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04-30.妖精の王

「「「妖精王様~~~!! 妖精女王様~~~!!」」」


 熱烈歓迎だ。既に仕込みはバッチリだ。


 賑やかだなぁ~。おっかしいなぁ。シルク殿はずっと一緒にいたんだけど。ああそっか。念話か。便利だなぁ。



 妖精女王アニタの家を出ると里中から集まったと思しき妖精達に囲まれた。誰も彼もがアニタの回復と新しい妖精王の誕生を祝福してくれている。シルク殿が先に情報を流しておいたのだろう。



「エリクがまさかそんな姿をしてるなんてね」


「私ではなく皆を見んか」


 アニタは集まった妖精達に視線を向けて手を振りながら尚も言葉を続ける。



「その腕の事後で聞かせてもらうわよ」


「なんだ気付いておったのか」


「流石に驚いたわ」


「私もだ。タマラは思い切りが良いな」


「ふふ♪ 当然よ♪ 私の自慢の娘だもの♪」


「一つ誤解を訂正しておこう」


「何よこんな時に」


「こんな時だからこそだ。タマラは私の伴侶ではない」


「ただの下僕だと?」


「そうだ。実は今日出会ったばかりでな」


「あらあら♪ ふふ♪」


「今からでも私を排除するか? そうするならタマラはお前がここで守ってやればいい」


「そんな事しないわよ。言ったでしょ。私ももうあなた無しでは生きられないわ」


「そうか。ならばよろしくな」


「ええ♪ 絶対に逃したりしないんだから♪」


 アニタが私を抱き寄せた。周囲から一際甲高い歓声が上がった。まるでアイドルのようだ。皆の女王様を奪ってしまったのにどうしてこんなに歓迎されているのだろうか。妖精族の事はわからん事ばかりだ。いずれ他の者達とも話をしてみたいものだ。




----------------------




「お疲れ様でした。これで儀式は終了です」


「儀式という程の事はしておらんかったぞ?」


 やった事と言えば皆の前に立って手を振ったくらいだ。



「あら♪ もしかして物足りない? そうよね♪ 人間はこういう時に口づけを交わすんだものね♪」


 言いながらアニタがしなだれかかって私の頬に唇を寄せてきた。タマラが里の者達と旧交を温めていてこの場にいないからとやりたい放題だ。



「よせ。あくまで妖精のしきたりに沿う約束だ」


「今から口づけも加えるわ♪」


「許さんぞ」


「ふふ♪ 早速妖精王としての自覚が出てきたのね♪」


 どうしてこう、私の周りには何でもかんでも肯定的に捉える者ばかりなのだろうか。大体は魔力のせいだけどさ。でも姉さんとかは影響無い……あれ? 姉さんもソラを介して私の魔力を吸い上げてるんだっけ? まさか影響受けてる? いやいや。姉さんに限って流石に無いでしょ。無いよね?


『♪』


 どっちさ。



「今のはだあれ?」


『!?』


 え? まさか気付いたの?



「ふふ♪ エリクは不思議がいっぱいね♪」


 どうやら気を遣ってくれたようだ。姉さんがすぐに離れたから私が答えないと察したのだろう。これで案外察しは良いのだよなぁ。その鋭さを良い方向に発揮してくれる分には助かるのだが。



「退屈はさせんよ」


「えっへへ~♪」


 アニタは私の頭を抱え込んでグリグリと頬ずりしてきた。えらく気に入られたようだ。それにこういうところは妖精も人間もあまり変わらんのだな。



「アニタ様。私も妖精王様の魔力を頂いてみたいです。少し分けてください」


「いいよ~♪」


「良くないぞ? 何を勝手に許可しておるか。私の魔力のデメリットはアニタも身を以て経験しておるだろ」


「デメリット? 私は美味しすぎて毒だと言っただけよ?」


 まったくこやつは……。



「シルク殿もシルク殿だ。アニタがバカをやった事は理解していよう。お主まで同じ事をしてどうする」


 妖精としての好奇心が駆り立てるのだろうか。理知的なシルク殿でも種族の本能には抗えないのだろうか。



「私は決めました。これからも女王様、いえ、アニタ様に付き従います。このお方を野放しにすれば遠からず妖精族の存在が人の世に知れ渡る事でしょう。私には里の同胞達を守る責務があります。アニタ様を放ってはおけません。ですからどうかエリク様も私の存在をお許しください。その為に必要とあらばアニタ様同様支配下に置いていただいて構いません」


「そんな事言って~♪ シルクも羨ましくなっただけのくせに~♪ も~素直じゃないんだから~♪」


「……はぁ」


 私には本気で憂いているようにしか見えないよ?



「そうか。これは失礼した。シルク殿の覚悟を見誤っていたようだ」


「シルクと。どうかそうお呼びくださいませ。我が王よ」


「うむ。ならばよろしく頼む。シルク。アニタは私の手には余るでな」


「ありがとうございます。エリク様。ですがそのような情けない事を仰らないでくださいませ。あなた様にも妖精族の王として相応しき振る舞いを求めます」


 あ、はい。……君臨しなくて良いって言ってたのに。



「それはそれでございます」


 あれ? 考え読まれた?



「エリク様も中々わかりやすいお方ですね」


 これはどっちだ?



「シルク。こっちにいらっしゃい」


 アニタはシルクを呼び寄せると、その手を取って先程ぶんどった私の魔力を流し込み始めた。


 あれ? これって……。



「おい! 待て! やり過ぎだ!」


「ふっふ~ん♪」


 アニタは私の制止を笑って流し、シルクに更に大量の魔力を流し込んだ。



「シルク。改めて問うわ。あなたは妖精王エリクに服従を誓うのね?」


「はい。アニタ様」


「待てっ!!」


「ふふ♪ もう遅いわ♪ げふっ!?」


 再び悶絶するアニタ。どうやら無理やり私とシルクのパスまで繋いだらしい。だが今回は気絶していない。まさか一度経験したからってネル姉さんの仕掛けに対応してみせたのだろうか。



「ぐっ……きっつぅ……」


「無茶をなさいますね」


「バカ者め! この仕掛けを施したのは遥か上位の存在だ! 無謀にも程があるぞ!」


『ギンカ!』


 あ、やべ。



「うん。あんまり上手くいかなかったや。流石神の力だね」


 なんだと!? まさか知っているのか!?



「パスがこんがらがっちゃった。私とシルクとエリクの間で変な事になってるね。あれ? これ私が一番下じゃない? 私シルクの下僕にもなっちゃった♪ これからは私がシルク様って呼ばないとだね♪」


 えぇ……。



「確かに妙な事になっているな。私達三人が相互に繋がっているのか。力関係的には私が一番上で次にシルク、最後にアニタか」


 いやまあ、パスの性質的にはそうなんだけど、実際私程度の実力じゃアニタを制御するのは不可能なんだけども。実際今もまったく止められなかったし。



「まあ結果オーライと致しましょう。これでアニタ様の制御もやりやすくなるやもしれません」


 前向きだなぁ。というか落ち着いてるな。シルクはもっと慌てるかと思ったけど。



「ぐぬぬ! 絶対リベンジしちゃる! 誰だか知らないけどエリクはもう私のなんだからね!!」


「逆ですよ。アニタ様」


「タマラだって流石に怒るぞ。頼むから程々にしておくれ」

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