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04-21.魔王vs勇者①

「まさか本当に魔物がいるなんてな」


 タマラ殿は正面から乗り込んできた。ここは公爵邸だと言うのにお構いなしだ。魔力壁も当然のように割られてしまった。こやつの拳はあのパイルバンカーすら上回るらしい。


 無茶苦茶だな。あの細身でどうやっているのやら。まあ魔物の力を取り込み続けた者なら筋肉は必要無いものな。当然無意味ではないのだが、タマラ殿程の実力者ともなれば別の話しだ。むしろ敢えて絞っているのやもしれん。身体を軽くして足りない速度を補おうとしているのやも。


 そもそもパティに聞いていた話しともだいぶ違う。前はもっと筋肉質な女性だったらしいし。戦場で随分と絞ってきたようだ。或いは戦場が肌に合わなかったのかもしれん。案外とストレスで痩せた可能性もある。話を聞く限りではその可能性も無さそうだけど。だが今の容姿を見ればあり得ないとも思えない。服装や髪を整えれば清楚な美人お姉さんに早変わりする事だろう。ぶっちゃけあんな美人お姉さんがレベルカンストゴリラだとは信じられないくらいだ。



「私は魔物ではない」


「は! 喋れんのかよ! これも驚いたぜ! けど魔物じゃねえは無理があんだろ! その身体はどっからどう見ても魔物じゃねえか!」


 よかった。問答無用で仕掛けてくるわけではないようだ。既にやる気満々だから戦闘回避は無理そうだけど。だが策を弄した甲斐があった。先ずは話をせねば始まらんからな。戦う前に私をただの魔物ではなく意思を持つ一個人として尊重してもらわねばならん。



「だからこそ証明となるのではないか? この身体の事はある程度察しておるのであろう? 魔物の素体を組み合わせて人形を仕立てるなんぞ人間以外に出来る筈もあるまい」


「そうか? リッチだって似たような事すんだろ?」


 それは初耳だ。というかそんなわけあるまい。こやつさてはだいぶ大雑把だな?



「私の魔力が死者のものに見えるのか?」


「魔力の違いなんてわかんねえよ。オレは門外漢だ」


 私にもわからん。死霊系の魔力なんて見たこと無いし。タマラ殿ならワンチャンと思って雑な質問を投げてしまった。



「なら私が証明するわ! 久しぶりね! タマラ!」


 屋敷の二階バルコニーから手を振るパティ。パティだけでなく家族全員が集まっている。お茶の準備までバッチリだ。


 完全に観戦モードだ。私とタマラ殿の死合いはただのパフォーマンスに成り下がった。そうギルドに見せつける為でもある。彼らが形振り構わず打ち立てた決死の策を鼻で笑ってやるのだ。その為にニアが手配した記者や興味本位の観客達までもが、既に屋敷の周りを囲っている。


 タマラ殿がこの王都に戻ってからの動向は全て把握していた。やはりニアを味方に付けたのは正解だったな。こんな大掛かりな仕掛け私達だけでは準備出来んかっただろう。まさかまた学園の生徒達に助力を求めるわけにもいかんし。


 タマラ殿も当然気付いていた筈だ。こうして対話に応じてくれているのは既にリングが用意されていたからだろう。私達がやる気満々で待ち構えていたからだ。私達はタマラ殿にとって話の分かるチャンピオンだ。ならば焦る必要はない。彼女は私達のショーに付き合うだけのユーモアも持ち合わせている。ここまで全てパティ達の作戦通りだ。流石だな。




「おうパティ! 本当にあんたも囲われてやがったんだな! 噂になってんぞ! 魔物に唆された哀れな姫君ってな! 差し詰めオレは助けに来た勇者様だ! そこの魔王を討ち取ったらオレの嫁になってみるか!」


「残念ね! 私の伴侶はもう決まってるの!」


「そうかい! あんたなら満更でもねえんだがな!」


 パティはほんと、誰にでも好かれるな。案外説得も通じたのではないか?



