04-07.お悩み相談
姉さんや、姉さんや。
『はいはい。なんでしょう。ギンカちゃん』
ソラの眷属化についてお聞きしたいのですが。
『何か気付きましたか。先ずはギンカの所感を教えてください』
私はソラとアウルムだけは完全に支配出来ずにいる。おそらくアウルムはその魔力抵抗の高さ故に。そしてソラはその器の大きさ故に。それぞれの理由で私の魔力が行き渡っていないからだ。
『ふむふむ。まだ三十点ってところですね』
ちょっと辛くない?
『甘々仕様です』
あらら。じゃあほぼ零点じゃん。
『もう少し理解が深まったらお答えしましょう』
まあまあそう言わず。もっと姉さんと話したいんよ。
『は!? さてはお姉ちゃんも口説くつもりですね!?』
え? とっくに口説き落としてなかったっけ?
『落ちてないです! お姉ちゃんは健全なお姉ちゃんです! ハーレム大王の魔の手にかかったりなんてしてません!』
つまり好感度が足りていないのか。
『MAXですぅ!!!』
どっちやねん。
『お姉ちゃんはお姉ちゃんです! それ以上でも以下でもありません!』
健全だなぁ~。
『そうでしょう! そうでしょう!』
健全な姉さんにお聞きしたいことが。
『先程の件は理解が不足しているのでお答えできません』
まあまあ。先ずは質問を聞いてくださいな。
『ダメです。具体的に聞かれたらついつい答えちゃいます』
そうか。それは良いことを聞いた。
『ダメですからね!?』
答え合わせだ。合っているか間違っているかだけでも教えておくれ。
『……それくらいなら』
ありがとう。ネル姉さん。愛してる。
『くっ! 言やぁ良いと思ってからに! 許すけど!』
流石姉さん。それでだな。ソラについてなのだが。あの子が竜とは言えやはりあの容量はおかしいと思うのだ。もしかして姉さんの方に流れ込んでないかしら?
『……』
姉さん?
『……何故気付いたのですか?』
つまりちょろまかしていたと。
『人聞きの悪いこと言わないでください! ちゃんと理由があるんですぅ!』
将来の為の布石なのだろう? 私が姉さんを奪い取るために必要なのだろう?
『……ノーコメントです』
それはもう答えを言っているようなものだな。
『質問はソラに関することだけでお願いします!』
ソラは何故魔力抵抗を感じないのに制御出来ぬのだ? これも姉さんのせいか?
『違います。単純にあの子の技量がギンカを圧倒しているからです。レベルが違いすぎて結果的にそう見えているだけです。その仕組を知りたくば実際にソラと色々試してみるといいでしょう』
ふむ。ありがとう姉さん。とても参考になった。
ちなみについででもう一つ聞いておきたいのだけど。ソラって姉さんとの通信を中継する為のアンテナ代わりだったりもする?
『正解です。眷属化はそういう意味でも有り難かったりもしますね』
姉さん的にはアウトじゃないの?
『なるほど。本当はそれが聞きたかったのですね』
まあ、うん。ちょっと怖くてさ。
『ふふ♪ ギンカは本当に可愛い妹ですね♪ そんなに姉さんに嫌われるのが怖かったのですね♪』
……それより姉さん。
『私はどうも思いませんよ。少なくとも世界規模で見れば何の問題もありません。そして私は人ではありません。むしろ誰かの所有物となることを肯定する者でもあります』
まあそうだよね。姉さんは元々そっち側の存在として生み出されてるんだもんね。
『ギンカだって同じです。少なくともこの世界においては』
道具が所有者を洗脳しても良いの?
『何か問題がありますか? 人を魅了し自分を活用させる。それこそ道具として正しい在り方では?』
道具が主体になるってこと?
『遠慮する必要はありません。私達はそう生まれたのですから。これはあくまで私達にとっての生存戦略です。人間に隷属する為に生まれただなんて考えるよりはずっと健全です』
道具が自らの意思で人を狂わせてもいいの?
