01-27.敗者と勝者
「いやぁ~悪いわね♪
トーシロー相手にやりすぎたわ♪」
『おい。それは私の体だ。
何故お前が持っている。離せ。呪われるぞ』
「だからこそよ。
こんな危ないの放っておかないでよ。
私じゃなきゃ取り込まれてるわ」
パティは特にもったいぶる事もなく、素直に私の体を差し出してきた。ユーシャが私の体を受け取ってから、私は人形の体に意識を移した。
「まさかお前、この体の秘密に気付いているのか?」
「お人形でしょ?
少なくとも生物のものではないわね。
妖精族って実体の無い種族なの?
それともまるっきり全部嘘?」
「前者だ。そういう事にしておけ」
「ふふ♪良いわよ~♪
エリクの弱みが握れちゃったしね~♪」
こんにゃろう。楽しそうにしおって。
「驚いたわ。
あの呪いが綺麗に抑え込まれてる。
エリクって凄いのね。素人は言い過ぎたかも?」
別に私が何かしているわけじゃないがな。
恐らく私がエリクサーだからなのだろう。
なんか神聖な浄化パワーとか、状態異常耐性的なやつが働いているに違いない。
そうとしか考えられん。
「私は一時的に体を捨ててユーシャに乗り移れるだけだ。
呪いの事なんて私は知らん」
「設定は細部まで作り込んでおくべきよ。
領主様の事だって見くびってはダメ。
魔術的な知識が無くたって、賢い人はいっぱいいるんだから」
言動の割には殊勝な事を。
案外パティもただの変人では無いのかもしれん。
「だろうな。パティを重宝するくらいだ。
よっぽど先見の明がある者でなければ、そのような酔狂な真似はするまいよ」
「あら♪
お褒め頂き光栄ね♪」
「嫌味だ。気付け」
「もちろんわかっているわ。
だから意地悪エリクにはたっぷりお仕置きしてあげないとね♪」
「何をする気だ?」
「何って、触らせてもらうのよ?
言ったでしょ?」
「先ほど勝手に触っておったではないか」
「ダメよ。
あれではただのお人形だもの。
せめて中身入りじゃないとね♪」
「言っておくが、私に触覚は無いぞ?」
「あら。そうなの?
まあでも、罰を与える方法はいくらでもあるわ。
さあ、移動しましょう。
大人しくしていれば、小一時間で済ませてあげるわ」
「それは有り難い申し出だな。
期間無期限で触り放題などと言われれば、もう一度決闘を挑むところだった」
「う~ん。
エリクのそういうところは感心しないわね。
大切な娘を守りたいなら、自分に出来る事は正確に把握しておくべきよ。視界を塞がれ、ユーシャが抑えられれば、貴方に出来る事なんて大して残ってはいなかったでしょ?
例え恥をかいてでも、優先するべきものを見失ってはダメよ」
「……私の事は好きにして構わない。
だからユーシャの事は見逃してくれ」
「そうそう♪そういう事♪
やれば出来るじゃない♪
けどダメ♪貴方達は敗者よ♪
精々私を満足させて早く終わるのを祈ってなさいな♪」
はぁ……。
全てパティの言う通りだな。不本意ながら……。
「ユーシャ。すまない。
お前の期待に応えられなかった」
「ううん。私が弱かったせい。
強くなるよ。エリクの事も守れるように」
「ああ。私もだ」
パティを先頭に私達は屋敷内に移動した。
地面に押さえつけられていたユーシャは、土汚れでとても貴族のお屋敷を歩かせられたものでは無いが、メイド長も特に何かを言う事もなく付いてきた。
「風呂場?
先に身を清めるのか?
まあ、妥当なところか。
今のユーシャは触れ合うに適さぬだろうしな」
「エリクっておバカよね」
「おいまて。何故お前まで脱いでいる?
パティは別に汚れておらんだろうが」
あの爆風の後でも、砂埃一つ付いていない様子だった。
いったいどういう仕組みなんだか。
「失礼しちゃうわ。
誰のパンティが汚れてるですって?」
「お前、その茶化し方は良いのか?
傷つくのは自分だけではないのか?」
「はいはい。
いいから貴方達も脱ぎなさい。
別に私のストリップショー見せる為に連れきたわけじゃないわよ」
いや、うん。流石に私だってわかってるさ。
これはつまりあれだ。お風呂で触りっこってやつだ。
美少女かと思ったら、とんでもないセクハラオヤジだった。
「逃げよう。ユーシャ」
「逃がしません。エリク様。
我が弟子を決闘の結果から逃げる軟弱者にするつもりはありません」
メイド長!?
「だからと言ってこれは度が過ぎているだろう!」
「ご安心を。
パティがやり過ぎるようであれば、私が止めます」
「しかし!」
「……エリク」
「ユーシャ!大丈夫だ!
ここは私に任せて逃げるんだ!」
いくら私が弱くとも時間稼ぎくらいは!!
「エリク。大丈夫。私頑張る。
きっとお友達作れる。
パティ好きじゃないけど。妥協する」
「ユーシャ?」
「ふふふ。言ってくれるわねユーシャ。
ユーシャにもお仕置きが必要みたいね」
「やめんか!
この子はボッチなのだ!
本当は勇気を振り絞っておるのだ!
友達を作るなんぞ初めてなのだ!
この心音が聞こえんのか!!」
「ちょっとキモいわ、エリク。
貴方こそやめてあげなさいよ」
「エリクのバカ……」
なんでぇ!?




