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04-47.三次会②

「ところでミランダは魔導に興味があるのか?」


「ええ。勿論よ。やるからには真剣にやらせてもらうわ」


 その口ぶりは別に元から興味があったわけでもないな? ミランダは正直者だな。



「そうか。当面魔導を扱う事は出来んがそれも研究次第だ。お主らの頑張りに期待しているぞ」


「はい。妖精王様」


「うむ」


「研究所の稼働は私達がこの家に戻ってきてからになるわ。ミランダもそれまでに諸々済ませておいて」


「ええ。承知したわ」


 引っ越しとかあるものな。一応学園の寮はもう数日使わせてくれるらしい。それでも次の子達の事もあるから早めに空けないとだけど。



「ミランダの実家はどこにあるのだ? パティは挨拶しに行かんでも良いのか?」


 ミランダの生家であるソシアス男爵家は、イネスのオルドニェス侯爵家とは違って友好的だ。本来なら雇い主でありこの国の姫でもあるパティから出向く必要も無いとは思うが、卒業式の日というこの土壇場で引き抜いてしまったからな。


 親御さんである男爵にも都合はあろう。事前に伝えていたならともかく、今から手紙か何かで伝えるだけではミランダ本人が礼を欠いてしまう。私達には国中何処にでもすぐに行って帰ってこれる移動手段があるのだ。ミランダを送ってやるくらい造作もない。ならばついでに雇い主であるパティからも一言くらいあってもいいだろう。姫様が雇い主と知れば男爵も喜んでこそくれ反対する事も無いだろう。イネスと同じように既に婚約者が決められていたとかなら話は別だが。



「そうね。一度顔を出させてもらいましょうか」


「ダメよパティ。お姫様が来たらお父様腰抜かしちゃうわ」


「だからって何も無しってわけにもいかないじゃない。でも確かに男爵家にお邪魔するのは色々とマズいわよね。かと言ってお父様にお越し頂くのもね。ミランダの実家は遠方だもの。困ったわ。誰かに代わりに行ってもらうしかないわね」


 なるほど。立場があると面倒なものなのだな。パティもその辺は案外と律儀だ。勝手に冒険者をやっていたりはしても、それで旅に出て何日も行方を晦ますとかはしていなかったようだし。少なくともお父上や周りの人達に迷惑をかけないようにと気を遣っていたのは間違いない。



「必要無いわ。いずれ休暇を頂いて自分で話に行くもの。取り敢えず手紙でも出しておけば十分よ」


「ダメよ。ミランダ。そんなの認めないわ。私達の用事が済んだらすぐに向かいましょう。ミランダの実家は遠方だけどソラに乗っていけばすぐだもの。どうせ一日で帰って来れるわ。ならやっぱり私が行きましょう。どうせ竜で乗り付ければ騒がしてしまうもの。姫の一人くらい些事よ些事」


 折角律儀だと感心したばかりだと言うのに。


 だがまあ、だいぶ乱暴な論法ではあるが異論は無いな。なんなら私も付いていこう。もしかしたら妖精王の噂だって届いているかもしれないし。私達が王都で暴れ始めてから既に半年近く経過しているものな。



「……わかったわ。ありがとう。パティ。ふふ♪ まさかこんなに早く家族と会ってくれるなんて思わなかったわ♪」


「なら少し気が早いけどそういう意味でも挨拶しちゃおうかしら♪」


「調子に乗るな。二人とも」


 まったく。この子達は。なんだかパティが二人に増えたみたいだな。



 にしてもまた予定が加わったな。オルドニェス家や第三王子との件もあるし、諸々早く終わらせて落ち着きたい所だ。休暇と言いつつ大忙しだな。年度末の切り替わりなんてそんなものか。特に卒業と就職の境ともなれば尚の事だな。新生活への備えが必要なのはどこでも変わらんのだろう。



