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04-39.正攻法

「おいギルド長! よくも騙してくれやがったな!」


「騙しただと? ふざけるな! お前こそ討伐依頼はどうした!」


 ギルド長は相変わらずだな。気になって覗いてみれば。



「ギルド長! もうやめてください!」


 ギルドまでニアとレティを先導してきたナタリアが、慌てて止めに入った。



「ナタリアだと!? 今更お前が! ……なるほど。やはりそういう事か。妖精王が女の扱いに長けているという話は本当の事だったようだな!」


「聞いていた以上に愚かな男ですね。何を勘違いしているのですか? 私はこの国の王女としてこの場を訪れたのです」


 レティ? 何時もと様子が違う?



「レティ! あなたは!」


「黙りなさい! ジェセニア!」


「!?」


 驚いた。何時ものお気楽お姉さんなレティとは全然違う。



「タマラさん。その痴れ者を捕らえてください。此度の王女われらに対する不敬は看過できません。このような公の場であれば尚の事です」


 ……当然の話だな。事もあろうにこのギルド長はたった今レティとニアを正面から愚弄したのだ。妖精王に誑かされた愚かな女だと。そう言ったのだ。


 ギルド内だって別に治外法権なわけじゃない。以前王女達が冒険者として訪れていたからと勘違いしたのだ。単に頭に血が上りすぎた故のうっかりでもあったのだろう。けれど彼は口にしてしまった。当然そのような暴言を吐けば立場ある者とて只では済まない。王族を本人達の眼の前で堂々と愚弄して生きていける程甘い筈もない。



「くっ! どこまでも卑劣な真似を!」


 この期に及んで悪態をつくだけの余裕があるらしい。こやつのメンタルは驚く程強靭だな。相変わらず使い所を間違えているけど。


 しかしあっけない幕引きだったな。これではニアが色々と準備してきた駆け引きも必要なくなってしまった。この男はそのチャンスを自ら放り出してしまったのだ。本当に愚か者だ。次のギルド長にはまともな者が就くとよいのだが。



「妖精王! 見ているのだろう!」


 ああ。先程の言葉は私に言っていたのか。



「この悪辣な化け物め! 女ばかり操り自らは姿も見せん卑怯者め!」


 こやつ、もしかして本気で私を魔物だと思ってる? あとクシャナの事はやっぱりただの依代の少女だとしか思っていなかったのだな。



「何時までも貴様の好きにはさせんぞ!」


 いや、これはあれか。最後の悪あがきというか。私の印象を貶めたいのか。



「ギルドは貴様を逃しはしない! この国だけではない! 世界中の冒険者達が貴様を討ち滅ぼす! いずれ必ずだ! どこにも逃げ場は無いぞ! その時を覚悟するがいい!」


 こやつもこやつで既に根回し済みだったわけだ。これが虚勢ではないと言うのならだが。



「いい加減にしやがれ!」


「っ!」


 タマラがギルド長を小突いて気絶させた。これはタマラなりの気遣いだろう。これ以上醜態を晒させまいとしたのだろう。ギルド長の言葉に動揺する様子もない。本当に世界中の冒険者達が敵に回るだなんて考えているようには見えない。ここのギルド長が何を発信していたとしても、それだけで世界中の冒険者達が従う筈も無い。



「お前ら! よく聞け!」


 タマラはギルド長を片手で掴んだまま、ギルドロビーで事の成り行きを遠巻きに眺めていた冒険者達に言葉を放った。



「妖精王はそんなチンケなやつじゃねえ!」


 怒りもなく冷静に、ただ自らの誇りだけを込めてギルド長の悪あがきを打ち消し始めた。



「あいつはこのオレを真っ向から下してみせたぞ!」


 周囲の冒険者達からどよめきの声が上がる。タマラの言葉に素直に感心しているようだ。彼女をよく知る者達はタマラの言葉をそのまま信じたのだろう。


 これが実績を積み重ねてきた者への信頼か。私達にはこれが無かったからまともな会話すらままならなかったのか。パティも決して足りないとは思わんのだがな。きっと私が悪目立ちしすぎたのが失敗だったのだな。まあ、そんな事はとっくにわかっていたともさ。



