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04-43.少女の勇気

「ちょっと! なんでオルドニェス家の令嬢に手ぇ出してんのよ!」


 ニアに引っ張られて別室に移動した途端、即座に振り返ったニアが閉めた扉に向かって私を押し込むように詰め寄ってきた。所謂壁ドン的なやつだ。残念ながらニアが怒り心頭な様子なので別の意味でドキドキしちゃうけど。



「オルドニェス? イネスの実家だな。手なんぞ出してはおらんが、いったい何が問題なのだ?」


「あそこは思いっきり敵対派閥よ! 第三あのバカの派閥なのよ!」


「え……え?」


 イネスが? マジで?



「え? じゃないわよ! 私言ったわよね!? 油断するなって言ったわよね!?」


「いや、本当に手なんぞ出しておらんのだぞ? パティの研究所に就職が決まったというだけで……」


「ダメに決まってるでしょぉ!!」


 えぇ……。



「パティもパティよ! いったい何考えてるのよ!!」


 いや、そもそも承諾したのはディアナで、パティはまだ把握すらしていない筈だ。最初から想定済みなら話は別だけど。



「ま、まあ待て。少し落ち着け。どうしてそこまで荒れておるのだ? 派閥云々もわからんではないが、そのオルドニェス卿自身が彼女を近づけさせようとしておるのだろう? 情報流出を懸念しているのか? それとも」


「何勘違いしてるのよ!! あの侯爵がそんな事するわけないでしょ!!」


「頼む。落ち着いておくれ。私には何が何やらさっぱりだ。問題の原因を説明しておくれ。恥ずかしながら貴族の事情についてはまだまだ勉強不足なのだ。だから頼むニア」


「……そう。そうよね。ごめんなさい。あなたが知る筈なんて無いわよね。わかった。一から説明するわ」


 よかった。ようやく落ち着きを取り戻してくれた。だがニアがここまで取り乱すとはな。イネスはいったい何者なのだろうか。



「オルドニェス嬢は卒業後の進路が既に決まっているのよ」


 え? そうなの?



「彼女は第三王子の側室入りが決まっていたの」


 ……は? え? 側室?



「オルドニェス侯が彼女をあなたに近づけさせる筈が無いわ。彼女は自らの意思であなたに近付いたのよ」


 あ~。そういう……。


 そうか。あの必死さは厳しい親に言い含められてのものではなく、その親の決定に抗うが故だったのか。あの怯え方は貴族としての役目を投げ出す事に対しての恐怖でもあったのか。或いは妖精王を騙す事に対しての恐れ多さの現れでもあったのかもしれん。同級生達の援護はそんな彼女を純粋に手助けする為のものだったのか。



「あなたは利用されたのよ。彼女はあなたを隠れ蓑にするつもりなの。悪いことは言わないわ。採用は取り消しなさい」


「いいや。そういう事なら私は彼女を全力で庇護しよう」


「……はぁ」


 頭痛が痛そう。



「ねえ。それがどういう事か本当にわかっているの?」


「うむ。私達はオルドニェス家に限らず第三王子一派を敵に回すだろう。どころか奴らに口実を与える事にもなる。陛下も今回ばかりは止めんだろう。私達が自ら喧嘩を売るのだ。その責任は私達自身の手で果たさねばならん」


「……足りないわ」


「勿論この件では第一王子派閥の力は借りん」


「……そこまでわかっていて何故」


「私は第三王子派閥が気に食わん。そんな奴らに利用されようとしている少女が私に助けを求めてきたのだ。ならば答えてやらねばならん。私は王だ。彼女が我が臣民に加わると言うならばこれを全力で守り抜こう」


「なによそれ……」


「パティは最初からわかっていたのだろうさ。だからこの屋敷に場所を移したのだろう。きっとまた眷属に加えろと言う筈だ。私は暫く眷属を作らんと決めていたが、場合によってはパティ達の提案も受け入れよう。それ程に本気で彼女を守るとも。今この時を以って彼女は私の庇護下に入った。もう家には帰さん。ならば家族として迎え入れてやらねばな」


「それじゃあただの誘拐よ。相手の出方次第で国も動くわ」


「そうだな。力を借りんと言っておいてなんだが言付けだけでも頼めんか? 流石に一言も無しでは向こうも心配するだろう。それが親としてか、貴族としてかはわからぬがな。案外と喜んでくれる可能性だってあるかもしれんぞ?」


「あり得ないわ。オルドニェス家は瀬戸際なの。このタイミングで彼女を失えば取り潰しも免れないわ」


「第三王子の一存程度で侯爵の地位は奪えまい?」


「それは奴らを舐めすぎよ。やろうと思えば幾らでも方法はあるわ。足の引っ張り合いは奴らの十八番ですもの」


「だが我らにどんな妨害が出来ると言うのだ?」


「奴らならなんでもありよ。ディアナ達への学園内での嫌がらせでも。デネリス公を人質に取るでもね」


「……お父上には護衛が必要か。メアリを戻すべきか」


「まあ彼ならそうそう心配は要らないでしょうけれど」


 なんか凄い実力者として評判なのだよな。腕っぷしの話じゃなくて貴族として。実際パティ達も全然心配してないし。私が知らないだけでメアリと同等の戦力だって他にも抱えているのやもしれん。



「新学期まではディアナの実家で過ごすとしよう。ソラに乗っていけばすぐだ。その間に向こうの守りを確認しよう」


「私だって無事とは限らないのよ?」


「心配は要らん。私が守る。私のニアが傷つく事はありえない」


「……私個人で出来る範疇なら力を貸してあげるわ」


「うむ。最初からそのつもりだ。派閥としての力を借りれずともニアには出来る事が幾らでもあるのだからな」


「……もう」


「もう一人、ミランダ・ソシアスについて懸念はあるか?」


「そっちは心配要らないわ。男爵家の娘だもの」


「男爵? 本当なのか? あの子は皆のリーダー格のような扱いをされているぞ?」


「彼女は優秀よ。元々私も声掛けてたんだから」


「フラれたのか?」


「パティ一筋なのよ」


 ああ。なるほど。でも凄いな。第一王子の娘から誘われて断れるなんて。男爵の娘ではそれも難しかろうに。



「出立は明日の夜になさい。明日の昼過ぎで陛下との面談がセッティング出来たわ。あなたも来なさい」


 パティがギルドとの諍いに関する顛末を報告するのと、ドラゴン退治の報酬として箱を貰えないかと交渉するのだったな。けど私は顔を出さない方が良いという話だった筈だが。



「良いのか?」


「仕方ないわ。陛下がお決めになられたんですもの」


 そうか。それは確かに仕方ない。



「オルドニェス侯にも話を流しておくわ。どうせなら自分で宣戦布告なさい」


「そうだな。侯爵が悪人でないなら私のやり方には問題があるものな。一度顔を合わせておくのも良いだろう」


「呑気なものね。そんな調子ではまた嫌な思いをするわよ」


「大丈夫さ。私にはニアがついているからな」


「バカ」

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