表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

240/367

04-26.行き当たりばったり

『出来たよ。主様』


「うっわ……本当にくっついちゃった……」


「うっわってなんだよ! オレの自慢の腕だぜ! 何が不満だってんだ!」


「いや、うん。凄い力は感じる……ぞ?」


「なんで疑問系なんだ?」


「うん。まあ、その。なんだ。正直ビビってる」


「魔王さんは小心者だなぁ」


 いやそういんじゃなくてさ。タマラこそなんでそんなあっけらかんとしてるの? 普通怖くない? 自分の腕が他人にくっついてるんだよ? 結局付けた私も私だけど。それも結局ソラまで呼び出して。でもパティまでやれって言い出したからさ。仕方なかったんだ。何時までも片腕無しじゃ皆も落ち着かないからなんて言われちゃったら。


 元々この身体にはパティ達から多少の血液を提供してもらってもいるのだ。今更人の素材が増えたからってと言い訳出来なくもないかもだけど……。



「少し安心したわ。どうやらあなたにもまともな神経が備わってはいたようね」


 何故かニアの評価が上がっている。その割にはずっと目を逸らしていたけど。正直気持ちはよくわかる。私ですら直視するのは難しい。というか本当にこれ大丈夫なの? そのうち腐り落ちたりしない?



「大丈夫よ。エリク。そんなに心配そうな顔しないで。エリクの魔力があれば理論上は壊死の心配も無い筈よ。たぶん」


 パティも自信無いんじゃん……。



『今晩時間かけて馴染ませてあげる』


「ありがとう。ソラ」


 正直今はまだ違和感があるのだ。機能的な部分もあるが力の総量が違いすぎるのやもしれん。



「私は先に失礼するわね。ギルドの方は任せておきなさい」


「うむ。ありがとう。ニア。後は頼む」


 観客達は大丈夫だろうか? 怪我人とか出ていないといいのだが。



「さて。私達も部屋に戻ろう。メアリ。すまん。片付けは後で手伝わせてもらう。先ずはタマラの事も改めて紹介せねばな。皆も新しい家族を受け入れておくれ」


「お気になさらず。想定よりは随分とマシな状況です。私達だけで手は足りるでしょう」


「これでか? いったいどんな被害を想定しておったのだ」


「ともかくエリク様はゆっくりとお休みくださいませ」


「う、うむ。わかった。そうさせてもらおう」


 なんか凄い剣幕で詰め寄られてしまった。これは随分と心配をかけてしまったようだ。ここは大人しくしていよう。



「では行こうか」


「ええ。そうね。少し中で話しましょう」


 パティを先頭に皆で部屋の中へと移動する。今度はバルコニーではなくラウンジへ行くようだ。そっちならソファもあるものな。私はともかくタマラは楽な方がよかろう。体力や傷は回復させたが、タマラにも随分と無茶をさせてしまったからな。



「体調はどうだ?」


「もうすっかり良くなったぜ。お陰様でな」


 生やしたばかりの腕をぐるぐると回している。本当にもう元気そうだ。これはタマラだからこそだろうけど。流石は最強の冒険者。



「それは何よりだ。だが今日のところはもう大人しくしているのだぞ。お前の部屋も用意してある。少し話したらゆっくりと休むがいい」


「至れり尽くせりだな。逆に落ち着かないくらいだぜ」


「慣れろ。これからは私の住処がお前の住処だ。どこであろうと付き合ってもらうぞ」


「へいへい♪」


 それからパティが中心になって自己紹介兼、質疑応答が始まった。ぶっちゃけタマラの素性は先に通達済みだったがな。対策会議でも散々話し合っていたし。



「そうだ。こっちからも一つ聞きてえ事があったんだ。魔王さん。あんたなんで妖精王なんて名乗ってやがったんだ?」


 少しだけ真剣な顔つきと声音だ。どうやらこれはタマラにとって大切な事らしい。



「半ば成り行きだ。特段深い意味があるわけでもない。ただこの世界の皆が認識していて伝わりやすい存在だったから利用させてもらったのだ。それで何か不快な思いをさせてしまったのなら謝ろう」