「ナダル教諭とは何時からという話になっておるのだ?」


「新年度よ。放課後にディアナが連れて来る事になっているわ。あとさっきは副業なんて言ったけれど、一応ナダル先生は学園を代表して来てもらう扱いになるから。所属は学園教師のままよ。エリクもそのつもりでお願いね」


「学園と共同研究という形にでもするのか?」


「ええ。そんな所よ。取り敢えずは一年だけね」


「その一年以内に落とすのか? 眷属に?」


「そうよ。引き抜きはそれからよ。けど一年と言わず早めに落としてくれて構わないわ。ナダル先生もほら。そろそろご結婚とかされるかもだから」


「既に相手くらいいるのではないか? あれだけの器量だ。どこであっても引っ張りだこであろう」


 見た目の歳は二十代中盤かなんならもっと若いくらいだ。それで美人で気立てが良く教師としても優秀なのだから、人気が高いであろう事は想像に難くない。



「ふふ♪ やっぱりエリクも気に入っているのね♪ けど安心して♪ 今はまだフリーよ♪ 念の為学園長にも確認したもの♪ 間違いないわ♪」


「そんなもの知っておるとも限らんだろうに」


「あ、そっか。エリクは知らないのね。ナダル先生って学園長の娘さんなのよ」


「え? そうなの?」


 シルビアに先に驚かれてしまった。あの二人全然似てないから私も普通に気付かなかった。


 でもナダルって家名だよね? シルビアは学園長先生の家名って知らなかったの? そういうのって開示されていないのだろうか。確かに皆学園長としか呼んでなかったものな。


 あれかな? 学園は貴族やら王族やらの力を振りかざせないようになっているから敢えて家名を伏せていたのかな? 学園長先生だって多くの王族や貴族達が学ぶ王都の学園を預かっている以上は高位貴族の一人ではあるんだろうし。だからこそ率先して学園の方針を守っていたのかも。


 それでも当然姫であるパティや他の貴族の子女達は最初から知っていたのだろうけど、平民の出であるシルビアだけは知る機会が無かったのかもな。



 でもそうすると何故ナダル教諭は家名の方で呼ばれておったのだ? 学園長先生が母親だからか? 敢えて他人扱いする為に? あの母娘は特に職務に忠実そうだからそこんとこ厳しそうだものな。役職も無いナダル教諭では学園長みたいに家名を伏せるのも難しいし、さりとて名前で呼ぶのも問題があったのだろう。それで結局家名の方で呼ぶ事にしたのだな。きっとたぶん。



「ナダル教諭の名前はなんと言うのだ?」


「ダリア。ダリア・ナダル先生よ」


 ならば今後は敢えてダリアと呼ばせてもらおう。



「ダリア教諭はご実家を継ぐ可能性なども無いのか?」


「ええ。ナダル家はダリア先生のお兄様が継ぐって決まってるから」


 なるほど。とすると。



「まさかとは思うがダリア教諭の完全な引き抜きも根回し済みか?」


「当然じゃない。学園長も快く承諾してくれたわ♪」


 本当か? あの人結構娘を大切にしているタイプだぞ? 私達のようなトンチキ集団に混ざるのを良しとするか?



「ユーシャ」


「うん。エリクの想像通りだよ。パティは取引したの」


「ダメよ♪ ユーシャ♪ エリクには内緒って約束よ♪」


「ダメだ。話せ」


「その条件が魔導の共同研究。話しが逆なの」


「おい」


「うふふ♪」


 うふふじゃないが。



「まあ聞きなさいな。エリク」


「勿論聞くとも。言い訳があるならな」


「言い訳だなんてそんな♪ これはとっても大切な話よ♪」


 態度がそうは見えんのだが。この浮かれポンチに大切な話をさせるのは止めるべきではなかろうか。



「魔導研究の成果は学園に発表してもらうの♪」


「……なるほど。そういう事か。だが何故それを内緒にしたのだ? パティはダリア教諭に全ての功績を積ませるつもりなのだろう? それは本当に大切な事ではないか。レティともちゃんと相談したのか?」


