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04-08.温度差と空回り

「目覚めたか。気分はどうだ?」


「妖精王様」


「なんだ? それとエリクで良いぞ」


「妖精王様。うちは改めて決めました。あんたさんにこの身の全てをお捧げします。どうぞ末永う側に置いてください」


「ああ。言われるまでもない。眷属とした以上は二度と手放すつもりはない。例えお前がこの家を追い出されようとも生涯私のものだ。そこに選択の余地はない」


「妖精王様♪」


 アカネは躊躇うこと無く飛びついてきた。まるで懐いた子犬のようだ。でもどっちかというと猫かな? この子ちょいちょい私の言葉スルーするよね。良く言えば流されないタイプなのだろう。自分の意思で言葉を選ぶタイプだ。悪く言えば人の話を聞かない子だ。上手く付き合っていけるかしら?



「うちはあんたのこと好きや! 何でもする! やからいっぱい愛して! いっぱい抱きしめて! 眷属最高や! こんな気持初めてや!」


 だいぶ興奮していらっしゃる。


 アカネのそんな無邪気な姿を見ているとまたしても罪悪感が湧いてきた。そんな気持ちを誤魔化すように少しだけ抱きしめ返してみる。逆効果な気もしなくもないけど、これで少しでも喜んでくれるなら……。



「もっとぉ!」


 何故私は出会って数時間の少女から告白されているのだろう。あまつさえ抱きしめ返しているのだろう。ファムや姉さんにはああ言われたけれど、やはり割り切るのは難しい。


 例え魔力はただのキッカケに過ぎずとも、やはり私はこの娘の人生を大きく捻じ曲げてしまったのだ。カナレス家の事情だとか義姉上の暗躍だとか、私の手の届かぬところで既に決まっていた流れだとしても、例えそれが今更変えようのないものだったのだとしても、私がこの娘の心を捻じ曲げたのは紛れもない事実なのだ。家族に勧められたとか、パティの頼みだったとかも関係がない。私が自分の意思で決めて魔力を流し込んだのだ。大して知りもしない、好意を抱いた相手ですらない少女を自らのものとしたのだ。反吐が出そうだ。



「何後悔してるん?」


 え?



「うち好みやなかった? 積極的な子ぉは好かん?」


「い、いや……」


「ならええやん! こまいことは後回しで! 妖精王様女の子好きなんやろ? うち見た目は悪ないやん? 好きや言うてるんやから妖精王様も好きにしてええんよ? ほら! チュってしてまおうで! それかもっと凄いことしてくれてまう? うちそれでもええで♪ うちはあんたのもんやで♪ 妖精王様も好きにしてな♪」


「……すまん」


「なんでぇ? 気分やなかった?」


「……そんなところだ」


「ならしゃあないなぁ。我慢したる」


「……すまんな」


「そればっかりやな♪ 王様言うくらいなんから堂々としとったらええのに」


「ふっ。そうだな」


「あはは♪ 妖精王様ったらおもろいやっちゃな♪」


 そう笑ったアカネは私の頬にキスをしてから身体を離して立ち上がった。



「作戦会議続けるんやろ? 早よ問題片していっぱい相手したってな♪ 困り事は全部うちが解決したるから♪」


 私の手を握り、引っ張り上げてくれた。


 この子は良い子だな。少しは義姉上にも感謝してやるか。私もいい加減切り替えよう。それはそれ、これはこれだ。



「うむ。存分に働いておくれ。全てが無事解決したあかつきには望むままに褒美を取らせよう」


「ええのん!? 俄然やる気出てきた! 妖精王様話分かるやん! 二言は無しやで!」


「当然私以外の家族も許可するものに限るがな。それがこの家における最低限のルールだ。違えるなよ」


「勿論承知してんで! 家族に嫌われたら元も子ぉもあれへんからな! 何より家族は大切にするもんや!」


「良い心がけだ。改めて歓迎しよう。ようこそアカネ。これから宜しく頼む」


「おおきに!」




----------------------




「え~。それじゃあ無事に眷属化も完了したみたいだし改めて話を始めましょうか」


 メンバーはパティ、ファム、レティ、アカネ、私だ。メアリも部屋の隅に控えてはいるけど何時も通り干渉するつもりも無いようだ。


 そう言えばメアリはどうなんだろう。だいぶ魔力流しちゃってるんだよなぁ。最初の頃、まだその効能も把握しきれていなかった頃の話とはいえ……。


 今度ちゃんと話し合ってみよう。本人とディアナ達が望むなら眷属化も考えよう。私が抱く忌避感のせいでメアリに我慢を強いているのだとしたら、それは改めなければならないことだ。


 そうして優先度付けと線引をしていかなければな。折角皆が私の悩みに対して答えを示してくれたのだ。少しずつでも実践してみよう。それでもどうしてもダメならまたそう言えば良いのだろう。きっとその時には皆も分かってくれるはずだ。先ずは私が努力しよう。全てはそれからだ。きっとその歩み寄りこそがより良い未来に繋がっていく筈なのだから。


『ギンカ。もう一つアドバイスです。そういうのは後回しにしてはいけません。タイミングもそうおかしなものではありません。今この場で提案してみましょう。きっと皆さん真剣に考えて答えを出してくれますよ』


 そうだな。姉さん。



「パティ。悪いが先に提案したい事がある」


「どうぞ」


「メアリとミカゲの件なのだがな。彼女らの眷属化について今一度相談したい」


「良いわよ。眷属にしちゃいなさい」


 真剣に考えてる?


