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04-09.作戦会議

 一応念の為にディアナにも確認を取ってからメアリに眷属化を施した。そして実はこれは想定外だったのだが、眷属化によってメアリも意識を失ってしまった。


 スノウはともかくレティは意識を保っていたし、ロロはそもそも意識を失っている間に眷属にしてしまった。


 そしてファムも意識を失うようなことは無かった。ファムを眷属化する際にはソラが何やら手伝ってくれていたので、間違いなくそれが理由なのだろう。


 アカネの場合は強引に魔力を押し込んでしまったが、メアリにはアカネの時より随分と丁寧に流し込んだのだ。むしろレティの眷属化の時の方がずっと乱暴だったくらいだ。


 それにメアリは元々私の魔力をある程度受け入れていた筈だった。ならば意識を失った原因は魔力抵抗以外にあるのかもしれない。



「メアリは眠っちゃったけど話を進めちゃいましょう」


「そうだな。ならば先ずは状況説明だ」


 気にはなるが後にしよう。姉さんはこういうの教えてくれないだろうし、ソラに聞いてみるのが早そうだ。


『もう少し試してみてからでもいいのでは?』


 既に人間の眷属は八人だ。検証は十分だろう。


『もしかして我らの末妹を含めてます? あの子は少し事情が違いますよ?』


 ……そうだったな。ついな。


『やはり道具は嫌ですか。そうですよね。少女達を道具にすることだって嫌がっていますもんね。ギンカのその拘りはもしかしたら人にとって当然のものなのかもしれませんね』


 姉さんにも知らぬ事があるのだな。


『当然です。自分で言うのもあれですが中々の箱入りっぷりですよ。なにせ生まれてこの方、家出の一回だってしたことがありませんからね』


 ふふ。良い子だな。姉さんは。


『ふふ♪ そうでしょう♪ そうでしょう♪』



「エリク? どうしたの? もしかしてまた?」


「ああ、いや。大丈夫だ。私から話そう」


 いかんいかん気を付けねば。姉さんの事がバレてしまう。既にバレてるけど。でもまだ正体までは判明してないしね。うん。気を付けよう。



 それからここまでの流れをアカネに説明した。


 最初はそうだな。ギルドが強引にクランを設立させてきた件だな。



「強引に?」


「うむ。より正確に言うなら勝手にだ。私達の話も禄に聞かず一方的に設立しておくと告げられたのだ。当面はお試し期間だから細かい事は気にするなとな。必要が無いなら更新しなければいいと。そんなところだったか」


「典型的なやり口やん」


 アカネは早くも額に手をやってしまった。たぶんというか間違いなく私達の迂闊さに呆れているのだろう。面目ない。



「まあその時のやり取りが随分とこちらを軽く見ているものだったのでな」


「カッとなったん?」


「そうだ。その喧嘩を受けて立とうと。そのような事を宣言したのだ」


「そこはもっと具体的に」


「えっと、『貴殿らは我々を利用すると口にした。プライドがあるのは我々も同様だ。そうでなければ今後も舐められ利用され続けるだけだからな。これはギルドからの挑戦状と受け取ろう。私は真っ向からこれを打ち破ろう。貴殿らが泣いて許しを請うまで手を緩めぬと誓おう。帰ってギルド長に告げよ。私はクシャナとしてではなく、妖精王エリクとしてこの誓いを遂げてみせると』と。確かこんな感じだ」


「よく一言一句覚えてるわね」


 そういうパティこそ。私は薬瓶補正があるし。



「そらどこで?」


「この屋敷のダイニングルームだ」


「あかんやろ」


 そうなん?



「そんなん公衆の面前で言えへんと意味があれへんよ。適当にあしらわれてるやん。今更何言うてもこっちの味方につく人は誰もおらんで。事実としてはただあんた達が世間を騒がしてるだけってことになるんや。そら王家も敵に回るやろ。どない力があったって社会的信用まで伴うてるとは限れへんねんから。逆にそれがある相手には太刀打ち出来へんで。今後はそんなんも気ぃつけてこ」


 あ、はい。すんません……。


 あれ? でもベルトランは知ってたよ? そういえばあれどっから漏れ……うん? そう言えばやつは私達がギルドに喧嘩を売ったと言っていたぞ? つまりはそういうことか?


 ギルド、或いは義姉上が先手を打っていたのか? 城に届くよう意図して噂を流したのか? 最初から私達を悪者にする為に? 向こうから喧嘩を売っておいて被害者面をし続けていたのか? 先に信用を得ておく為だけに?



