04-16.しょうもない真相
「そんなわけないでしょぉ!!!」
あかん。義姉上がブチギレてる。しかも廊下を全力疾走しながら。
「ばっっっっかじゃないの!!?!」
義姉上の大き過ぎる独り言に周囲の者達が振り返る。義姉上のこの奇行はあっという間に城内中に知れ渡る事だろう。
ともすれば義姉上の眷属化も勘付かれるかもしれんな。勿論「妖精王の眷属」については知られていないが、それでも妖精王の傀儡と化した事に思い至る者はいるかもしれん。どうせ私の手の内は共有されているのだろうし。
「魔物認定してたらSランクに指名するわけないじゃない!」
あ……。素で忘れてた……。
「ただの新人イビリよ! そういう業界なのよ!」
……え? そういう事?
要するに古き悪き体育会系的な?
「言ったじゃない! 奴らはプライドが高いのよ!」
そういう意味で? シランガナ~。
「貴方から決別してどうするのよぉおおおお!!!」
悪かったてば。
いやでもさ。二時間も待たせるのはやり過ぎじゃない? しかもそれだけ待たされたせいでもう夕方だよ? この時間ともなれば冒険者達でごった返してるんだよ? 一番忙しい時間帯じゃない? つまりあそこから更に数時間待たせる魂胆だったんでしょ? そんなん付き合いきれないって。
確かに私達ももう少し早い時間にお邪魔するべきだったかもだけどさ。商談もどれだけかかるかわからないんだし。けどこっちとしては今日のところはアポ取りだけでよかったんだよ? それを一言も無く奥に通したのはあっちだよ? 例によってこちらの質問には何も答えずにさ。新人が好き勝手問いかける事自体気に入らないのかもしれないけどさ。それこそ知らんがなって感じだよね。
それにギルド長の敵意は間違いなく本物だと思うよ? 新人が好き勝手しすぎてるから頭にきてるっていうのもわかるけどさ。それでもタイミングは考えるべきだと思う。自分達のルールを押し付けるにもせめて多少は迎合してからにしないとさ。そんなの察しようがないじゃん。
だいたい普通に失礼だし。立場を振りかざして偉ぶるなら当然相手も立場や力で応えるってわかりそうなものなんだけどなぁ。別に私達は冒険者じゃなきゃ食っていけないわけでもないんだし。そもそも一般的な新入社員なんかとは違うわけだし。他の冒険者達だってあんなことされたらキレるだろうに。というか私達が大人しい事を前提とした嫌がらせじゃん。人として底が知れるってものだよね。みみっちい。
そもそもこっちは元々王族や貴族の集まりだ。いくら冒険者の間は元の身分を主張しないとはいえ、物事には限度だってある。本来なら相応しいプライドやメンツだってあるのだ。私達がそれを振りかざさないと、或いはそれが通用しないと舐め腐っているから、あんな態度でいられたのだ。ギルド長はとんだ小者だったわけだ。私の感心を返して欲しい。
でもまあ、そうだよね。世の中には圧迫面接とかいうのが罷り通っていた時代があるんだもんね。こっちの世界にもそういうのあるんだね。あかん。何か封印されし記憶が紐解かれかけている。私の前世も中々の……まあ、新入社員過労死させるような職場だからね。さもありなん。
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「誠に申し訳ございませんでした」
取り敢えず家族を集めて状況を説明した。折角皆にも協力してもらったのに全部ふいにしてしまった。本当にごめん。
流石にこの状況から関係修復は図れまい。冒険者なんてすっぱり辞めてしまおう。私達なら幾らでも生きていく術はある。なんなら公爵閣下の下で領地の発展に尽力させてもらうとか良いかもしれない。ギルドは追い出して私の魔物達による軍隊で領地丸ごと守護するとかね。ソラが居座るだけでも効果はありそうだ。野生動物への影響は慎重に見定めていかないとだけど。同じ失敗は繰り返すまい。
「エリクのせいじゃないわ。私が新人の頃はあんなことされなかったもの」
五年前はギルド長が違ったとか? それともなんらかの理由で方針転換した? 或いは単に私が気に入らないだけ?
まあパティは優等生だものな。それに流石の奴らでも当時十一歳の美少女をいびったりはするまいよ。多分あれだ。自分達より見るからにか弱い存在には優しいのだ。逆に格上だと思えば思う程背伸びしたくなっちゃうのだろう。私達より上だと示すにはあれくらい必要だったのだろう。知らんけど。
「姉様はなんて?」
「大人しくしていろと」
既に第一王子派閥の人員まで駆り出して事態の収拾にあたってくれている。鬼気迫る様子の義姉上の指示に、集められた人々が次々と従っていく光景はなんだか気持ちが良い。
素晴らしい結束力だ。姉上は簡単な状況説明と短い指示しか伝えていないのに彼らは直ぐ様理解して動き出してくれている。皆優秀な者達だ。流石だな。お手数おかけしてすみません。
「ならきっと大丈夫よ。姉様が全部なんとかしてくれるわ」
義姉上。ほんっっとうに。ごめんなさいでした。
折角大切に育てたであろうアカネまで差し出してくれたのに。結局何一つ活かせぬまま終わってしまった。
いやまあ、義姉上の言葉も足りてなかったと思うけどね。むしろ匂わせていたのは義姉上自身まであるよね。あれじゃわからんて。義姉上も義姉上で散々怪しい動きしていたわけだし。ならギルドの方だって何かしら裏があると思うのが普通じゃん? まさか本当にメンツだけの問題とは思わないじゃん? いやもうメンツって言って良いのかすらわからんけど。業界のノリって入ったばかりじゃ知らんのよ。よく知らん事が罪だとは言うけれど、あれはどう考えても理不尽だろ。その理不尽さこそがお決まりの洗礼だからって誰もが恭順するとは限らんのだ。そもそも彼らには私達を従える力も器も無いのだ。身の程を弁えろとしか言いようがない。もう少し相手を見て噛みつくべきだったな。
だがまあ、そんな事は言うまいよ。諸々の事情で義姉上に嫌われるのを有り難いとは言ったが、本気で嫌悪されたいわけじゃない。出来れば義姉上とも仲良くなりたい。ここから見直してもらえる道はあるのかしら? とにかく頑張ろう。
「かんにんなぁ。うちも読み取れんかったわぁ」
「気にするな。少なくともアカネのせいではない。むしろすまなかった。アカネは折角全てを投げ打って私のものとなってくれたと言うのに」
「そこは謝らんといて。後悔どころか幸せやねん」
「そうか。良かった。こんな形にはなってしまったが今後も宜しく頼むぞ」
「こちらこそや♪」
もうギルドの事は忘れよう。本気で挑戦者を差し向けてくる事も無いだろうし。後はもう知らん。彼らが素材を欲していようと関係ない。念の為屋敷の守りだけは固めておこう。




