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04-35.もう一人の姉

「隠し事は無しでいきましょう♪」


「良い度胸です! 受けて立ちましょう!」


 あら。あっさり出てきたな。ネル姉さん。


 アニタとシルクに充てがった部屋に二人と移動した途端、アニタは全てわかっていると言わんばかりの笑顔を浮かべて提案してきた。



「これは……なるほど。そういう事でしたか」


 シルクも何やら訳知り顔だ。



「シルクは姉さん、この女性の顔に心当たりがあるのか?」


「ええ。そう問うという事は知っているのですね」


「ああ。ユーシャもそうだがネル姉さんには残り五人の姉妹が存在する。私達はその者達を探したいのだ」


「そうですか。私も一人は知っています。いえ、正確には知っていました。ですが彼女はもう……」


「もう?」


「……私はかつて仲間達と共にこの世界を旅していました」


 シルクの言葉に姉さんとアニタも耳を傾け始めた。



「千年程前です。私は異界からの転移者と出会いました。私は彼女を元の世界へ帰す方法を探して共に旅立ちました。姉君と出会ったのはそんな旅の最中の事です」


「その者の名は?」


 姉さんが堪え切れない様子で問いかけた。



「……マグナ。と。我らの友は"奇跡のマグナ"とよく名乗っていました」


 自分で二つ名まで名乗ってたの? それも頻繁に? なんだか愉快な気配がする。けどシルクの口調は全然そんな感じじゃない。何か悲しみを抱いているような。むしろこれは寂しさか? 悲観的なものと言うより、遣る瀬無さみたいなものを感じる。



「ならば間違いありません。我が姉です。マグナ姉さんは今どちらに?」


「……マグナは……彼女と共に世界を渡りました」


「あり得ません! そんな筈が!」


「……すみません。そこまでは。少なくとも私の眼の前で姿を消したのは事実です」


 そうか。シルクは……。



「シルクが置いていかれたのも仕方がなかったの。彼女達が向かったのは恐らく魔力が存在しない世界だったから」


 そうか。そうだよな。渡ったところで生き続けられんものな。食料となる魔力が存在しないのだ。当然の話だ。



「ふっ♪ 早速ボロが出ましたね♪ な~にが! 五百歳ですか! 千年前の出来事を見てきたように語るじゃないですか! あなたの種は割れています! 大人しく実年齢を白状なさい!」


 姉さん空気読んで。



「ひっ酷い! そんな鬼の首を取ったように! 私にいったい何の恨みがあるって言うのかしら! さっきだって助けてあげたじゃない!」


 アニタはアニタでわざとらしい。言ってる事は尤もなんだけども。全く怒っていないのにわざとそう見せているのがありありと伝わってくる。アニタは器用だなぁ。これはアニタなりの気遣いなのだろう。おちゃらける事で自分はネル姉さんに歩み寄ろうとしているのだと見せているのだろう。



「そうだぞ。姉さん。私達は家族だ。どうか仲良くしておくれ」


「うぐっ……すみませんでした……」


「いいわ♪ 許してあげる♪ 仲良くしましょうね♪ ネルちゃん♪」


「くっ!」


 悔しそう。



「だが困ったな。最悪マグナ姉さんも向こうの世界で機能が止まっているのではないか?」


「そうよね。いくら女神の愛娘達だって補給も無しに稼働し続けられるわけもないわよね」


「まあ心配は要りませんよ。マグナ姉さんですから。奇跡の名は伊達じゃないのです。そもそもあの世界に渡ったという事は在り得ないのですが。いやでも姉さんなら……え? そういうこと? あの時叱られたのって? まさか主様は私まで騙してたの? くっ! 問い詰める方法が! 姉さんを見つけないと! でも主様問い詰めないと! どうしたら!」


 姉さんが一人でブツブツ呟きながら苦悶している。考えが纏まったところを見計らって聞いてみよう。どうせ女神様関連は口を閉ざしそうな気もするけど。


 でも本当に奇跡なんて起こせちゃうの? なんかマグナ姉さんが一番過ごそう。



「ちなみに他の姉さん達は何と言うのだ?」


「え? ああ。白愛のフラン、信仰のルベド、正義のニタス、秩序のキトリです。内キトリだけは私の妹にあたります」


 つい考え事を邪魔してしまったが、姉さんはスルスルと答えてくれた。



「姉さんが知恵でユーシャは堅固だったか」


「ええ。ついでに言うなら私の本名はネルケです。そして末妹はクルス。それが主様の名付けた最初の名前です」


 あらら。クリュスはまた違うのか。ユーシャの母君がつけたのかな? でもあまり差は無いし女神様からユーシャを賜った時に聞き間違えたのかしら?


 ともかくこれで全員の名前が判明したな。フラン、ルベド、ニタス、マグナ、ネルケ、キトリ、クルスの七人姉妹だ。


 私とシュテルはこの姉妹とは厳密には別枠だ。たまたま女神様の気まぐれや私の干渉で人格が宿っただけで、元はただの意思無き道具に過ぎなかったのだし。



「この近くにも一人いるそうだぞ」


「距離と方角からすると恐らく城の中でしょう。誰かはわかりませんが囚われているようです。一切動く様子も無いので或いは機能を停止して宝物庫にでも放り込まれているのかもしれません」


「そこまでわかるのか」


「ええ。ですがこの距離でもギリギリです。こうして降りてくるまでは気付けませんでした」


 ならば他の姉妹を見つけ出すのもそう簡単ではなさそうだな。この屋敷と城は本当に近い位置にあるのだ。少なくとも姉さんの察知可能な範囲は町一つ分も無い。起動中の姉妹ならばまた違うのかもしれんが。



「ニアに探させよう。案内を頼めるか?」


「今からですか? 先に話を済ませません? 本題もまだですし」


 そうだった。なんなら姉さん達の事は今回話すと決めていたわけでもないのだ。シルクの様子を見てつい脱線してしまったが、アニタとシルクに私達の事情を話して協力を取り付けるのが先だったな。




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「水臭いわね♪ 私とエリクの仲じゃない♪」


 まあそう言ってくれるとは思っていたとも。



「我が忠誠は王に捧げました」


「姉の友であるシルクを顎で使うのもなぁ」


「どうかお気になさらず。私にとっても彼女達は姉のような存在でした。その妹君にお仕え出来るのであればこれ以上の喜びはありません」


「そうか。何はともあれ今後ともよろしく頼む」


「はい!」


 マグナ姉さんも必ず見つけ出そう。シルクの為にも。



「ユーシャには言わないの?」


「ああ。うむ。少し事情があってな。先程は他の家族にはと伝えたが、ネル姉さんの事も含めて特にユーシャにだけは知られんようにしてほしい」


「ギンカ! 話しすぎです!」


「あらあら♪ ネルは私を信じてくれていないのかしら♪」


「アニタ様。誂うような物言いはおやめください」


「姉さんも協力してもらうのだから誠意を見せるべきだ」


「……すみません」


「ふふ♪ 仲良くしましょうね♪」


「っ……はい。よろしくお願いします」


 なんだかなぁ。

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