04-06.好意と興味
「「いいんじゃない?」」
なんでさ。
ユーシャとディアナにまで許されてしまったら止める方法が無くなってしまうじゃないか。
「だいたいファムだって眷属化には頼らないと言っていたではないか……」
「あ~! それ言う!? クーちゃんの方から眷属にしたいって言ってくれたんじゃん! ボクのせいにするのは普通に最低だよ!?」
あかん。本気でキレてる。地雷踏んだっぽい。
「すまん……」
「勘違いしないでよ! ボクは眷属だけで終わるつもりはないんだからね!」
ファムはそう言っていつも通りの素早い身のこなしで私に唇を重ねた。この場には正妻組も揃っているというのに。なんて怖いもの知らずなのだろう。これが覚悟を決めるということなのだろうか。
「おいなんだその順番待ちは」
ユーシャ、ディアナ、パティ、ソラ、レティ、ミカゲ、ロロ、シルビアの順に競うように一列に並びだした。しかもカナレス嬢までしれっと最後尾についている。スノウとシュテル、それから妹組はそもそも部屋にいない。マーちゃんがいなくて良かった。流石にまだあの子に手を出す勇気は無い。
「許してあげる条件だよ。忘れないで」
ユーシャは躊躇なく唇を重ねた。ファムの直後だというのにお構いなしだ。
「また増やして。今晩覚えてなさい」
ディアナは前二人の痕跡を塗りつぶそうというかのように力いっぱい押し付けてきた。
「流石に無理よ。恥ずかしいわ……」
パティは迷いに迷ったあげく、鼻先に口づけして離れた。
『気を遣ってあげたよ♪ 主様♪』
ソラがパティ達の後に回ったのは気遣いの結果だったそうだ。驚いた。何時の間にそこまで成長していたんだか。まさかソラが遠慮まで覚えるとは。でも出来ればもう少しだけ遠慮してほしかった。舌まで使うのは反則だと思う。皆も色めき立ってるし。ユーシャ達並び直しちゃったし。
「この日を待っていました♪ エリクちゃん♪」
レティも躊躇いが無かった。私より少しだけ高い身長で抱え込むように全身で絡みついてきた。とても初めてとは思えない。でもこんな初めてで良かったの? 二人きりじゃなくていいの? というか皆も止めないの? ソラ達に許してるから今更ってこと?
「お前はダメだ。下がれミカゲ」
「問答無用です!」
反論しながら迫ってきたミカゲを問答無用で支配にかけ、身体を操って壁際に移動させる。
「ひどすぎますぅ!」
そのうちスノウと共に時間を作ってやるから。先ずは諸々話し合ってからだ。それにロロ達婚約者候補が先だ。ソラですら気遣ったんだからミカゲも空気を読め。
「フフ♪ ソンナに待チキレマセンデシタカ~ハニィ~♪」
ロロよ。残念だったな。私に胸を押し付けても効果は無いぞ。オチ担当は最後に回ってもらうべきだったな。
「失礼な事考エテマ~スネ?」
皆が一度ずつで離れていったのに(二人程やたら長かったけど)、ロロは二度三度と繰り返してから離れていった。案の定レティからお叱りを受けている。二周目からは外してもらって構わんぞ。
「えっと……あはは。ふぅ。よし!」
何やら緊張して真っ赤になりつつも、呼吸を整えて根性を発揮したシルビアが意を決して唇を重ねてきた。だがそれもほんの一瞬だけだった。しかも慌てて離れようとしたシルビアは足を絡ませて転びそうになってしまう。私は咄嗟にシルビアの手をとって抱き寄せ、お返しに今度はしっかりめに唇を重ねた。
「ふぁ……」
あら?
どうやら緊張し過ぎて気を失ってしまったようだ。可愛いものだな。他の皆ももっと見習ってほしいものだ。
「ミカゲ。介抱を頼む」
ミカゲにシルビアを預けると、今度はカナレス嬢が近付いてきた。
「ダメだ」
「まあそう言わんといてください。妖精王様。どうかうちをお側に置いてください。"けんぞくぅ"とやらが必要ならしてもうて構いません。いえ、してください。愛人の方もばっちこいです。うちかて最初から覚悟の上で来てはるんです。お気遣いは不要です」
「今は勘弁しておくれ。私はそんな風に割り切れんのだ」
カナレス嬢の額に触れて魔力を流し込んだ。少しだけ、けれど私に好意を抱くであろう程度に。カナレス嬢は擽ったさに身じろぎしかけたものの、根性だけで耐えて最後まで立ち続けていた。あのメアリですら立ってはいられなかったというのに。体質の違いで差もあるようだけど、それでも十分に辛いのは間違いない。今も冷や汗が吹き出している。無理に我慢したせいだろう。いったい何がこの子をそこまで突き動かしているのだろう。
「気分はどうだ?」
「最高です」
即答だ。どこまでもやせ我慢を貫き通すつもりらしい。
「正直に答えろ。恐怖を感じているだろう? 自分が変えられてしまったのがわかるだろう? 眷属化はこんなものではない。お前の全てが書き換わる。やはりこれは忌むべき力なのだ。意地を張らずここで踵を返すべきだ。今ならまだ見逃してやる。家に帰るがいい。お前はよく頑張った」
「そない言われて逃げられるわけがあれへんよ。もう変わってもうてんから責任取ってください。こないな状態で放り出されても困ります。もう二度と忘れたりなんてできません」
こみ上げる何かを堪えて必死な笑みを浮かべている。ある種の凄惨さすら感じる笑みだ。少しだけ恐怖を感じる。私の方が威圧されている。私はこの子の覚悟から目を逸らしていた。それを無理やり目に焼き付けられた気分だ。
……まずいな。気になってきた。この子がこうまでする理由が知りたい。私のものにして解き明かしたい。そんな気持ちが湧き上がってくる。私は自覚してしまった。ファムの事なんて言えやしない。よく知りもしない少女に対して向ける感情ではない。当然恋や愛なんて欠片も混じってない。ただの興味だ。危険な探究心だ。頼りのネル姉さんも今は側にいない。きっとわーきゃー言って目を逸らしている。私を止められるのは私だけだ。
どう考えてもマズいだろう。いくら皆に促されたからって知り合って間もない少女を薬漬けにしてしまうなんてあり得ない。もう字面が良くない。犯罪者の所業だ。そんな言葉すら生温い下衆以下の何かだ。皆にも私のこの忌避感が伝わらないものだろうか。それとも私の方が何か思い違いでもしているのだろうか。まあ皆は私をただの薬瓶だとは思っていないのだろうな。私の魔力で染められるというただその一点だけを重視しているのだろうな。レティ達が普通に過ごせているから勘違いしてしまっているのかもしれない。特段害があるとは思っていないのかもしれない。そして何よりなんだかんだと使ってしまう私が悪いのだろう。
「今一度問う。お前の目的は何だ」
「御身への興味故に! それ以外全部吹き飛びました! うちはあんたさんが知りたい! もっとください! もっともっとです! それで何かわかりそうな気ぃするんです!」
もしかしたら中途半端に魔力を流し込まれるのが一番辛いのかもしれない。パティ達より眷属組の方が落ち着いて見えるのは元々の性格や年齢だけの問題では無いのかもしれん。
「……すまんな。今楽にしてやる」
今度は容赦なく魔力を流し込んだ。少女が耐えきれずに崩れ落ちても構わずに魔力を流し続けた。




