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04-05.覚悟と線引

「ふふ♪ ばっちりね♪ 流石姉様が推薦するだけの事はあるわ♪」


 暫くカナレス嬢への質問を繰り返したパティは満足気に頷いた。パティはすっかりジェシー王女を許してしまったようだ。我らの姫君はちょろすぎるな。特に既に親しい相手だと顕著だ。対人応対は極力一人でさせないようにせねば。



「うん。こっちも問題無いよ。大方想定した通りだ」


 ファムもリストを確認しながら太鼓判を押してくれた。カナレス嬢の知識は確かなようだ。魔物素材の相場価格もバッチリ押さえているらしい。



「今見せた物はほんの一部だ。ここから先は引き返せんぞ。本当に良いのだな?」


「はい! 覚悟は出来とります!」


 良い返事だ。ならば先に進めるとしよう。



「最後にもう一つだけ。アカネ。あなた個人の目的を教えてくれる? 私達に近付いて何をしたいの? それは一生を賭けてでもやりたいことなのかしら?」


「はい! お話聞いた時ビビッときぃました! こんなおもろい波乗れな商人の名折れです! せやからうちは人生賭けても姉さん達についていく! そう決めたんです!」


「私達はいずれ王都を離れるわ。或いは国すらも。平和的に離れられるとは限らないのよ? もしかしたら二度と戻ってくる事も出来ないかもしれない。あなたには本当に付き合う覚悟があるのね?」


「はい! 承知の上です!」


「待て待て二人とも! 何故そんな話になるのだ! あくまでギルドとの確執が解消されればそこまでだろ。カナレス嬢にもお帰りいただこう。悪いがやはり私は納得できん。本当にカナレス嬢には悪いと思うのだがな。あの義姉上が絡んでいる以上、どうしても信用しきれぬのだ」


「ダメよ。エリク。姉様との話を終わらせたいなら受け入れるべきよ」


「何故だ?」


「妖精王様。ここでうちを返せばあのお方は火消しの為だけにうちを寄越した事になってまうんです。そうなるとまた詫びの品を別で用意されるでしょう。妖精王様が満足されるまでなんべんでも。あのお方の策は続いていくのです」


 ……なんて悪質な押し売りだ。酷いマッチポンプだ。義姉上は妖精王との顔繋ぎの為に利用するだろう。第一派閥にとって益となる家に声をかけ、妖精王との謁見のチャンスを与えるのだ。そして私の下へと連れてくる。受け入れるまで何度でも。その無駄に広い人脈を駆使して私達の欲する人材をその時々で差し入れてくるのだ。時には自ら騒ぎを起こして私達を困らせた上でだ。というか今回もそうなのでは? 本命はカナレス商会に恩を売る事だったりしない? やっぱり出禁にしてやろうか。次来たら塩でも撒いてしまおうか。だがそれでも義姉上は諦めないのだろう。完全に決裂しても関係修復の為とか何とか言って押しかけてくるつもりだ。そんな義姉上をパティは受け入れてしまうだろう。


 つくづく面倒な奴に目をつけられたものだな。あの殊勝な態度も演技だったか。私もパティの事は言えんな。義姉上だなんて呼んでやるのも考え直すべきかもしれん。



「だがそれは受け入れても同じ事だ。カナレス嬢の役割は変わらぬのだ」


「せやけど妖精王様ご自身が今回の件はお試しやと割り切ってはるのでしょう? それに自ら他の詫びを寄越せなんて言う気にもなれへんのでしょう?」


 ……仰る通りで。


 だから結局私から姉上義に伝える事になるのか。「全てはつつがなく完了した。カナレス嬢は役目を果たしてくれた。ありがたく受け取るとしよう。これで詫びは受け取った。仲直りしようではないか」と。そうでなければ義姉上はまたすぐに次を連れてきてしまうのだから。



「義姉上はまた騒動を引き起こすぞ」


「次はしてやられないように気をつけましょう」


 気をつけるたって……はぁ……。



「……この件は追々考えよう」


「やめた方がいいよ。そういうの後回しにすると成り行きに流されるだけになるから。誰かの思惑から外れたいなら先ずは一つずつ自分の意思で決めていかなきゃ。ならいっそお手つきにしちゃったら? 何度も追い返してしまえば少しずつ情報も抜かれていくんだし。ジェシー王女がやっぱり返せと言い出しても返せないようにしちゃいなよ」


 ぐぅ……。



「それって眷属にするってこと?」


「うん。やっぱりパトちゃん的には許せない?」


「……いいえ。良い考えだと思うわ。姉様の意表を突くにはそれくらい必要だと思う。それに万が一姉様とアカネが共謀していたとしても眷属なら逃げられないもの。というか自分から全部話してくれるでしょ。姉様のことだからアカネには何も教えてないと思うけど」


 なんだ。パティも完全に信用したわけではないのだな。



「眷属にはせんぞ。何時も言っているだろうが」


「今回ばかりは割り切りなさい。それともなに? アカネにも本当に好きになってもらいたい? さっきも手を繋いでいたし早くも情が移ってるの?」


「クーちゃん?」


 なんでそこで私が責められるの……。



「そういう問題ではない。私はこの力を好ましく思っていないのだ。大体なんだその言い草は。魔物を従えるのとは違うのだぞ。無理やり洗脳するなんて手段を当然だと考えるな」


