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04-17.蜥蜴の尻尾

「帰れ」


「どうかお話を」


「ふざけるな。この期に及んで受付嬢一人を送り込んでくるような組織と対話なんぞ出来るものか。そもそもお前は出歩いて良いのか? 未だ危険は除かれておらんのだろう? むしろよりいっそう高まったのではないのか? どこまで巫山戯た連中だ。お前は人質なのだな。このまま一人で追い返せばお前の身に危険が及ぶやもと、我々がお人好しを発揮するのを期待しているのだな。そしてお前自身もそれをわかっていて乗り込んで来たのだな。ならばもう気にかける必要もあるまい。精々帰り道も襲われぬよう気を付ける事だな。妖精王と竜王国の姫君を怒らせたのだ。怯えた冒険者達が我々の元担当を問い詰める可能性も十分在り得るのだからな」


「違うのです。妖精王陛下。私はギルドを退職致しました。此度は個人的にご挨拶に伺ったのです。虫の良い話とは存じております。ですがどうか謝罪させて頂けないでしょうか」


「くだらん。お前はまだ侮辱し足りないようだな。私が切られた尻尾に飛びつく程愚かだと思うのか?」


「……申し訳ございません。失礼致します」


「待って! ナタリア!」


 ……わかっていた。パティだし。引き止めてしまうよな。



「エリク。お願い」


「好きにしろ。あくまでお前個人の客として遇するがいい」


「うん」


 パティはナタリアを伴って応接室へと向かった。




「義姉上。少しいいか?」


「……はぁ。こっちはようやく一息ついたとこなんだけど」


 知ってるさ。ずっと見ていたからな。



「すまんな。手短に済ませる。ナタリアという受付嬢を知っているか? パティの担当だった者だ」


「だった? そう。切られたのね」


「うむ」


 まあ私達も冒険者辞めちゃったからそういう意味でも元だけど。


 それに素直に切られただけと取るかは微妙なところだ。私達を連れ戻したら復職する前提の単なるポーズに過ぎんかもしれんし。



「それで?」


「やつらの目的は何だ? この期に及んで何故私達に擦り寄ってくる? これ以上の憶測は無しだ。真実が知りたい」


「勝ち逃げされたからに決まってるじゃない。奴ら面目丸つぶれよ。ギルドの真上に魔物が陣取って押さえつけてきたんですもの。その時誰一人として立ち向かう事すら出来なかったのよ。赤っ恥よ。ギルド始まって以来の大失態よ。挙げ句下手人達は公爵邸に引き籠もって出てこないの。それが悔しくて悔しくて堪らないの。どうあっても一矢報いたいのよ」


 王家が静観を決めた事も大きいのだろう。義姉上達のお陰だ。本当に助かった。またベルトランでも差し向けられたら面倒では済まんからな。正直また勝ち越せるとも思えない。



「今更交渉の席に引きずり出そうと? つまりはようやく力の差を理解したのだな」


「そういう事よ。わかったなら大人しくしていなさい」


「すまん。パティが招き入れてしまった」


「止めなさいよバカ」


 まあ、うん。ごめん。



「はぁ……まあ問題は無いでしょう。けどそいつ二度と外に出してはダメよ。いっそそいつも眷属にしちゃいなさいよ」


「やだよ。私あの人嫌いだもん」


 元々はそうでもなかったんだけど先程の件があってはな。自分が追い詰められたからってパティの優しさを利用しようとする奴はちょっと無理。



「なら私と一緒じゃない」


「違うな。今の私は義姉上の事もそれなりに好きだぞ」


「なによそれなりって。これだけ尽くしてあげたのに」


「そうだな。大好きだぞ。義姉上」


「やめて。気持ち悪いわ」


「うん。私もなんか違うかなって」


「バカな冗談言ってるならもう引っ込んでよ」


「すまんな。ゆっくり休んでおくれ」


「あなたのせいじゃない」


「ああ。そうだ。これも言おうと思っていたのだ。体力が維持されているからと言って休みを削るでないぞ。人には睡眠も必要だ。もっとよく休め。常日頃からな」


「余計なお世話よ!」


「まあそう言うな。これでも本気で心配しておるのだ。そういう意味では開き直っておるからな。義姉上は」


「折角得た力なんだから活用するわよ。当然」


「あまりやり過ぎれば供給を絞るからな。辛いぞ。忘れていた"疲れ"を取り戻してしまうのはな」


「やり口が陰湿だわ。だから嫌われるのよ」


「私はモテモテだ。ハーレムまで築いたのだからな」


「子供ばかりじゃない! このロリコン! 変態!」


「失敬な」


 メアリとかいるし。少なくとも二十代以上が三人いるし。十六歳以下とそれ以上でだいたい半々くらいだし。私の実年齢はともかく見た目の年齢は十五歳程度なんだからロリコン呼ばわりはおかしいと思う。はい論破。……ダメ?



「あなた王家もギルドも敵に回してあっちこっち騒がせ過ぎなのよ。もっと自重を覚えなさいよ」


「これからはブレーキ役を義姉上に任せよう。頼んだぞ」


「ふ・ざ・け・る・な♪」


 あかん。そろそろまた本気で怒りそう。



「とにかく彼女は軟禁しておけば良いのだな」


「違うわ。監禁よ。眷属が嫌だってんならそれくらいしておきなさい。そして余計な事を話してはダメよ。世間話もよ。そいつは内側から籠絡して連れ出そうしているんだから」


「パティが罠に掛かるかもしれんな」


「引き離しなさい。あの子を守りたいなら嫌われたってやるべきよ」


「……仕方ない。眷属にするか」


「そうしたらこっちに寄越しなさい。私が使ってやるわ」


「良いのか?」


「ただし首輪はあなたが嵌めるのよ。私だって暇じゃないもの。一々見張ってられないわ」


「それでも十分だ。この家に置いておくよりは安全だろう」


「そういう事よ。わかったならすぐに動きなさい」


「うむ。ありがとう。義姉上」


「ねえ。やっぱり呼び方変えましょう。ジェスでいいわよ」


「何故ジェス?」


「あなたからパティと同じ呼び方されるのも癪だもの。だから姉やジェシーとは呼んでほしくないの。おわかり?」


「ならばニアと呼ぼう。ではまたな。ニア」


「なによそれ。まったく。素直じゃないわね」


 お互い様だ。結局全然手短に済まなかったな。

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