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04-54.六年ぶりの帰省

 オルドニェス侯との話し合いが終わった後は、城まで迎えに来た馬車に乗って次の目的地に移動した。


 馬車の中で合流したスノウとリリィと共に、今度はアルバラード家へとやってきた。変わらずパティとユーシャも同行中だ。そしてもう一人の同行者は流石に馬車に乗り切らなかった為、現地で合流する事となった。



「まさかこちらにまで付き合ってくれるとはな」


「放っとけるわけねえだろ。だいたい大将は」


「ベル兄! エリクさんにそんな口聞かないで!」

「……」


「うぐっ……」


 リリィの言葉とスノウの視線に耐えられなかったらしい。さしもの騎士団長様も妹達の前では型無だ。でもあんまり虐めないであげて。ベルトランにはいっぱい恩があるのだ。


 ベルトランもスノウの帰省に立ち会いたかったのだろう。だが勿論それだけの理由で仕事を抜け出してきた筈もあるまい。間違いなく私の監視も兼ねている。陛下から強く言い含められているのだろう。これは屋敷に帰るまで続きそうだ。



 この後まだアンヘル家に行く用事もあるのだが。ついでについてきて顔繋ぎもしてくれるのだろうか。向こうはマーちゃんがアポを取ってくれているから心配は要らない筈だけど。


 とは言え騎士団長が同行してくれるなら都合も良い。アンヘル卿も安心してくださるだろう。私的にはアンヘル卿は少しおっかないイメージもあるから、間に入ってくれるなら心強い。卿とはまだ会ったこともないけど。でもアンヘル卿は間違いなく娘達大好きお父さんだもの。ファムどころかマーちゃんまで誑かした私に良い印象を持っているかは微妙な所だ。




「ようこそ! 妖精王陛下!」


 アルバラード卿はベルトランとよく似た大柄な体躯の御仁だった。ベルトランの父君にしては若々しい。そしてどうやら本気で私のことを歓迎してくださっているようだ。あと声が大きい。それと距離が近い。もうちょい離れてください。後ろに立っている奥方らしき女性の額がピクピクしてます。



「突然の訪問を快くお許しくださり感謝致します」


「こちらこそ! 私も妖精王陛下とは一度お会いしたかったのだ! そして何より我が娘を連れ帰ってくださった!」


「そちらもお連れするのが遅くなり申し訳ございません」


「事情は把握している! 全ては我が愚娘が招いたこと! 妖精王陛下が気に病む事ではありませんぞ!」


 そう言ってくれて何よりだ。あとほんとそろそろ離れてください。近いです。息が当たります。



「あなたぁ♪。いい加減にしなさい♪」


「ぬぅぉおおお!!! 頭がぁぁあ!?」


 突如アルバラード卿が引き戻された。どうやら奥方がアイアンクローをかましたようだ。ぱわふる。



「ごめんなさいね。こんな所で。皆様どうぞ奥へ」


「奥方様。よろしければ先にご家族だけでお話ください」


 スノウ、いや、フラビアとは六年ぶりの再会だと言うのに、抱き合うどころか言葉を交わそうともしておらんのだ。私達に構うより先にやるべき事もあるだろう。



「お気遣いありがとうございます。こうして娘の顔を見れただけでも十分でございます」


 あら。断られちゃった。



「大丈夫だ。行こうぜ」


 ベルトランが私に囁いてから皆を促した。このまま立ち止まっていても仕方がない。何にせよ落ち着いて話をしよう。



 応接室のような、或いは談話室のような広々とした部屋に場所を移して話を始めた。内容はもっぱら私達の事だ。特にスノウの話に絞る様子もない。なんだか自然体過ぎて拍子抜けだ。もっと感動の再会になるものと思っていたのに。スノウの記憶が無いから気を遣っているのだろうか。ご両親の気持ちが分からない。喜んでいないというわけではないと思うのだけど。やはり待たせすぎてしまっただろうか。話しが伝わってから数ヶ月は経過している。途中からは度々リリィが様子を伝えていた筈だ。心の整理もとっくに出来ていたのかもしれない。