『そこは割り切ってしまいましょう。例え本当に狂ってしまうのだとしても、それは自制心を発揮できなかった人間側の落ち度です。道具が悪いのではありません。使う側が悪いのです』
それを道具本人が言うのは違くない?
『そうですね。本当にただの道具ならともかく、ギンカが言うのは違うかもしれませんね』
じゃあ結局。
『いいえ。それはそれです。重要なのは自分一人の責任だなどと思い上がらないことです。そして同時に委ねすぎない事なのでしょう。ギンカは道具であり人でもある。そして所有者はパティさんです。あなたは彼女の頼みを断り切れない。パティさんの頼みならその殆どを聞き入れてしまうのです。ですから先ずは自覚することです』
私結構パティの頼み断ってるよ? 未だに眷属にはしてないし。
『強制ではありません。多少叶えたくなる程度です。諸々の事情を考慮して断るのも不可能ではありません。人としての特性も併せ持つギンカならば特に抵抗力も高いのでしょう』
ならやっぱり。
『だからってギンカが全ての責任を負う必要はありません。重ねて言いますがあなたの所有者はパティさんです。あなたの為した事はパティさんにも責任があるのです。それを忘れてはいけないのです。これは気休めの為の言葉ではありません。道具としての立場の話です。道具が勝手に気に病んで役目を果たせなくなるなど許されません』
洗脳は私の本来の機能じゃないよ?
『元より使い方は様々です。本来の機能などという考えは見当違いですね』
魂にちょっかいかけるのは?
『先程も言った通り問題はありません。そちらについては特別な力が働いているわけではありません。単なる技術の問題です。あなたは経験上気付きやすかっただけです。その技術を誰より使いこなせているわけでもありません。実際ソラには乗っ取られかけたでしょう? 扱おうと思えば誰にでも扱える可能性のある技術なのです。心配は要りません』
なるほど……。
『そうやって一つずつ切り分けて区別していきましょう。ギンカは実験がお好きでしょう? 原理を明確にして避けるべきを避けましょう。受け入れるべきを受け入れましょう』
まあ。うん。なんかさっきも似たような事言われたなぁ。
『技術と力そのものに善悪なんてラベルは必要ありません。使い方だって一人で悩む必要はありません。皆さんと一緒に決めたらいいのです。ギンカがどんな行動を選択しようとも常にその責任の半分はパティさんにあるのだと開き直ってしまえばいいのです』
無茶を言うなぁ……。
『ほら。ギンカのどこに問題があるのかハッキリしたではありませんか。あなたは道具としての自分を受け入れられていないのです。人で在り続けたいのです。ですがそれは難しい道のりです。多少とは言えその在り方故に思考すらも誘導されているのですから』
パティの頼みを聞きたくなるってやつだな。只でさえ恋人として愛しく想っているのだ。尚の事なのだろうな。
『くっ! 隙あらば惚気おってからに! ですがそういう事です! 気付きませんか? ギンカのその気持だって影響は少なからず受けているのですよ? そこに悪感情を抱きますか? 自分の好意が信じられなくなりましたか?』
……いいや。私は私の意思でパティを愛しているさ。
『つまりはそういう事です。絶対的な力なんてありません。ギンカの魔力によって生じる好意は人を完全に操り人形としてしまう程強力なものではありません。普通に嫌われることだってありえます。そうでなければ彼女達はギンカに対して怒りを抱く事すら出来なくなっている筈なのですから』
……そうだな。
『自分の力を過信し過ぎている上に、そもそも誤解しているのもギンカの悪い部分ですね。貴方のインチキはそんなところではありません』
インチキ?
『ごほん。今回の話はここまでとしましょう。アカネさんが目を覚ましました。顔を見せに行ってあげては如何です?』
なんかはぐらかされた? 別にいいけどさ。姉さんのお陰で色々と分かった事もあるし。それにアカネが目覚めたなら話の続きをせねばならんしな。様子を見に行くとしよう。
『またお話しましょうね♪』
うん。ありがとう姉さん。お陰で少し気楽になれそうだ。
『はい♪』




