04-60.妖精王は逃げられない
「そう。話はわかったわ。パティちゃんもパティちゃんね」
まだ何か引っかかってそう。
「私エリクさん大好き♪ エリクさんがどれだけ情けなく言い訳を捏ねたって逃がしたりなんてしないわ♪」
言い訳……。さーせん……。
「つまり結局どういう関係なのかしら? 今現在の恋人は変わらずあの三人だけなのよね?」
結局ジュリちゃんも引く気が無いようだ。ここで諸々ハッキリさせるつもりらしい。パティも連れてくればよかった。
「そうだ。それで間違いない。他の者達はあれだ。将来側室入りが確定しているのだ」
「側室? パティちゃんの?」
「いや私のだ。つい最近戴冠した。今は妖精王だ」
「妖精王? でも妖精族の設定って」
「ここだけの話だが実は妖精族が実在していてな」
「そう。それでどうやって王様に?」
うぐ……。鋭い……。いや、当たり前の疑問だけども。
「妖精女王と契りを結んだのだ」
「つまりそれって結婚したのよね?」
「……人間と妖精族の契りは意味が異なる」
「そう。そういう事もあるのね。けれどエリクちゃん」
「いや、うむ。勿論責任逃れなんぞをするつもりは無いのだぞ?」
「なら正妻はその妖精女王様という事になるんじゃないかしら?」
あかん……徹底的に詰める気だ……。私(達)がこれまでなあなあで流してきた矛盾を突いてきおった……。なんだかんだと良識ある大人に洗いざらい告げたのはこれが初めてかもしれん……メアリはあれだ。とっくに私の洗脳下にあったわけだしノーカンだ。本人の名誉の為に。
「違うのだ。私にとっての一番は誰が何と言おうとユーシャに決まっておるのだ。パティとディアナも限りなくそこに近くはあっても、他の者達が入り込む余地は無いのだ」
「そういう事私の眼の前でハッキリ言っちゃう所だけはどうかと思うの」
「普通に最低よねぇ」
ならばどうしろと……。
「でもそんな一途なエリクさんも大好き♪」
何時の間にリリィの好感度がそんな事に? 誰か私の魔力横流ししてる? 何時もスノウとくっついてるから? 実は私の魔力って感染するのかしら?
「一途? エリクちゃんが?」
いや、うん。違うよね。どう考えても。私もそう思う。
「エリクさんは最初からずっと言ってるの。私達は二の次だって。一番はユーシャ姉だって。私達もそれを承知で側にいるの。だから大丈夫よジュリちゃん。心配してくれてありがとう♪」
うぐっ……。
「もぉ~♪ リリィちゃんったら良い子ね~♪」
この二人、なんだか相性が良いようだ。あっという間に仲良くなってしまった。
「エリクちゃん」
私にだけ急なマジトーンで来るのやめてほしい。ジュリちゃんは迫力があるから普通に怖いんです。
「リリィちゃんにここまで言わせておいて貴方はどうするつもりなのかしら?」
「勿論生涯を共にする覚悟はある」
「えへへ♪」
全員抱え込む覚悟だけはとっくに決めている。
「なら立ち位置を明確にしてあげなきゃ」
「それは……」
問題はそこなのだよなぁ。婚約者って言ってみたり、婚約者候補って言ってみたり、将来婚約するって言ってみたり。我ながら酷い言い逃ればかりだ。リリィに情けない言い訳なんて言われるのも当然の話だよなぁ……。いやむしろその程度で済ませてくれているのがどれだけ寛大な事か……。
「婚約者は婚約者よね? なんでそこで言い淀むのよ?」
「まあ、そこは……そうだな……」
いい加減そこだけでも認めてしまうべきか。いやでも、私一人で決めるわけにも……。
「パティちゃん達に義理を通したいのはわかるわ。けれどそれが行き過ぎてリリィちゃんを蔑ろにするのは違うんじゃないかしら?」
まあ、うん。そういう半端がかえって不義理に転じているのは自覚しているんだけども。
「婚約者は婚約者でしょ? 先ずはそこを認めなくちゃ。正妻だとか側室だとかはその後で良いじゃない」
良いの? ジュリちゃんはてっきり私が浮気してるから怒っているものとばかり。いや、そこは浮気じゃなくなれば良いのか。そういう小賢しい枠組みを取っ払って自分の心に素直になるべきなのだな。そもそもジュリちゃんが怒るからとか関係ないのだ。そうやって人の顔色ばかり伺ってグダグダやってるから詰められているのだ。
「そうだな。リリィは婚約者だ。そこは認めよう」
「それで?」
えっとぉ……?
「証を示すべきだと思うのよ。今度こそ言い逃れできないようにね」
「まぁっ♪ それは良い考えね♪ ジュリちゃん♪」
「まさか指輪を贈れと?」
「それ以外に何があるのよ?」
えぇ……。
「エリクちゃんは二つ着ければ良いんじゃないかしら?」
パティの作ったのとは別にって事? もしかして営業されてます? このタイミングで?
「それで? 幾つあれば足りるのかしら?」
え~っと、ひぃふぅみぃ……。
「取り敢えず十四か?」
「最初から二十一人全員分用意しておけば?」
二十一人ってネル姉さんとかミランダまで含んでない? それでも一人多い気が……。もしかしてトリア? 流石に手は出さないよ? 普通に仲良くしてるだけだよ?
「ちょっと。ちょっと。いったいどれだけ誑し込んだのよ」
なんならまだまだ増えそう。
「そもそも指輪はサイズがわからねばどうにもなるまい。明日にでも何人かは連れてくる。それからもう一度考えよう」
まだユーシャ達の許可だって貰ってないし。
「そうね。明日パティちゃんと相談しながら決めましょう。あの子がサイズ調整も出来るように作ってあげるわ♪」
まあ、うん。お願いします。
「明日絶対来るのよ? 逃げたらダメよ?」
「勿論だ。私がジュリちゃんとの約束を違える筈なかろう」
「ダメよ。今のエリクちゃんの言葉は信じられないわ。ちゃんとパティちゃん達の幸せそうな姿を見せてくれてからじゃなきゃね」
本気で心配してくれているのだな。そうだよな。たった半年で十人以上も婚約者増やしてきたなんて言いだしたらそうなるよな。パティの事を昔から知っているジュリちゃんからしたら気が気では無いよな。早く安心させてやらねばな。
「朝一でお邪魔させてもらうとしよう。パティもジュリちゃんと会いたがっておったからな」
「ええ♪ 待ってるわ♪ リリィちゃんともしっかりね♪」
「うむ」
もう少しだけ時間はあるだろうか。夕食までには帰らねばだが、それまではリリィとのデートを続けるとしよう。




