01-24.魔導少女
「そう。あなたがエリクなのね。
てっきり男かと思っていたわ」
領主様が寄越してきた魔術師は年若い少女だった。
コテッコテな魔女帽子と学生服風のミニスカ少女だ。気の強そうな瞳に腰まで伸びたロングヘアー。そして薄い胸部装甲までもが良い感じに纏まっており、中々の美少女っぷりだ。
妖精族云々は既に聞いていたようだ。
まさかサイズより性別を気にされるとは。
まあ、エリクって男性名だもんね。特段深く考えずに使い続けてたけど。あれだ。ユーシャがそう呼ぶからだ。私はエリクでいいのだ。前世の名前とかもう関係ないし。
「自己紹介をして頂けるかな。お嬢さん」
私はしたぞ。
不躾に覗き込んでおらんで、さっさと返さんか。
話しが進まんだろう。
「あ、ごめんなさい。
もしかして本当に男だった?
妖精族って初めて会ったから見分けつかないのよ」
謝罪してる割になんだか偉そうだ。
「私は女だ。
見た目通りにな」
「そう?
なら良かった。
私、男って苦手なのよね」
一向に自己紹介には入らんな。
「チェンジで」
「ご容赦を。
この者の実力と知識量は主もお認めになっています。
性格の問題はどうかお見逃し下さい」
「メアリったらひっどぉ~い!
私の性格に問題があるっての!?」
そう言っておるだろうが。
本当に頭が良いのか?
単に知識を詰め込んだだけのタイプか?
「ならば仕方ない。
話を進めよう。少女A。お主は何をどこまで知っている?」
「何よ、少女エーって。
私はメイガスよ!覚えておきなさい!」
メイガス?
お主も人の事は言えん名ではないか。
少女らしい感じはせんぞ?
「この子は、パトリシア・デ・ラ・カルモナド。
メイガスは自称です。お忘れ下さい」
「もう!なんで言っちゃうの!?」
「なんだ。可愛らしい名前があるんじゃないか。パティ」
「やめて!その呼び方は嫌よ!」
「何故だ?パティ。
君のその愛らしい容姿にぴったりではないか。パティ。
恥じる必要は無いぞ、パティ」
「もう!何て意地悪な人なの!?」
「人ではないからな。パティ。
私は妖精族だ。パティ。間違えるな。パティ」
「しつこい!!」
パティは顔を真っ赤にして掴みかかってきた。
ユーシャが珍しく機敏な動きでパティの手首を掴み取り、押し返すようにして私と距離を取らせた。
「卑怯よ!そっちだけズルいわ!」
「ズルくない。エリクは私の。触らせない」
ユーシャ!?
ユーシャが流暢に喋ってる!?
あと何かキレてる!?
「ふっふっふ!今のがユーシャの声ね!
噂通りの可愛さね!そして噂以上の!!じゅるりっ」
うん?
「ユーシャ!あなた達に決闘を申し込むわ!
魔術を教え合うならそれが手っ取り早いでしょ!
メアリ!私の側について!
公平に二対二でやりましょう!」
なんだと!?
「……良いでしょう。
エリク様。どうぞお付き合い下さい」
メイド長まで!?
「突然どうしたと言うのだ?」
「必要な事です。
何事も実践経験に勝るものはありません」
理屈はわかるが……。
「賭けの内容は?」
本当にどうしたんだユーシャ!?
「敗者は絶対服従!
何でも一つ言う事を聞くのよ!
私が勝ったらユーシャとエリクを触らせて!
それでお友達になりましょう♪」
「私が勝ったらエリクには絶対触らせない。
必要以上に近づくのも禁止」
「おっけ~♪
条件成立ぅ♪」
「いや!待て!
私はやると言ってないぞ!
落ち着け!ユーシャ!
お前が勝てるわけ無いだろう!
冷静になれ!何をそんなに怒っているんだ!?」
「エリクがいるんだから負けるわけ無いじゃん。
たまには意気地なしじゃないとこも見せてよ」
「な!?」
そのままユーシャは私を置いて、パティ達について行ってしまった。
一瞬あっけに取られはしたものの、このままユーシャの側を離れるわけにもいかず、私は慌てて三人の後を追った。
私達は練兵場に辿り着くと、パティ&メイド長、私&ユーシャに分かれて向かい合った。
「本当にやるつもりか?」
「しつこい。やらないなら黙って見てて」
「そんなわけにいくか。
ユーシャが嬲りものにされるのを黙って見ているつもりはない」
「ならちゃんと守ってね」
「せめて動きは合わせよ。
離れ過ぎれば守れなくなる。
私の飛行速度は大して速くないのだ」
というか、ぶっちゃけ棒立ちで居てもらった方がやりやすそうだ。なんなら私一人の方がもっと。
どう考えても相手がマズい。
一人は領主が見定めた年若い実力者。それも魔術師だ。
もう一人は未知数だが、ただのメイドという事もあるまい。
対してこっちは素人同然だ。
私は実戦経験など皆無だし、ユーシャは底辺冒険者にすぎないのだ。そもそも人間と戦った経験自体、数える程しかなかったはずだ。
「さあ!始めるわよ!
初手はあなた達に譲るわ!
どこからでもかかってきなさい!」
くっ!覚悟を決めるしかないか!




