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04-11.仕掛けられた罠

「まさか貴方の方から呼んで頂けるとは思わなかったわ」


 こちらとしても予想外だ。まさか警戒もせず普通に呼び出しに応じるとは思わなかった。これなら眷属化の前に少しだけ話しをしてみるべきだな。今度は落ち着いて。怒らずに。



「アカネに何か問題でもあった?」


「いいや。あの子は家族として迎え入れよう。紹介してくれて感謝する」


「わざわざそれを伝える為に?」


「そんなわけがなかろう。今日の今日で。伝えるにしても全ての問題が片付いてからだ」


「ギルドへ根回ししてほしいの? そうよね。ノコノコ向こうに出向いたんじゃ同じことの繰り返しだものね」


「早合点するな。今度は義姉上自身の件だ」


「なに? やっぱり私も欲しくなった?」


「つまりはそういう事だ。仲直りしよう。私も大人気無かった。感情的になりすぎていた。警戒しすぎていた。義姉上には是非味方になってほしい。今のままギルドに素材を売りつけても禍根は残る。私達は平穏な一年間を送りたい。義姉上にも協力してほしい。義姉上の力が必要だ。頼む。数々の無礼を許してくれ」


「……」


 流石に大袈裟過ぎただろうか。つい数時間前に手荒な方法で放り出したくせに虫が良すぎただろうか。だがこれも必要なことだ。パティと約束したからな。私は義姉上を嫌い続けるわけにはいかない。好きになる為には歩み寄らなければ始まらない。だから先ずは頭を下げよう。私の方から手を差し出そう。応じてくれようとも、そうでなかろうとも義姉上には眷属になってもらうしか道は無いのだけれど。



「良いわ。その申し出を受けましょう」


「そうか。ありがとう。義姉上」


「ただし条件があるわ」


 私やっぱり義姉上の事好きになれないかも。こっちが歩み寄って頭を下げてもこの態度だ。王女様と政敵って普通はこうなのかもだけどさ。或いは私の腹の中を見透かしているからなのかもしれないけど。



「一年後には必ず王都を離れなさい。そして出来れば二度と戻ってこないで」


 ……そうか。そういう事か。



「それは困る。アンヘルとアルバラードの令嬢を迎えに来なければならん」


「二人は私が責任を持って送り届けるわ。いいえ中退で良いわよね。どうせ王家や貴族とは縁を切ってもらうのだもの。学歴なんて必要無いものね」


「勝手な真似は許さんぞ」


「許す? 貴方が? 貴方に何が出来るの?」


「……それが本音か?」


「こんな無様を晒しておいて態度だけは一人前ね。私は貴方の敵よ? 頭を下げるべき相手ではないのよ? それは貴方も分かっていた筈でしょう? それが何よこのザマは。私のパティを奪っておいて私に味方になれですって? 貴方達の幸せの為に協力しろですって? よくそんな巫山戯た事が言えたわね。正直貴方にはがっかりよ。もう少し骨のあるやつだと思っていたのに。パティを預けるだけの価値があるのだと信じたかったのに。とんだ腰抜けだわ。貴方にはもう何の価値も無い。協力はしてあげるから大人しく縮こまっていなさい。一年間の平穏は約束してあげるわ」