『あはは~。まあ答えは既に出ていたという事ですね』


 なんだかなぁ。



「ディアナの意見も必要だろうが」


「お嬢様から許可は頂いております」


 メアリがすっと前に出てきた。



「既に話し合っておったのか?」


「はい。私も覚悟は出来ております」


「本当に良いのか? 自分がほんの半年前と違う事は理解しているだろう?」


「ええ。エリク様のご懸念を誰より理解していると自負しております。忌避感を抱かれている事は承知しておりました」


 こんなところに理解者が居たとは。私の魔力を浴びていながらその鉄壁の精神力故に安易に私の信奉者に落ちる事もなく、更には我々の中で最も世間一般の常識を弁えた者でもあるものな。流石はメアリと言いたいところだ。


 誰かのせいにはしたくないけれど、私達の家族はそういう意味で世慣れしていない者が多すぎるのだよなぁ。殆どが生粋のお嬢様だから致し方ないのかもしれんが。



「あれ以来魔力は流しておらんかったな。ぶっちゃけた話どうだ? 影響は抜けておるか?」


「意地の悪い方ですね。このような場でお聞きになるとは」


「……すまん。配慮が足りておらんかった」


 つまりはそういう事なのか……。



「いいえ。冗談でございます。エリク様のご認識通りです。依然としてあなた様への強い好意が根付いております」


「……そうか」


「そのようなお顔をなさらないでください。普通に傷付きます。どうやらエリク様は勘違いなされているようです。私のこの好意は魔力によるものだけではありません」


「……そうか」


「ちょっとエリク! 何よその態度は!」


「いえ、パティ。どうぞそのままで。エリク様が戸惑われるのも当然です。私は皆様のように若くはありません。更には一介のメイドに過ぎません。どうか今の発言はお聴き逃しください。身の程も弁えず申し訳ございませんでした」


「いや! 違うぞ!? そういう意味で戸惑ったわけじゃないぞ!? メアリが我慢強すぎるからとか! 今の言葉はどういう意味だろうとか! ちょっと考え込んでしまっただけでな! お前はまだまだ若い! 例え一回り以上離れていても関係ないさ! というか言ってなかったか? 私の年齢なんて数百を超えておるのだぞ! 私から見たらディアナもメアリも大差無いのだ! どうか誤解せんでおくれ!」


「必死過ぎて逆にボロが出てるわよ」


「パティ。ダメですよ。ここは生暖かく見守ってあげる場面です」


 外野がうるさい!



「よし! ならばやるぞ! メアリを完全に私のものとしてしまうからな! 今更後悔しても遅いぞ! 一生お前は私のものだ! それも眷属だけでは済まさんからな!」


「折角ですが眷属だけで結構です」


「言っただろう! 拒否は認めん!」


「どうか落ち着いてくださいませ。私はお嬢様方の御母上に近い世代の者です。お誘いは嬉しく思いますが妖精王陛下の花嫁は分不相応なのです。私の感じる居た堪れなさもどうかご理解ください」


「そ、れは……いや! ダメだ! やはり認めんぞ! 手を出す以上は最後まで責任を取る! 眷属と花嫁は同義だ! どうか私をこれ以上どうしようもない存在へと貶めないでおくれ!」


「勝手なことを仰るのですね」


「ああ。これは私の身勝手だ。私は私の為にお前が欲しい。だから全て寄越せ。二度と半端な真似はせん。そう誓おう」


「……仰せのままに」


「ひゅ~ひゅ~♪」


「パティ。後でお仕置きです」


「ふふ♪ いいわ♪ 二人でゆっくり話しましょう♪ 新しい関係性についても色々と決めていかないとだものね♪」


 なんでパティがそんな嬉しそうなの? 私勝手に婚約者増やしたんだよ? 半ば背中を押されてはいたけどさ。



「エリクも安心して♪ メアリのことは私とディアナに任せておきなさい♪」


 まあ、うん。そう言ってくれるなら。ありがたく。


 どうしよう。ミカゲの方は。なんか私ももういっぱいいっぱいだからまた今度でいいかな……。パティも浮かれすぎて気にする余裕が無いみたいだし。ごめんよミカゲ。やはりお前はスノウと一緒にだ。もう少しだけ我慢していておくれ。

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