「なら良かったわ! 元々勧誘しようと思っていたの! あなたも魔王様のハーレムに入りなさい! 歓迎するわ!」


「ハッ! そうくるか! おもしれぇ! オレに勝てたならくれてやる! 嫁でも何でもなってやる! 魔王さんもそれで良いな!」


「うむ。異論は無い。さあ。存分に死合おうぞ!」


「いくぜ!!」


 速い! 地を蹴って飛びかかってきたタマラは一瞬で間合いを詰めてきた。聞いていたより全然速い。やはり以前と違うのは見た目だけではないようだ。



「はぁっ!」


 最初の一撃を敢えて避けずに受けてみる。触れたのはただの掌底だと言うのに全身に衝撃が走る。魔力壁も魔装もあっさりと破られ、部分竜化で生み出した鱗すらも砕け散る。そのままタマラの腕は私の腹をも貫いた。拳でも手刀でもなく掌底で抉り抜いたのだ。意味が分からん。



「くっ!?」


 だが迂闊にも私の体内にあるブレス用の毒袋を破った事で、タマラの腕に毒液が浴びせかけられた。元々大した威力ではないが流石にこれは通用したようだ。やはり状態異常系まで一切を無効化するわけでもないらしい。どれだけの頑強さを得ようとも人の体であることに変わりは無いようだ。


 私は毒液によって生じた一瞬の隙を利用し、元々自らに纏っていた魔装でタマラの全身をも覆い尽くした。これはソラから習った改良版だ。いくら力があろうとも一部の隙無く体を固定されては十分な力も込められまい。この状態から破る事は出来ない筈だ。


 タマラの動きを完全に止めてから今度は大量の魔力を押し込んでいく。流石に魔力抵抗が皆無というわけでもないようだ。だが案の定それ以外の抵抗手段は持ち合わせていないらしい。あと数秒もすれば眷属として完全に堕とせる筈だ。



「はっぁあああ!!!」


 タマラが気合を入れた途端魔装が軋みだした。まさかと思った時には遅かった。あっさりと魔装は砕け散り、私の体から腕を引き抜いたタマラは大きく距離を取った。



「んだ今の!? 妙ちきりんな力使いやがって!」


 タマラの頬が上気している。無理もない。既に魔力はあらかた流し終えている。必要分の八割程度だろうか。既にタマラは抑えきれない好意を抱いている筈だ。あの身体は最早手遅れだ。ここで降参してくれないだろうか。



「ちっ! 妙な気分だぜ! 魔王様よぉ! あんた何しやがった! なんでオレの傷まで治しちまいやがったんだ!」


 話しがしたいと言うなら好都合だ。私の腹の穴は修復にまだ少し時間が掛かる。別に穴の一つくらいで動きが鈍る事は無いが、傷はこまめに治しておくに限る。あとどれだけ掛かるかもわからんからな。



「不可抗力だ。我が力は本来癒す為のものだからな。その妙な気分とやらは副作用と思え。目的は副作用の方だがな」


「癒やすだと? あんたが妖精って噂も本当なのか?」


「うむ。我は妖精王。断じて魔王などではない」


「はっ! 妖精の王だと! とんだペテン師じゃねえか!」


 ありゃ? もしかして本物の妖精を知ってる? と言うか存在したの?


 あかんな。記者まで配置したのは失敗だったか。私は意図的に声量を抑えているが、当然タマラの声はそうでもない。十分に聞こえてしまった筈だ。最悪ニアに口止めを頼もう。



「やっぱあんたは魔王だ! オレがそう決めた! ほれさっさと腹治せ! 出来んだろ! それまで待っててやる!」


 それはそれは。魔物相手にまでフェアを貫き通すのだな。もっと魔物相手なら容赦無いタイプかと思っていたのだが。やはり私をただの魔物とは見ていないのだろう。ここまでは順調だ。後少しだけこの調子で続いてくれると良いのだが。

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