 しかしタマラの言葉であっても疑う者は存在するようだ。ギルド長が撒いた毒が僅かにではあるが残っている。タマラも所詮女だったかと失望混じりの嘲笑を浮かべかけている者も確かに存在している。


 だがそんな者達は極少数だ。それもタマラに見えないよう隠れて嘲る者達だけだ。堂々とタマラの言葉を否定しようという豪胆な者は誰一人存在しなかった。



「俺は見たぞ! タマラが負けちまったところ!」


 一人の冒険者が楽しげに声を上げた。



「ギルド長の言ってたんは出鱈目だ! そもそも妖精王ってのも人形みてえな美少女だったぜ!」


 同じ席の他の冒険者も言葉を続けた。



「タマラと真正面から殴り合ってやがった! あれが人間な筈がねえ! 間違いなくあの娘が妖精王本人だろうぜ!」


 次々と目撃証言が上がっていく。



「途中から竜みたいな腕やら尻尾やら生やしてたよな!」


 随分しっかり見ていたようだ。結構な速さで殴り合っていたのに。彼らも上位の冒険者なのだろうか。



「おいタマラ! 俺達にもあの娘紹介してくれよ!」


「いいぜ!」


 タマラ!?



「当然オレに勝てたらだがな!」


「「「「無茶言うな!」」」」


 仲良し。



「なぁなぁ! ナタリアさん戻って来るよな! 俺ずっと待ってるんだぜ!」


 冒険者の一人が今度はナタリアに話を向けた。そちらにも次々と賛同する者達が現れた。ナタリアは随分と人気者だったようだ。襲われるかもなんて杞憂だったのかもしれない。



「ギルド長はなんかおかしくなっちまったけどよ。ナタリアさんはなんも悪くねえよな? 妖精王さんも許してくれてんだろ? だからタマラと一緒に来たんだよな?」


 なんかそう言われると許せない私がみみっちいみたいじゃん。いやまあ、私はもう知らんけど。後はニアに任せたし。


 そう言えばギルド長が取っ捕まったのに全然悲しむ人がおらんな。もしかして元々鼻つまみ者だったの? 高圧的過ぎたから? 単に冒険者達は野郎の行末になんて興味が無いだけかもだけど。



「なあ、姫さん達よぉ。あの話やっぱ無しでも良いか?」


 あの話? ああ。タマラが冒険者を辞める件か。



「……その話はまた後で」


 ニアは冷静だな。まだギルド長の処遇が正式に決まったわけでもないものな。ひいてはギルドと妖精王の間に起きた問題も解決したわけじゃない。だから致し方あるまい。タマラには悪いがもう少しだけ付き合ってもらおう。



「とにかく一旦帰りましょう。先ずはそいつを牢に放り込むわよ」


「おう!」


 なんかニアが少し疲れた様子だ。また予定が狂ってしまって頭が痛いのかもしれない。


 ところでそのまま雑に掴んで持って行くの? 流石に手錠でもして歩かせた方がよくない? いや、目覚めるとまたうるさそうだけど。仕方ない。担架でも用意してやるか。



「お? 魔王さんも見てたんか」


 担架だけに。



「あなた忙しいんじゃなかったの?」


 まあそうなんだけどさ。



「まだそちらは続いてますよね♪ もう少ししたらお姉ちゃんも参加しますね♪」


 お願い。それだけはやめて。




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「くっ! 流石ね! エリク!」


 ほんとなんでパティがそっち側なの? せめてパティだけでもこちら側につくべきじゃないの?



『ズルいよ! 主様! インチキじゃん!』


 ソラにだけは言われたくないよ!?


 まあ、なんだかんだと甘々な姉さんがさらに多くの力を貸してくれているから、だいぶ楽はさせてもらっているけども。



 参加者も随分と減ってきたと言うのに、この二人だけはあいも変わらず積極的に仕掛けてくる。いや二人だけではないか。シルビアもまだ諦めてはいないようだ。あの子はある程度のところで様子見に回ったのだ。正直力尽きるまで挑んでくると思っていた。パティとソラのせいかもしれん。二人だけレベルが違いすぎる。もう少し空気を読んでほしい。ロロですら程々のところで身を引いたのだぞ。

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