01-25.魔導と魔術
「これよ!私の求めていたものは!!
まさかこんな出会いがあるなんて!
これってやっぱり運命ってやつよね!
鴨がネギ背負ってやって来たってやつよね!」
興奮気味に私の攻撃を躱し続けるパティ。
不可視のはずの魔力の腕が完全に見切られているらしい。
パティにも恐らく魔力が見えているのだろう。
まさか魔力視は魔術師の必須技能だとでも言うのだろうか。
それはそうと、何を騒いでおるのだあやつは。
鴨とネギあるの?もしかして東の島国とかも?
ちょっと行ってみたい。
「まあでも、これはただ凄いだけね。
別に使いこなしているわけでもなさそうだわ。
エリク貴方、戦闘どころか魔術も素人でしょ?
同族達の中でも落ちこぼれだったとかそんなとこ?」
「生憎これは独学だ!」
「あ、ごめん。
デリケートな話題だったかしら。
悪気は無かったのよ。
ホント、ホント」
「落ちこぼれ呼ばわりしておいてどの口で!!」
「いや、ホントマジなんだって。
私はあなたに興味があるの!というか今湧いたわ!
仲良くしましょうよ♪」
「それは望むところだ!
目的を果たすまでの間に限るがな!」
「も~♪
そんなツレナイこと言わないでよ♪
ユーシャ共々末永く可愛がってあげるからさ♪」
「ふざけるな!ユーシャは渡さんぞ!!」
「貴方にその子が守れるかしら?」
「この!弱いもの虐めなど恥ずかしくないのか!」
「あはは♪開き直ってる♪
だからまだ攻撃してないんじゃん♪
とっくに初撃なんて終わってるのに♪」
そうだ。パティは避けているだけだ。
私がどれだけ魔力の腕で殴りつけようと、余裕綽々で回避を続けている。早くこいつを片付けてユーシャの加勢に行かねばならんのに!
ユーシャはメイド長に殴りかかっている。
結局私からは早々に離れてしまった。
そもそも誰かと一緒に戦うのが不慣れなあの子には、難しい要求だったのかもしれない。
しかも、あちらも同じように一発も当てられていないようだ。
メイド長も回避に専念しているだけだ。涼しい顔で。
「ほ~ら♪余所見しない♪」
「!?」
私はパティの突き出した杖の先端にぶつかり、大きく吹き飛ばされた。
なんだ今のは!?爆発した!?
これが魔術なのか!?
あの長ったらしい呪文詠唱は必要無かったのか!?
「どう?
これが私なりの魔導よ。
エリク程じゃないけど、人間にしてはやる方でしょ?」
魔導?
魔術とは違うのか?
「あら?どうしたの?戸惑っちゃって。
もしかして魔力見えてないの?
凄いのね、妖精族って。
よくそれで魔力を操れるものね」
「すまんが人間の魔術をご教授頂けぬか?
お主の言う通り私は素人なのだ」
魔術だの魔導だの、生憎区別は付かんのだ。
わかる言葉で説明してほしいものだ。
「じゃあ防いでみて。私の魔術ーーーーー!!」
「な!?」
パティが聞き取れない程の早口で何かを呟いた直後、巨大な火の玉が出現して襲いかかってきた。
私は魔力の腕を上空に突き出して、火の玉を受け止めた。
火の玉はあっさりとその場に停止し、一瞬間を置いてから大爆発を引き起こした。
「くっ!!」
必死に地面に魔力の腕を突き立てて爆風をやり過ごす。
ユーシャの事が気になるが、身動きすらままならない。
「はい、お~しまい♪」
いつの間にか側にいたパティが私に杖を突き立てていた。
どうやらあの爆風の中を突っ切ってきたようだ。
「……まだだ」
「往生際悪いわね。
決闘のルールも知らないの?」
「いいや。違う。
まだ終わっていないとも。
その杖では私の魔力壁は破れまい。
どれだけ吹き飛ばされようとも、私の体には傷一つ付いておらんぞ」
この決闘に場外負けは設定されておらんしな。
「これだから素人は。
私がじょぉ~ずに加減してあげたに決まってるじゃない」
「ハッタリだな。
私は魔力量にだけは自信があるのだ。
それはお主もわかっているのだろう?
私が守りに徹すればお主らにそれを破る術は無いはずだ」
「なら試してみる?
あんまり傷付けたくないんだけど」
「ならここは相打ちという事にしないか?
後はユーシャとメイド長に委ねよう」
「……ふひ♪
何か企んでるわね♪
良いわよ。あの子がメアリに勝てるってんなら、それを見せてもらおうじゃない♪」
「交渉成立だ。
おい!ユーシャ!ちょっと話がある!こっちに来い!」
「!?」
ユーシャは無事なようだ。
爆発には巻き込まれていないらしい。
もしかしたらメイド長が守ってくれたのだろうか。
「そんな堂々と作戦会議するの?
まあ良いけどね。精々頑張ってみて♪」
ユーシャが近づいてきたのと入れ替わりで、パティは私の下を離れていった。
「負けちゃったの?」
「相打ちだ。一応な。
後はお前達次第だ。
それより薬瓶を出せ」
「それズルくない?」
「良いのだ。
私の本体は元よりそちらなのだから」
ユーシャの取り出した薬瓶に触れて意識を戻し、殻になった人形を少し離れたところへ移動させた。
『さて。第二回戦だ。
次は私が力を貸そう』
「うん!今度こそ当ててみせる!」
そこは勝ってみせると言って欲しいところだな。
まあ良い。やる気は十分そうだ。