「やはり奴とは縁を切ろう」


「……姉様と?」


「これは何かの前提に過ぎんぞ。真の目的は他にある筈だ。第一王子派閥が利益を得る為の何かが隠されている筈だ」


 今のところ奴は大した得をしていない。少なくともパティに嫌われるリスクと釣り合うとも思えない。


 ギルドの件なんて、私の名を貶めてパティを取り戻す為の布石にするとか何か遠大な目的の過程に過ぎない筈なのだ。



「考えすぎ……とは言えないわね」


 流石のパティでもこの期に及んでジェシー王女を信頼する事はできんか。



「やっぱりジェシーちゃんなんかと関わったのが間違いなんです。ファムちゃんもそう思いますよね?」


 レティはそれ見た事かとうんざり顔だ。



「あはは~。ノーコメントで」


 これはファムも何か心当たりがあるな? ファムのこの様子を見る限り一応学生の頃に接点があったのは真実っぽい。



「気持ちは分かるけど、決して悪辣なだけのお人でもあれへんで? 気持ちは分かるけど」


 ならなんで二回言ったし。



「アカネは意図が読み解けるか?」


「なんとなくなぁ」


 あら? 意外。そして珍しい。アカネが自信なさげだ。



「目的はハッキリしてるんよ。ギルドとこの家の両方に恩売りたいんよ」


 そこは言い切るのか。ダメ元で聞いてみただけだけど、アカネとジェシー王女にもちゃんと接点はあったらしい。


 多分ジェシー王女は嘘を策に混ぜないのだろう。真実とそれを意図的に伏せる、或いは曲解させる事によって人々を動かすのだろう。これだけあっちこっち策を巡らせておいて嘘なんか使うならすぐにボロを出してしまう筈だ。きっとそんな隙は始めから無いのだろう。だからやるとしても誰かに嘘を付かせるところまでだ。自分の手を汚す事はしないタイプなのだろう。



「あの人は絶対に無駄な事はせえへんよ。必要な過程だけ積み重ねて目的に辿り着くねん。ほんでその過程で生まれるチャンスも逃せへん。せやから目的だけは読み取れる。その過程は想像もつけへんけどな」


「この件が過程のチャンスという可能性は?」


「あり得へん。今この王都で最も注目を集めてんのは妖精王一行や。それみすみす取り逃すなんてする筈があれへん」


「あやつの目的は私よりパティではないか?」


「どっちでも同じことでしょ。要するにこのお屋敷ごと手に入れちゃえばいいんだから」


「総取りだと? それがゴールか?」


「流石に今回の一件だけでは辿り着けないでしょう。エリクちゃんも言うようにあくまでその為の準備の一環ではないかと」


「この状況から挽回が可能だと?」


「そう考えているのでしょうね。ジェシーちゃんですし」


 なんだかなぁ……。



「けどあの人、肝心なところで見誤るんだよね」


「うっかり癖はありますね。詰めが甘いのです」


「過程は凄いんだけどね。なんでか最後の最後でね」


「あ~あるなぁ。無駄に自信家やからなぁ」


 何その評価。と言うかここに集まった四人は漏れなくジェシー王女と何かしらの因縁があるのだな。


 ファムとレティは同級生だ。しかも二人とも敬遠してる。学生時代にいったい何をやらかしたのだろうか。


 パティは言わずもがなだ。敬愛するお姉様だものな。今となってはどうしてそうなったと思わなくも無いけど。まあパティだからな。それがパティの良いところでもある。うん。


 そして意外な事にアカネも随分親しいようだ。ちょっと辛口な評価まで口にし始めた。



「ならば話は簡単だな。その最後の最後に致命的な一撃を加えてやろう」


「いえ、そこまでいくと既に目的は果たされている可能性が高いかと」


「目論見が失敗するわけじゃないんだよ。本人にとっても想定外の問題が発生するだけで」


「それもなんだかんだ何とかしてみせちゃうものね」


「間違いなく優秀な人ではあるんよ」


 今度は打って変わって高評価だ。


 だが私もまさにそのような場面を目撃した事があるな。ジェシー王女が聖女の杖で私の魔力壁を破ろうとした時だ。


 奴は魔力壁を破るどころか杖を奪われる失態を犯した。しかし事前の準備が十分だった為に私はその意図に気付き杖を返却したのだ。そうして結果的に目的だけは果たして見せたのだ。


 更にはあの失態が元で私は杖、シュテルを手にし、私が奴に対して心を許してしまった理由にも繋がった。流石に偶然も多分に含まれてはいると思うけど、そういう失態とリカバリが頻繁に起こり得るのだろう。そう考えればなんとなく皆が言う事もわからなくもない。




「なればこそだ。我々が全て掻っ攫ってやろう」


「眷属化するってこと?」


「それは……いや、まあうん。奴が相手なら心も傷まんか」


「けどさっきも言った通り危険もあるわよ?」


「そこの対策も考えよう。皆も知恵を貸しておくれ」


「わかった。その代わりエリクもチャンスを逃さないで。隙があったら何時でも眷属化しちゃってね。私が許すわ。姉様を封じるには必要な事と割り切ってね」


「……うむ。約束しよう」


「信じるわ」


 正直気は進まないが、この迷いだけは必ず捨ててみせよう。私にとって最も大切なのは家族の安全だ。奴に全て奪われるくらいなら奴を奪うのも致し方のない事だ。そう割り切ろう。

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