「いや、不快っつうかよぉ。なんて言うかなぁ……。まあぶっちゃけちまえばオレは妖精に会ったことがあるんだよ。どころか育ての親なんだ」


「なんだと?」


「現妖精女王の事はよく知ってる。あの人以外が王を名乗る事は絶対にあり得ない。それが妖精達の常識だ」


「そうか……妖精って本当に存在したのか……」


「そっからかよ!? 雑過ぎんだろ!?」


「仕方ないじゃない。エリクどころかこの国の誰も妖精の存在なんて把握してないわ。逆にタマラはいったいどこで知り合ったのよ?」


「それはあれだ。言葉で説明するのは難しいんだ。誰も知らねえって事はそれだけ隠し方が上手いって事なんだぜ」


 単純に話しづらいのもあるのかもしれない。育ての親って事は何か事故や事件の末に拾われたのが最初の出会いなのかもしれないし。



「ならば案内出来るか? そういう話なら私は一度謝るべきだと思うのだ。勿論無理にとは言わん。人から隠れ暮らす理由が思い至らないわけでもない。ましてや私のような存在は尚の事受け入れ難かろう」


 なにせ魔物のキメラだし。挙げ句勝手に妖精王名乗っちゃったし。



「どうかな? 案外面白がるだけだと思うぜ。勿論妖精王を名乗った事は別だがな。滅多な事で怒らねえあいつらでもそれだけは絶対に許さねえ。だからもし魔王さんがこれからも妖精王を名乗るってんなら、オレとしてはせめてあの人に許可を貰って欲しいもんだな。ってことで聞いといてやる。魔王さんからそう言ってくれて嬉しいぜ」


「うむ。そうか。よろしく頼む」


「おうよ♪」


 良かった。タマラ自身はそう怒っているわけでもないようだ。



「ねえ、タマラお姉様。それってどれくらいかかるの?」


「う~ん。どうだかなぁ。伝言さえ頼めればすぐなんだがなぁ。あいつらこの近くにはいねえからなぁ」


 どうやら妖精を探すところから必要らしい。それは時間がかかりそうだ。



「それって自分で里帰りは出来ないの?」


「無理だな。オレ一人じゃ入れねえ。そもそも里を出ちまえば具体的な場所を覚えておけねえんだ。案内役が必要だ。それに内側から門も開けてもらわなきゃなんねえ。だから妖精達は遠くにいても話しが出来る術を使えるんだぜ。生憎オレには才能が無くて使えなかったけどな」


 念話か? 妖精達は誰もが使えるのか? それは興味深いな。どうにかして教われんものだろうか。私とソラ以外でも使えるようになると嬉しいのだが。まあソラの使う術もこれからのブラッシュアップ次第ではあるけど。



「新学期までにどうにかなるかしら?」


 無理そうじゃない? 移動はソラがいるからどうとでもなるけど。



「まあ方法も無くはねえんだがな」


「それは?」


 タマラが胸元から何かを取り出した。



「笛か?」


「ああ。一回だけって念を押されて渡されたんだ」


「ならば仕舞っておけ。別に急いでは」


「ピィ~~~~~~~~~!」


「おい!」


 なんでよ!? なんで吹いてんのよ!? もうちょっと躊躇してよ!? 私止めようとしてたじゃん!



「うわっ。本当に聞こえたんだな♪」


 早速何やら言葉が届いたようだ。宙に向かって嬉しそうに反応を示している。



「……んだよ? そんな怒る事ねえじゃん。それで? アニタはどうしてんだ? ……なに? おい! どうして早く言わねえんだ! 今すぐだ! んだと!? 開けらんねえ? ふざけんな! そういう時くらい融通利かせやがれ! 心配すんな! アテはある! いいから信じろ!」


 何やら慌てている。アニタさん? とやらに何か問題でもあったのだろうか。



「!?」


 突然タマラの姿が消えてしまった。いや、何か足元に突然穴が空いたのだ。そこに引き込まれた後、穴は跡形もなく消えてしまった。まさか転移か? この場合はゲートか? タマラの言っていた門とは転移門の事だったのか?


 慌ててタマラの視界を覗き込むとどこかの森の中だった。



「タマラ無事か?」


「うおっ!? まさか魔王さんか!?」


「うむ。私は眷属と感覚を共有出来る。ついでにこうして操る事もな。今度は振り払おうとせんでおくれ」


「丁度良い! 力を貸してくれ魔王さん!」


「わかった。だがこれ以上の会話は後にしよう」


「おう!」


 タマラに話しかけてきた者はタマラ以外を里に入れたくはないようだしな。こうして一人だけを通したって事はそういう事なのだろう。しかもここはまだ里ではないようだ。ならばここからでも追い返そうとするかもしれん。


 今度はタマラの正面に空間の穴が出現した。タマラは躊躇無く突っ込んでいく。



 にしても厳重だな。この複数回の転移には里の場所を特定させない意味があるのだろう。これだけ念を入れておるなら誰も見つけられないのも納得だ。実際今現在タマラがどこにいるのかはわからんからな。しかもこれはまだ続くようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