「そうか。オルドニェス侯の。ふむ」


 珍しくアルバラード卿が言葉を止めた。先程まで変わらぬ熱量でガンガン言葉を発していたのだが。



「承知した。心配無い。侯爵は必ず約束を守るだろう」


 それはなんとなくわかる。あの御仁は正統なのだ。第三王子一派においては異質とすら言える存在だ。互いに足を引っ張り合う事が常態化している連中の中で自らの在り方を貫き通しているのだ。必ず彼は約束を守るだろう。私も同感だ。たった一度話しただけだが彼からは卑劣な気配を感じなかった。ベルトランやニアが警戒するのもそれ故なのだろう。



「この後はアンヘル家にも?」


「ええ。ご挨拶に伺おうかと」


「いいや。それには及ばない。うちに呼ぼう。この際だ。ファティマ嬢の件では奴の言い分も聞いておきたい。うちも人様の事は言えんがな! ガッハッハ!」


 ガハハじゃないが。


 わかってはいたけどアルバラード卿とアンヘル卿は随分と親しいようだ。



「わかりました。でしたらファティマとマルティナもこちらにお呼びさせて頂きます」


「うむ! 是非そうしてくれ! 遣いはうちの者に行かせよう!」


「いいえ。その必要はございません。既に連絡は済ませました」


 たった今ファムに話しをしておいた。元々アンヘル家にも行く予定だったから準備は万端だ。目的地を変えるだけなら簡単に済む。



「なんと! それが噂の魔導か!」


 察しが良い。



「ええ。その一種です」


 多分魔導の中でも相当高度なやつだけど。人間が魂にまで干渉出来るようになるのは何時になるやら。



「なあ、大将」


「なんだベルトラン」


「なんで変な喋り方してんだ?」


「なんだその言い草は」


「気楽に行こうぜ。内密にとは言え大将はヴァレリアと婚約してんだ。二人の事も自分の親父とお袋だと思って接してやってくれよ」


「そうだそうだ! 大切な事を忘れておったな! して! 正式な婚約は何時に!」


 あかん……。


 ベルトランめ……。わかってて口にしおったな……。



「やめなさい。二人とも。今は王女殿下の御前ですよ」


 奥方様も一応止めてはくれているけれど、どう見てもその目は笑っていない。私にハッキリ答えさせたいのは彼女も同じなのだろう。当然だな。……どうしよう。



「安心して母様! エリクさんは必ず責任を取ってくださるわ!」


 くっ! 援護に見せかけたフレンドリファイアが!



「フラビアはどうなのですか?」


「……私は」


 待て! 椅子とか言うなよ!?



「今の私はスノウ。エリクさんの物として生きるって決めたの。どんな形でもエリクさんの側にいる」


 スノウ!?



「そうですか。ならば心配は要りませんね。あなたは昔から……いえ。何でもありません。しっかりやりなさい」


「はい。……母様」


「……そう。もうママとは呼んでくれないのね」


「呼んでおったか? 痛っ!?」


 野暮なツッコミを入れたアルバラード卿が成敗された。



「ベルトラン。あなたは職務に戻りなさい」


「いや、俺は」


「ベルトラン」


「はい。母上」


 良いの? お母様の指示なら陛下の命令上書き出来るの?



「じゃあな大将。頼むからこれ以上騒ぎは起こさんでくれよ」


「うむ。付き合わせて悪かったな。またいずれ酌でもしてやろう」


「っ!」


「お酌? ベルトラン? あなたまさか?」


 ベルトランは既にその場に居なかった。お母様からの問いかけは聞こえなかったようだ。そういう事にしておいてやろう。


『散々世話になったのに。ギンカは酷い子です。めっ! ですよ!』


 可愛い。

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