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04-13.悪魔の囁き

「いいわ。後始末は受け持ちましょう。売却の件だけアカネに任せて進めて頂戴。他に確認したい事はあるかしら?」


「待て待て。ちゃんと説明しろ。ギルドは何故ああも高圧的なのだ。企みの全てを話せ。頭からだ」


「いやねえ。デリカシーの無い人はこれだから。いえ、人じゃなかったわね。妖精には野暮って言葉が無いのかしら?」


「一々煽るな。たく。仕方のないやつだな。そんなに話したくないのなら聞かぬとも。後は好きにやれ」


「ふふ♪ ありがと♪」


 結局義姉上の口を割らせる事はしなかった。きっともう義姉上は敵対しない筈だ。なら諸々の辻褄合わせは本人にやらせておこう。ギルドの件も上手く収めてくれるだろう。武士の情けだ。策略家に過去の策を解説させるなど確かに無粋であった。彼女は後始末を受け持つと言ったのだ。我が眷属の言葉を信じるとしよう。



「本当に良かったの?」


 義姉上を送り返すとパティがそう問いかけてきた。



「心配は要らん。義姉上はもう私からは逃げられん」


 義姉上の見聞きしたものは私にも伝わるのだ。彼女の策は筒抜けだ。いかな義姉上とてこれ以上の暗躍はせんだろう。



「……そうね」


「それでも心配ならちょくちょく遊びに行ってやれ。きっと喜ぶぞ」


「……うん。そうさせてもらうわ」


 これからはより一層王位継承関係にも取り組んでいくのだろうし、そうそう遊んでいられる時間は無いだろうが、それでもパティが顔を出せば間違いなく喜ぶだろう。



「アカネ達を呼んで話を再開しよう」


「ええ。先ずはギルドとの件ね。切り替えましょう」


 まだ片付いていない問題があるものな。ゆっくり考えるのはそちらを片付けてからでも遅くはあるまい。




----------------------




「素材の想定売却額はこんなところだね。本来のギルド買取額より割増だけど、ギルドがこの金額まで含めて受け入れたなら謝罪と受け取って良いんじゃないかな?」


「うむ。我々としてもこれ以上引っ張るのは本意ではない。迷惑料と割り切ってもらう他あるまいな。幸い素材の質は良い物ばかりだ。ギルドとしてもそう損は無いだろう」


「後はこれをどうやって通すかよね」


「そこはうちに任しときぃ♪」


「本当に大丈夫ですか? ギルドの査定額は基本的に絶対のものですよ? 通常彼らは値段交渉なんて受け付けません。そもそも普段買取業務を行う者達は商人ですらないのです。ある意味お役所みたいなものですからね。受け入れられないの一点張りで押し通そうとするでしょう」


「だろうな。そもそも交渉の席にすら着かん可能性は高い。素材買い取りを依頼したいなら専用窓口へと言って聞かんだろうな。今回はギルド長自ら応対するつもりも無いだろう」


 前回は向こうから用事があったから顔を見せたに過ぎんのだろう。やはり義姉上を通してギルド長を呼び出してもらうべきだろうか。


 話し合いの席をこの屋敷とした方がこちらとしても都合が良い。敵の土俵にわざわざ乗り込むのは危険だ。だがそれは相手とて同じこと。今度もまた適当な職員を派遣してあしらおうとしてくる可能性が高い。


 義姉上の口利きなら素直に従う可能性もあるとは思うが、しかし彼らはどうやら義姉上の忠告も無視して好き勝手にやっているようだ。それもギルド長自ら率先してだ。せめてそこだけでも義姉上の口を割らせておくべきだったか。今からでも聞いてみるか? また嫌味を言われそうだな。



「義姉上」


「ちょっと。私の口でそんな呼び方しないでよ」


 いきなりの悪態だ。だが若干心拍数が上がっているな。流石の義姉上とてこれは驚いたのだろう。


 幸い今は義姉上一人だが何時まで話せるともわからない。手短に済ませるとしよう。



「クラン設立は義姉上の指示か?」


「あら。もう音を上げるのね。過去の事は水に流してくれた筈なのに。やっぱりあなたは期待外れだわ♪」


 嬉しそうに言いおって。



「ならば全て義姉上の策と捉えるぞ。それで良いのだな?」


「何よその口ぶり。私がしてやられたとでも言いたげね」


「少なくとも私達はそう考えていた。あくまでクランを設立して妖精王を囲い込もうとしたのはギルドの独断だったと。なにせ義姉上の目論見とは繋がらんからな。それに私の力を知っていた義姉上がそこまで迂闊だとも思えない。むしろ義姉上はギルドに忠告していたのではないのか?」


「……気付いたのはアカネね。やっぱりあの子を差し向けたのはやり過ぎだったわね」


「お主らは師弟か何かなのか?」


「今それ関係無いでしょ。ギルドの方は承知したわ。要はギルド長を交渉の席に引きずり出してほしいのでしょ。それも後始末の一環として請け負うわ」


「まだそこまではせんでいい。アカネに何か考えがあるようだ」


「無茶よ。あの子は確かに優秀だけど所詮は表立った実績も無い子供だもの。まともに相手をされる筈が無いでしょ」


 ならなんで寄越したし。


 まあ最初からもう一度呼び出されるつもりだったのだものな。回りくどい事を。だがアカネ自身もまた必要なピースだったのだろう。パティは、というか私達は一般常識が抜けている部分もあるからな。この機会に常識を持った者を潜り込ませておきたかったのだろう。