「……なるほど。ようやく合点がいった」


「貴方の考えになんてもう興味は無いわ」


「悪いな。私はお前に興味が湧いた」


「っ!」


 ジェシー王女の身体を魔力壁で囲って魔力を流し込む。少しだけ違和感を感じたものの、何かが割れる音と共にその違和感もあっさりと砕け散った。




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「ちょっと。何いきなり胸元弄ってるのよ」


「少し待て。ああ。あった。これだ」


 意識を失ってソファに横たえられた義姉上の胸元からヒビの入ったペンダントを取り出した。



「レティ。どうだ?」


「間違いありません」


 やはりこれは魔力電池か。正確には魔力石だったか。そのまんまネーミングはカルモナド王家の伝統芸なのだろうか。パティは魔導石なんて呼んでるけど。どれも大差無いな。



「もしかして姉様なりの洗脳対策?」


「おそらくそんなところだろう。残念ながらこれ一つ程度では到底足りはせんかったがな」


 とは言えこれは確かに有効な手立てだ。よくぞ見破ったものだ。この宝石は魔力を吸収して蓄える性質を備えている。私の眷属化を防げる可能性は確かにあった。粗悪品か経年劣化か単に元々そういう物なのかは知らんが、簡単に砕けてしまったのは義姉上にとっても想定外の事だったのだろう。


 そもそも眷属化が掛かったフリで誤魔化せるものなどでは無いと知らなかったようでもあるけど。義姉上の策は穴だらけだな。よく一人でノコノコと乗り込んでこれたものだ。義姉上の方こそ私達を何も理解しておらんかったのだろうな。敵対していると言いつつ、本気でそこまでされるとは思っていなかったのかもしれない。洗脳対策もあくまで念の為程度の仕込みだったのかもしれない。やはり舐め過ぎだな。その傲慢さも間違いなく義姉上の性質の一部なのだろう。




「姉様は私達を敵だと思っていたのね」


「違う。私のことだけだ」


 私も義姉上の心を何一つ分かってはいなかった。この人は本当に心底私のことが嫌いだったのだろう。それでもパティの幸せの為にと笑顔を浮かべ続けていたのだ。


 そんな彼女が私の魔力に染められたらどうなるのだろう。私への嫌悪は綺麗さっぱり消え去るのだろうか。或いは二つの感情が同時に存在し続けるのだろうか。


 義姉上が目覚めるのが待ち遠しい。私は気になって仕方がない。どうやったら互いに嫌い合う私達が仲良くなれるのだろう。いや、比べるのもおこがましいか。私は言う程嫌っているわけでもない。そもそもそこまで真剣に向き合っていたわけではない。そうでなければ気付けた筈だ。義姉上などとは呼ばなかった筈だ。眷属にしようとは思わなかった筈だ。



「アカネはどう思う?」


「生まれ変わるやろ。嫌悪感や企みなんて押し流されてるやろな。人が抗えるようなものちゃうで」


 流石アカネ。私の聞きたい事を的確に察してくれた。



「レティは?」


「嫌いなままだと思います。ジェシーちゃんですし」


 レティって実は義姉上のこと好きなんじゃ?



「ファムはどうだ?」


「感情はともかく記憶は残っているからね。整合性が取れなくて苦しむだろうね。それをどう乗り越えていくか次第じゃないかな。最初は慎重に見守ってあげて。例え自傷行為に走っても無駄だと分かれば切り替えるだろうから」


 私の眷属は怪我を負う事がない。正確には傷を負ってもすぐに回復するのだ。その身に流れる私の魔力によって。常時エリクサーに浸かっているようなものだからな。大抵の傷では致命とならない。


 もし仮に義姉上が私の眷属となった事を苦にして自害を図るにしても、そうそう手段は無い筈だ。とは言え皆無というわけでもない。極力見守っておくとしよう。万が一の場合は私が支配すれば防げるのだし。



「これで本当に良かったのかしら……」


 パティは今更になって後悔しているようだ。眠り続ける義姉上の手を握って、その顔を心配そうに覗き込んでいる。



「私達は席を外そう。悪いがパティ。義姉上を頼んだぞ」


「ええ。そうね。その方が良いわよね。任せておいて」


 パティと義姉上をその場に残して退室した。



 早速で悪いが覗かせてもらうとしよう。義姉上はパティに対してどんな話をするのか。或いはより深い本心すらも吐露してくれるかもしれない。私は彼女を知る必要がある。否が応でも長い付き合いになるのだからな。それにやはり私は義姉上を好きになりたい。あそこまでパティを想ってくれている人を嫌いたくなんてある筈も無い。

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