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04-53.婉曲表現

「というわけだ」


 少しだけ作戦会議の為の時間を貰う事になった。オルドニェス侯本人がそう勧めてきたのだ。今の私に碌な手札が無いと判断したらしい。侯爵も忙しいだろうに。一旦仕切り直した方が結果的に早く終わると判断したのか、或いは残ったニアから何か情報を引き出そうと判断したのか。でも後者の線も無さそうだ。今のところ無難な世間話しかしてないし。



「終始劣勢だったわけね」


 隣室で待機していたパティとユーシャと合流し、状況を一通り伝えてみた。



「ベルトランはどう思う?」


「だから言ったろ。厄介だってな」


 私が逃げないよう見張る為と言ってついてきたが、やはりベルトランも対策会議に参加してくれる気はあるようだ。こっちから聞いた時に限るのだろうけど。



「確かに彼は正論しか言っていないのかもしれない。けれどそれでも隙はあるわ。オルドニェス侯の娘はイネスだけよ。あの子の身代わりとなる子を新たに養子に加えて女神の加護を与えたって、それで本当に第三王子が納得するとも限らないわ。他の側近たちは間違いなく妨害してくるでしょうね」


「だがそこをどうやって突く? そもそも加護を与えるのは無しだぞ?」


「そっちの心配は要らないわ。侯爵本人がヒントをくれているじゃない」


「ヒント? ……まさか神器を加護と言い張って与えろと言うのか?」


「そうよ。別に加護が一回きりでも良いわけよ。侯爵だってその秘密を喧伝したりはしないわ。重要なのは女神の御遣いから何かを与えられたというその事実だけなのよ」


「この国の者達は女神様を崇拝しておるのか?」


 そんな感じは全然しないけど。



「違うわ。畏怖しているだけよ。女神の力を信じているからこそ警戒もしているの。そもそも信仰なんかしなくても勝手に神器をばら撒いていくんですもの。混乱と一緒にね」


 なんともこの国らしい考え方だな。



「侯爵は最初からそのつもりで加護と言っておったのだな」


「でしょうね」


「ところでベルトランは」


「……」


 無言で睨まれてしまった。聞くなと言いたいのだろう。取り敢えず見過ごしてくれるつもりではあるようだ。



「それで先程言いかけていた隙についてだが」


「互いに秘密を握っていると牽制し合うのよ。ただ加護を与えるだけで終わりではダメなの。加護が一回きりである事も納得させなくちゃいけない。だから私達は対等なのだと自ら主張するのよ。エリクがそこを黙っていたら付け込まれるわよ。だからってあからさまに脅してもダメ。そうなれば侯爵はまた正論でねじ伏せてくるでしょう。あくまで匂わせるだけになさい。私は口を噤む。だからあなたも噤みなさいと暗に示すのよ。それで侯爵も納得する筈よ」


「……そういうのは苦手だ」


「簡単な対策があるじゃない。ユーシャを介して私と話しながら進めればいいのよ。エリクは私の言葉を伝えるだけでいいの。ね? 簡単でしょ?」


「そうだったな。うむ。それでいこう」


「まだよ。幾つか注意点を先に伝えておくわ。それからお姉様の事もちゃんと紹介して頂戴。何が夢よ。やっぱり昨晩の事は本当にあった出来事だったんじゃない」


 そこで責められるのはなんか納得いかない。



「ネル姉さん」


『つーん』


「ダメだ。へそを曲げている。パティには会いたくないらしい」


「なんでよ!?」


「パティが酔っ払って台無しにしたからだって」


 ユーシャも聞いておったのか。わざわざ伝えるなんて姉さんも相当腹に据えかねているらしい。



「あんなタイミングで出てくる方が悪いじゃない!」


 それはそう。


『ギンカ!?』



「まあ姉さんの件は後にしよう」


「そうね。とにかく話を続けましょう」


 それからパティは手早く要点を纏めて伝えてくれた。後はラジコンに徹するだけだ。だが心しよう。あの侯爵は一筋縄ではいかんだろうし。




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「加護を与えよう。貴殿の要求を飲む事にした」


「それは結構。ならば」


「後日だ。準備がいる」


「よかろう」


 良くないだろうに。イネスの抜けた穴は早急に埋めねばなるまい。第三王子も今か今かと待ち構えている筈なのだし。だがそれでもこうして涼しい顔を浮かべて見せるのだな。そこは素直に流石だと感心するぞ。



「くれぐれも内密にな。頼めば誰にでも加護を授けるなどと思われては貴殿も都合が悪かろう」


 なるほど。これが匂わせか。率直に養女の事を言及してもダメなのだな。



「……」


「どうかしたか?」


「いや。いい。承知した。お主もわかっておろうな」


 怪しまれたか? 先程までの私と違いすぎたかもしれん。自分で言うのはなんだが私は素直だからな。駆け引きみたいなやり取りは苦手なのだ。単純にワンテンポ遅れてるのもあるかもだけど。仕方ない。聞いた言葉をそのままユーシャ伝いにパティに伝えて、パティの言葉を聞いてからその通りに返事するなんて、手間の掛かった事をしているのだし。姉さんの助力があればもう少し楽だっただろうに。


『うぐっ……』



「勿論だ。私もお主らと深く関わるつもりはない。これ以上余計な恨みを買うのも御免だからな」


「殿下には私から進言しよう」


「それは助かる。良き理解者を得られて何よりだ」


 流石にリップサービスが過ぎない?



「白々しいにも程があろう」


 ほら。なんかしかめっ面しちゃったじゃん。



「ただし加護は使い切りだ。使えるのはたった一度だ。くれぐれも使い所を見誤るでないぞ」


「……よかろう」


 しかめっ面が酷くなった。けれど素直に同意してくれた。驚いたな。もっと何か言ってくるかと思ったのに。



『ブラフですね。内心都合が良いと思っています』


 姉さん? もしかしてパティに張り合ってる?



『なっ!? いっ意地悪言わないでください!』


 わるかったってば。

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