「だが私達には公爵家や王家の立場もある」


「そんなもの通用しないわよ。あいつらにはね。まだ妖精王って肩書の方が尊重されるわ。自分達で呼び出すつもりならギルドの受付で騒いでやりなさい。品の無い方法に思えるかもしれないけど、実際あいつらにはそれが一番よ。ともすれば貴族以上にメンツに拘るやつらなんだから。貴方達なりの真実を声高に広めてやりなさい」


 本当に品の無い案が出てきた。端から見たら完全にクレーマーじゃん。私達のこと担ごうとしてない?



「いいなそれ。よし。パティにやらせよう」


「やめなさい!!」


 ほらやっぱり。



「貴方バカでしょ。パティではダメに決まってるじゃない。あの子が王族であることは知れ渡っているわ。お姫様の我儘としか映らないわよ」


 それっぽいことまで言い出した。必死だな。ふふ♪



「ならば私が竜の背に乗ってギルドの真上から大声で呼びかけるとしよう」


「ねえ? 真面目にやる気あるの?」


「本気で呆れるな。冗談に決まっておろう」


「冗談言ってる暇があるのかしら? あまり騒ぎが大きくなってはデネリス嬢の入学にも差し障るわよ?」


「お主それも脅しに使うつもりだったのか?」


「必要とあらばね。けど出来れば取りたくはない手段だったわ。パティがあの子の治療に執心していたのは知っていたもの。貴方が容易く策に乗ってくれて助かったわ♪」


 まったく。口の減らない奴だ。



「ねえ? もういいかしら? 私貴方と話すとなんだか息苦しいの。無理やり心を変えられてしまったのだもの。きっと抑えきれない嫌悪感が込み上げているんだわ。折角好きにさせてもらえたのにまた嫌いになってしまいそうよ」


「いいやこれはただの恋だ。安心しろ。私の診断は正確だ。なにせ心臓の鼓動から血液の流れまでわかるのだからな。お前は年甲斐もなくトキメいているだけだ」


「私はまだ十代よ!」


 真っ先にキレるのそこなんだ。



「悪かった。二度とこの件では弄らん」


「やっぱり貴方なんか嫌い! もう話しかけてこないで!」


「それは諦めろ。私は何時でも見ているし何時でも聴いている。お前の全てが私のものだ。一生逃れることなんぞ出来はしない。私は決してお前を手放したりはせんのだからな」


「……ノイローゼになりそうだわ」


「残念だったな。どれだけ精神を病もうとも肉体的な健康が損なわれる事はあり得ない。私の魔力には治癒の作用もあるのだ。これは私からの贈り物だ。無限の魔力と無限の体力。更には人並み外れた回復力も。夢のようだとは思わぬか? お前は既に人であって人ではない。妖精王の眷属としてその身は変えられた。例え精神が病もうとも健全な肉体はその精神すらも癒やすだろう。だから何の心配も要らん。好きに私を嫌うといい。それが出来る内は精々強がってみせる事だ」


「……貴方本当は妖精じゃなくて悪魔なんでしょ?」


「いいや。そのどちらでもないよ。お前が心の底から屈服したならその時には真の正体を明かすと約束してやろう」


「……そんな日は一生訪れないわ」


「それはそれで楽しみだな。私はお前のような者を待っていたのだ。私の魔力に染められて尚、私に敵意を向けられる者をな」


「なによ? そういう性癖なの?」


「私は怖いのだ。この力が。故にこの力に抗ってみせるお主の胆力は私を安心させてくれる。どうか私の為に変わらぬ在り方を貫き通してみせておくれ。お主には期待しているぞ」


「べぇ~! っだ! 誰があんたなんかを楽しませてやるもんですか!」


「なら好意を受け入れるか? 恋する乙女へと堕ちるのか? そんな自分を本当に許せるのか?」


「うるっさいわね! そんなのあんたには関係ないわよ! 身体は好きにさせても心までは奪わせやしないわ! 私は私の為に私を貫いてみせる! 精々そうやって見てなさい! あなたの思い通りになんてなってやらないんだから!」


 ふふ♪ 何一つ具体的ではないな。策略家らしくない。だがその負けん気の強さは間違いなくパティ達と血を同じくする者だな。正直私の好みだ。やはりここの姫君は骨がある。


 折角だからもう一人くらい誘ってみようかしら? 少なくともあと十六人はいる筈だし。


『なんだかギンカらしくない事を考えていますね』


 なんだ。姉さんも覗いていたのか。


『まさか嫌なんですか!?』


 いや、単に遠慮してるかなと思って。


『別に気にしませんよ?』


 さようで。


『なんだか冷たいです』


 そんなつもりは無いさ。


 それより姉さん。少し相談に乗っておくれ。


『ばっちこいです♪』


 ふふ♪ 姉さんは可愛いなぁ♪


『なんですか突然!? やっぱりギンカおかしいです!?』


 なしてさ。

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