「勘違いしないで。そこまでの話じゃないわ」


「どういう事だ?」


「考えてみて。期間はたったの一年だけ。その間に発表できる技術ってどれだけのものがあると思う?」


「まさか意図的に絞るのか?」


「いいえ。これは現実的な話よ。たった一年で魔導の全てを解き明かせる筈もない。それに言ったでしょう? ナダル先生を早めに口説き落としてって。完全に引き抜けば結局私達の発表になるのよ。エリクはこういうやり方嫌うでしょ?」


「嫌うと分かっているならやめればよかろう」


「ダメよ。これは必要な事よ。これからの私達は探求者であると同時に王族で貴族で商人なの。それに勿論私は情報を隠したわけではないわ。そもそも隠せるようなものではないもの。妖精王が数多くの女性を囲っているのは周知の事実よ。学園長もそれを承知した上で娘を売り渡してくれたの。それが学園の益に、ひいては教育者としての糧になると承知してくれたの。そして勿論ダリア先生の為にもね」


「……確かに人族の扱う魔導の第一人者という立場は破格のものであろう。だがダリア教諭本人の望みと合致するかは」


「そこよ。エリクはきっとそう考える。だからなの。王侯貴族って普通将来を自分で決められる人なんて殆どいないの。皆当たり前に親の決めた道に従って生きていくの。それが義務なんだもの。民より良い暮らしをする分、私達は厳しいルールを自らに課すものなの。まあ王位を蹴った私が言っても説得力は無いでしょうけどね。勿論イネスを責めるつもりもないわ。しつこいようだけど私にそんな権利も無いしね」


 言わんとしている事はわかるがな。



「エリクはまだこういう考え方に慣れていないもの。だから情報を明かしていくのはある程度引き下がれない状態になってからと思っていたの。どうかそれを卑怯だとか薄情だとか言わないでほしい。私はこれからも必要な事を為すつもりだもの。けれどエリクから罵倒でもされたら、きっとあっさりと心が折れてしまうわ。だから理解してね♪ 何時でも私の味方でいて頂戴♪」


「なら先ず話せ。何時も言っているだろうが」


「勿論エリクの事は信頼しているわ♪ だけどエリクにも心労をかけたくないもの♪ 私はこれからもエリクが嫌がりそうな事は隠れてやらせてもらうわ♪」


「それをやめろと言っておるのだ」


「ならエリクも変わるように努力して。私がどれだけ未来を考えて周囲に気を回しているのかもっと信じて」


「……そうだな。すまん」


 そうだ。私が悪いのだ。つい先程だってパティの考えを読みきれずに責めてしまったばかりではないか。だからこそパティは話せないのだ。パティは私の考えが道理として正しい事は信じてくれている。だが私が私の知らない常識を前提とした駆け引きを見誤る事もまた知っている。王侯貴族の考え方などその最たるものだ。私はまだまだ彼らの常識が足りていない。故にパティの隣に立つ資格を持ち合わせていない。これから一つの組織の長として戦い抜くつもりでいるパティに水をあけられてしまっているのだ。それを自覚して謙虚にならねば何時まで経っても私の立ち位置は変わらんだろう。きっとその間にもパティは前に進み続けていくのだ。



「大丈夫よ。エリクにも学びの機会はあるわ。来年度はディアナと一緒に学園へと通うのでしょう? たった一年であってもエリクならきっと沢山の事を学び取れる筈よ」


「必要無い。エリクはエリクのままでいい。そういうのはパティ達が担当すればいい」


「そうね。ユーシャのその考えにも一理あるわ。というか私も本音としてはその方針で行きたい所なんだけどね。でもエリクが私の隣に居たいと思ってくれているみたいだから♪」