「エリクの方こそおかしいと思わないの? なんで魔物には躊躇なく使えるのに人間はダメなのよ? ソラと私達にどんな違いがあるって言うの? あの子の心は染められても私の心は染められないの? あの子の事は私程大切じゃないとでも思っているの? そっちの方が冷たいと思わないの?」


「ソラは関係ない。あの子の場合はやむを得ない事情があったのだ。それについてはもう話しただろう」


「ならアー君は? クーちゃんは分けて考えてるよね?」


「それを言うならファムだってそうだろう。ソラの事は頑なにソラ君と呼び続けているではないか。人と魔物で呼び分けているのも明確な区別だろう」


「別に他意は無いよ。いくらボクでも魔物の性別はパッと見じゃわからないもん。そもそもアー君みたいに性別なんて無い子もいるし。だから最初に決める呼び方が偏るのも仕方ないじゃん。そのまま定着しただけでソラ"ちゃん"って呼ぶ事に抵抗があるわけじゃないよ」


「それは……すまん」


「別にいいけどね。区別が悪いことだとは思わないし。ボクは個人的に魔物を尊重してるけれど、だからって人間相手にやらないような実験をする事にも躊躇ったりはしないもん。生物として違うんだから分けて考えるのも当然だよね。そういう意味ではクーちゃんが人間相手の眷属化を渋るのはわからなくもないよ。ボク個人としても眷属は特別なものであってほしいから無闇矢鱈に増えていかないことも歓迎するよ」


「なら」


「けど今回みたいなのはダメだよ。優先度を考えなきゃ。何より一番大切なのは家族の安全だよ。まだ家族じゃないカナレスさんの優先度は下げるべきだよ。だからボク達の為に危険を排除して。万が一が無いように眷属化しちゃって。クーちゃんはそういう区別こそ付けていくべきだと思うよ」


「それは極端過ぎるだろう。手段はいくらでもあるのだ。もっと後先を考えて判断すべきだ」


「ううん。そうじゃないんだよクーちゃん。クーちゃんは自分の持つ力をもっと活用するべきなんだよ。感情的に受け入れられないから選択肢から外すなんて愚策だよ。ジェセニア王女だって眷属にしちゃえば良いんだ。それであの人も大人しくなるんだから。それにあの人の持つ情報も全部クーちゃんのものだ。眷属化にはそれだけの強制力があるんだから。クーちゃんにとって何が一番大切なのかもっとよく考えて。その後は天秤にかけるだけだよ。ジェセニア王女の尊厳とボク達家族の安全。本当にそれは比べられる程拮抗しているものなの? 考えるまでもなく即決出来るんじゃない? 少なくともソラ君を眷属にした時よりは簡単な選択でしょ?」


「それは……それこそ眷属化が特別なものではなくなってしまうではないか」


「勿論ギルド職員にまでかけろとは言ってないよ。無作為に増やす意味は無いからね。頭だけ押さえれば十分だ。不必要にばら撒いてって話じゃない。使い所は考える必要がある。言いたいのは明らかに必要な時は躊躇わないでって事だよ」


「基準が緩すぎる」


「覚悟の話だよ。基準は後から付いてくるから。優先度さえ決めておけばね」


 むぅ……。



「ファムは割り切りすぎだ……」


 どうりで過激な手段も平気で使うわけだ。自分の中で明確な線引がなされているのだろう。ファムの考え方がまた少しわかったな。



「心の中に棚を作ればいいんだよ。大切な物は上の段に。どうでもいい物は下の段に。嫌いな物は一番下に。もしクーちゃんにとって眷属化への忌避感がボク達家族と同等かそれ以上に重要なものなら一番上の段に入れておけばいいんだよ。それを察したらボク達ももう言わなくなるだろうからさ」


「そんなわけがあるまい。意地の悪いことを言いおって」


「ふふ♪ ごめんねクーちゃん♪」


「正直姉様を眷属にするのは賛成しかねるわ。姉様ならそれを足がかりにエリクの力を調べ上げてしまうかもしれないもの」


「「……そうだね」」


 直接自分の身体を調べさせるかもしれないし、或いは私に取り入る口実にするかもしれない。後は好意によってどこまで行動が縛られるかだな。結果的に今より更に増長するだけかもしらんし。理由がただ私に近づきたいだけに置き換わるだけだ。あやつが本気で迫ってきたらどんな策を仕掛けてくるか分かったものではないな。少なくともストレートに好意を押し付けてくる可能性は皆無だろう。



「けれどその手段を"選べるか"と"選ぶか"は別の話よ。だからファムの考え方自体は良いと思うわよ」


 なんならパティは既に実践してそう。あらかた上段に突っ込んでるだろうからあまり意味が無いだけで。



「さて。カナレスさん」


「覚悟は出来とります」


 なんでさ。

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