「私も欲しいです! ズルいです! クーちゃん様!」
「勿論だ。マーちゃんにも贈らせてもらうとも」
早速指輪の話に食いついた。リリィがまるで自分だけがプロポーズされたかのように語ったせいでマーちゃんに火がついてしまった。
「クーちゃん様♪」
「!?」
「あっ! ズルい! やっぱりティナには許してたのね!」
いや! 違っ! マーちゃんが勝手に! っ!?
「ダメだ! 落ち着け二人とも! マーちゃん! ダメだと念を押しておいたであろうが!」
「私が禁じられたのは妙な事とやらです♪ キスくらい構いませんよね♪」
「ダメだ! 雑に済ませおって! リリィもリリィだ! 初めてをなんと心得る!」
「エリクさんって変にお堅いわよね」
「クーちゃん様は毎日取っ替え引っ替えしてらっしゃるじゃないですか」
人聞きが悪い! 事実なのは認めるけども!
「とにかく落ち着け! これ以上は許さんぞ!」
「仕方ありませんね」
「しょうがないわね」
まったくこの娘達は……。
いやまあ、言葉で止まってくれる分まだ他よりマシなんだけども。ユーシャとかソラとか絶対止まらないし。シュテルとマーちゃんが居なかったら毎晩襲われていただろう。
「ねえやっぱりもう一回……」
くっ! そんな目で見るなリリィ。
「……あと一回だけだぞ」
「♪」
早速唇を重ね始めたリリィ。この娘ったら全然照れる様子がない。一応頬を上気させているマーちゃんの方がまだ乙女な気もする。と言うか長いな。なんか覚えのある感じだ。
「ぷはっ!」
「交代です!」
リリィが場にそぐわない吐息と共に唇を離した途端、待ってましたとばかりにマーちゃんの方を向かされ、頬どころか顔中を真っ赤に染めたマーちゃんが唇を押し付けてきた。
なんだかそれを見てかえって冷静になってしまったな。暴走マーちゃんは一種の照れ隠しなのかもしれん。この娘は言動程に無法者なわけではないのだろう。
逆にリリィの内面は少し奇妙だ。多分知識だけはあるのだけど情緒の成長が追いついていないのだ。貴族としての教育のせいだろうか。あっけらかんとキスやその先の行為について口にするし、実際躊躇もせずに重ねてはくるのだけど、それで照れる事が無いのだ。実体験が伴った今となってすら、いまいちこれが何を意味するのか心で理解できていないのではなかろうか。心はお子様、頭は大人みたいな。ある意味幼児が親にキスをせがむのとなんら変わらんのだと思う。それが愛を示す行為だとはわかっているのだけど、実際にしてみたところで心が揺れ動くような事が無いのだろう。リリィの好意については少し様子を見る必要がありそうだな。勿論この平常心が自らの意思で取り繕ったものだとしたなら話は別だけど。
「長いわよ! 次!」
一回って言ったじゃん。