「ダメ。エリクの居場所は私の隣。ディアナの付き添いはアカネに行かせればいい。あの子にこそそういう経験が必要」


「う~ん。どうしましょう。否定する材料が無いわ。今回ばかりは全部ユーシャの言う通りね。けど私としては」


「けども無し。パティの隣にはディアナがいる。エリクもだなんて欲張りすぎ」


「あらあら♪ ふふ♪ だそうよエリク♪ どうする♪」


「……少し考えさせておくれ」


「ふふ♪ 勿論良いわ♪ この件はディアナ達とも話さないとだものね♪ それにエリクにはジェシー姉様がついているもの♪ 念話さえ使えるようになれば何時でも知恵を貸してもらえるわ♪ それで追々知っていけば良いものね♪」


「……そうだな」


 ユーシャの懸念もわからんでもない。私にまで貴族的な考え方をしてほしくないのだろう。私は妖精王だ。王ではあっても人の常識に縛られる理由もない。何より私が積極的に動けば目立ちすぎる。パティに対外交渉を任せてお飾りに甘んじるのも実はそれはそれで合理的な考えでもあるのだろう。


 けれどやっぱりパティと同じ視線を持ちたい。パティの考えを瞬時に読み解きたい。私はパティの全てが欲しい。パティの隣を誰かに譲ってしまうなんて我慢ならない。例えそれがディアナにであっても。


 パティの隣に立てばユーシャの隣には居られないなんて話でもない筈だ。けれど説得力は必要だ。ブレない私を持たなければ。ユーシャの懸念は今の私を見てこそのものだ。だから私はどちらにでも立てるのだと皆に証明せねばならん。今の私にはそれが足りていない。しかし悩む必要は無い。ただそれだけだ。問題がわかったのならば後は改善するだけだ。




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『というわけなのだが』


「それでなんで私に相談するのよ」


『私の知る大人の女性と言えば先ずはやはりニアだからな。何時も頼りにしておるのだ』


「はぁ……。あなた実はバカでしょ?」


『これでも記憶力は良い方だ』


「ならその自慢の記憶力で私の言動を覚えておけばいいじゃない。どうせ何時でも覗いてるんだから。わからない事があれば隙を見て聞きなさい。それで十分勉強になるでしょ」


『恩に着る。ありがとう。ニア。是非そうさせてもらう』


「そう言うなら例の補填も忘れないでほしいわね」


『……ああ』


 これはあの話か。何がいいかと聞いたら叱られてそのままになったやつ。何でもすると言ってはいかんのだったな。



『今度デートでも如何かな?』


「……行けるわけ無いでしょ。私の立場考えなさいよ」


 一瞬悩んだな。方向性としては悪くなさそうだ。



『そうだ。良いものをやろう』


「何よ?」


『何でも収納してくれる肌着スライムだ。しかも今ならなんと防腐じかんていし技能持ちだ。護衛役としても申し分ない。ベルトラン以外が相手ならば尽くを返り討ちにしてくれるだろう』


「……何よそれ。普通に欲しいやつじゃない」


 何故か不満そう。



『ちなみに私とお揃い(の肌着)だぞ♪』


「要らないわよ!!」


 あかん。普通にキモかったか。



『まあ冗談はともかく受け取っておくれ。勿論礼とは別で考えてもらって構わん。念の為だ。私の魔力があればニアには毒だろうがナイフだろうが効かんが、それでも無力化する手段はあるからな。そんな時にもアウルムがいれば心強い』


「……そう。なら明日届けに来なさい」


『うむ。ついでにそれまでにニアの望みも考えておくれ。私も今晩考えよう。だが私はやはり知らない事が多すぎる。こんな時ニアが何を喜んでくれるのか見当もつかん。そういう事も教えてくれると助かる』


「ダメよ。自分で考えなさい。何度でも提案すればいいわ」


『ありがとう。ニア』


「なんでそこでお礼言うのよ。変な人ね」


 ふふ♪ やはりニアは素直じゃないな♪

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