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04-12.意地っ張りお姉ちゃん

「姉様!」


「…………っ」


 こやつ……今笑いおったな? パティにすら気付かせないよう本当にごく僅かだったけれど、身体の感覚を共有している私にはわかるのだ。意識を取り戻してほんの一瞬何かを考えてから我慢しきれず笑みが溢れたようだ。



「姉様! 大丈夫!? 気分はどう!?」


 近いぞパティ。近すぎだ。キスでもする気か。



「……ええ。大丈夫。むしろ最高の気分よ」


 まさか本気でそう思っているのか? エリクサーが流れ込んだ影響か? 確かに体調は最高の状態だろうけど……。



「エリクさんは?」


「ここには居ないわ」


「そうじゃなくて」


「え? あ、えっと覗いてもいないわ。たぶん」


 これはパティも気付いておったな。むしろ先に明言しておくべきだったな。今の反応では気付かれるだろうに。



「エリクさん。見ているのでしょう? 出てきて話をしましょう。先ほどの言葉は取り消すわ。今度は私の謝罪を受け入れてくれないかしら」


 ダメだな。完全に確信している。これはカマかけですらない。他者の身体を使って話す所は見せてしまっていたしな。自分もそういう存在になったのだと理解しているのだろう。



「悪いな。正直心配だったのだ。義姉上は私の事が嫌いであろう?」


「ふふ♪ 酷い人。私を変えてしまったくせに」


 動じる様子も無いか。自らの口が勝手に動けば普通は驚きもするだろうに。



「すまんな。だが自業自得だ」


「そうね。一応備えてはいたのだけど……あら? ふふ♪ 手が早いのね♪」


「違うからな。考えているような事では無いぞ」


「そう。心まで読めるわけではないのね」


 こやつ……やはり油断ならんな……。



「このままでは話し辛いわ。姿を見せてくれないかしら?」


「よかろう。暫し待て」




 部屋に戻り、再びパティと並んで身を起こした義姉上と向かい合う。



「義姉上の本当の目的を聞かせてくれるか?」


「今のこの状況よ。わかっているのでしょう?」


「いいやわからん。私には義姉上の事が何も分からんのだ」


「あら。察しの悪いことね。私はあなたが嫌いよ。いいえ。嫌いだった。今はもう違うわ。あなたのお陰でね」


「それが義姉上の策なのだろう? なら目的は何だ?」


「そこまで分かっているなら簡単な話じゃない。好きになる為よ。あのパティを変えた力なら出来ると思っていたわ」


「パティを変えた? 何か勘違いしていないか?」


「え?」


 えって……。え?



「パティは私の眷属ではないぞ。義姉上と違ってな」


「……眷属?」


「私の魔力によって染められた者の事だ。私が肉体を意のままに操れるのは眷属だけだ。パティはまだそこまで至っていない。正直私はこの力を好ましく思っていないからな。パティにはパティのままで私を好きでいてほしいのだ」


「……なによそれ」


 なるほど。これがポカとやらか。義姉上は勘違いしておったのだな。ただ愛しの妹が取られたから嫌っていたのではなく、その妹が卑劣な手段によって変えられてしまったと思ったから私を嫌っていたのだな。


 ならば自身すら差し出したのはパティの呪縛を解く為か。私の洗脳を受ける事でその対策を見つけ出そうとしたのか。そしてその為に私への忌避感を無くそうとしたのか。私とより深く付き合っていく為に。何時の日か妹を解き放つ為に。


 先程の言葉もこれまでの態度もその為の策か。私はまた挑発に乗ってしまったのだな。道理でノコノコと乗り込んでくるわけだ。私は義姉上の覚悟を見誤っていた。


 義姉上は本当にパティを愛しているのだな。どれだけ皆が離れていこうと、この妹だけは変わらず慕ってくれたのだものな。本当に失いたくなかったのだな。



 しかし義姉上はまた間違いを犯した。全くの見当違いとまでは言わぬが、パティの好意の理由を見誤っていた。


 以前のパティは人懐っこくはあっても本当の意味で他者を近づけさせる事は無かった。あくまで強迫観念に近い衝動に突き動かされていただけだった。恋をするなんてあり得ない事だったのだ。少なくとも義姉上の認識では。


 きっと義姉上だけがパティの真実に気付いていたのだ。そんなパティを本気にさせたのは私の力によるものだと誤解したのだ。卑劣な力でパティを変えてしまった私を本当に心の底から嫌っていたのだ。



「姉様?」


 どうやらパティはまだ気付いていないようだ。義姉上が何を目的としていたのか思い至ってはいないようだ。



「パティ。悪いが少し外しておくれ」


「何言って……わかったわ。お願いね。エリク」


 今度はパティが退室した。義姉上はそれを引き止めようとはしなかった。



「……ありがとう」


「すまんな。私は義姉上の事を誤解していた」


「……やっぱり心が読めるの?」


「いいや。もしかしたら私はまた見当違いな事を考えているのかもしれん。だが得心はいった。そういう理由ならば義姉上の行動にも納得だ。パティにはそれだけの魅力があるからな。義姉上もパティの魅力にやられた者の一人なのだろう」


「……ふふ」


 わからんな。やはり義姉上の考えは。この笑みの理由までは見当もつかん。的外れだったのか、同意してくれたのか。或いは全く別の思惑故か。だがまあ良いだろう。少なくともパティの為である事だけは間違いあるまい。



「三年で父君を王にしろ。さすれば連れて行ってやろう。マルティナとヴァレリアのついでに迎えに行こう。パティの側に居させてやる。義姉上がそう望むならな」


「……一年よ」


「好きにしろ。なんならもっと早くてもいいぞ」


「……やっぱり私、あなたの事が嫌いだわ」


「そうか。それは残念だ。私は義姉上の事が好きになれそうなのだがな」


「つまり今は嫌いって事じゃない」


「そうでもないさ。本当に私の考えている通りの動機で動いていたなら一発逆転だ。パティの為にそこまでの覚悟を持った者なんぞ嫌っていられるものか」


「嫌な感じ。パティ、パティって。あの子は私の妹よ」


「叔母であろう。そして私の伴侶だ」


「本当に嫌な人。妖精ってこんな陰湿なのね。お伽噺とは大違いだわ」


「生憎と人間社会での生活が長いのでな」


「……ふっ。ふふ♪」

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