表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

217/377

04-03.想定外の大損害

「とまあ、ジェシー王女とはそんなところだな。それで? ギルドの方はどうだった?」


「相変わらずよ。私達向けの依頼は無いから出直してって。ナタリアも見つからなかったわ。どうやら裏方に押し込まれてるみたい。半ば軟禁状態ね。ギルドとしてもこれ以上私達との関係性が複雑なものとなるのは望ましくないみたいよ」


 完全に逃げ腰だな。嵐が過ぎ去るのを待っているようだ。やはり義姉上の言う通りか。私達の事は王家が止めるから、ギルドが直接相手をするまでもないと考えているのだろう。


 ギルドは王家から、或いは義姉上から私達に対して正式に沙汰が下ってから動くつもりなのだろう。それらを笠に着て私達から残りの素材も巻き上げるつもりやもしれんな。あの舐めっぷりなら考えられん話でもない。



「嫌な感じです。こっちが下手に出ているからと調子に乗っていますね。妖精王を怒らせて怖くないのでしょうか」


「ソレは逆デェ~スネ。怖イカラ縮コマッテルノデェ~ス」


「でも何時までもこのままな筈は無いよ。依頼料だけじゃギルドだって十分な利益とは言い難いんだし。依頼によっては身銭を切ってる場合だってあるからね。素材の卸売はギルドの主要な収入源の一つだ。ボクらはそれを完全に潰しちゃったもん。向こうだって今頃腸が煮えくり返ってると思うよ」


 パティ、レティ、ロロ、ファムと共に諸々の報告会と対策会議を始めた。ファムはどうやらギルドの内情にも詳しいようだ。



「ギルドは我々が素直に収めると思っていたのか?」


「ううん。そうじゃなくて。事態はもっと複雑なの」


「というと?」


「先ず冒険者なら皆知ってるだろうけど、素材回収専門の冒険者達もいるの。所謂ハイエナって呼ばれてる人達だね。他にも掃除屋だとか呼ばれたりもするけど」


 知らんかった。ユーシャは小型の魔物としか縁が無かったからな。必要なかったのだろう。



「討伐した本人達が全部回収できれば一番なんだけど、大型ともなればそうもいかない。クラン規模ならチームを組んでその殆どを持って帰ってきたりもするんだけどね。竜の身体だとかは一切捨てる場所が無いくらいだし、丸ごと持ち帰りたいのが本音だ」


 ふむふむ。パティとかまさにそのパターンだな。一人で行って一人で討って帰って来るんだし。いかな我らがパティとて空間魔術の類は修めておらんからな。自らが持ち帰れるだけの素材しか回収しておらんのだろう。



「けどその為の大型機材を普段から整備して持ち歩くなんて非効率だ。大抵はより貴重な部位を選別して持ち帰るんだ。だから残った素材はそのまま放置するしかなくなるの。その後は他の魔物達があっという間に食べちゃうから、よっぽどじゃなければ腐乱の心配も無いだろうしね」


 魔物の魔力を含んだ肉体は他の魔物達にとってもご馳走らしいな。骨と皮ばかりにしか見えない痩せっぱちなゴブリンですら他の肉食系魔物達が平らげてしまうそうだ。



「だから回収専門の冒険者達はすぐに現場を押さえるの。討伐者達が仕事を終えてその場を離れたら直ぐ様護衛役を配置するの。それから近くまで来ていた仲間達と回収用の機材を持ち込むんだ」


 皆にはアウルムのような便利存在はいないからな。そこは普通に人力やら馬車やらで運ぶのだろう。



「当然回収役は先回りしているものなの。身軽な討伐者達より早く動き出さないと同業者達や他の魔物達に先を越されちゃうからね」


 ふむふむ。



「ギルドは一部の回収役に予め情報を伝えておくの。だから彼らは誰より早く現場に辿り着ける。当然アー君が魔物の亡骸を丸ごと回収するところも見ていた筈だよ」


 依頼として張り出される前に情報を知れるのか。そこまでしてでもギルドとしては多くの素材を回収したいのだな。卸売業にはそれだけ旨味があるという事なのだろう。ならばパティはさぞかしギルドにとって都合の良い人材だったわけだな。どうせ回収業者からは買い叩いているんだろうし。情報を先出しする代わりだとかなんとか言ってそう。


 でもまあ、単にその地域の為という意味合いもあるかもしれんがな。強き魔物の骸を平らげてまた強大な魔物が生まれては片手落ちだ。


 むしろ時にはわざと見逃してコントロールしてるまでありそう。最早それくらいの事はしでかしてそうな印象だ。これを悪辣と取るか、社会全体で考えれば必要な事と取るかは言及を避けたいところだけども。



「そういう意味でもギルドの面目は丸潰れだよ。回収役達は別にギルドの子飼いってわけでもないからね。ただの癒着だよ。ギルドの利益の為に依怙贔屓してるだけなの。彼らも元はただの一冒険者に過ぎないの。現地への旅費だとか滞在費用だとかも全部自腹だし。それでも自分達では到底討伐出来ない強大な魔物のお溢れに預かれるからって、意気揚々と乗り込むわけ。同業者達からどんなに白い目で見られてもね」


 それはまた……。私達は随分と恨みを買ってそうだなぁ。



「そんな人達もそろそろ皆帰って来てる頃だ。ナタリアさんが軟禁されてるのは守る為でもあるんじゃないかな? 彼女はボクらの担当だからね。受付に立っていたら何を言われるかわからないから。二人も無事で良かったよ。それとも流石に直接こっちに絡む勇気は無いかな? 熟練の回収役は鼻が利くからね。敵対すべき相手とそうでない相手くらいは見分けられるのかも」


 なるほどな。ギルドはクレーム対応も忙しいのか。その様子だとナタリアさんは泊まり込みになっていそうだな。自宅に帰るのすら危険だろうし。追い詰められた者達は何をしでかすかわからんからな。



「合点がいったわ。殆どの冒険者達が私達と話そうとしてくれなかったのよ」


「なんだかんだと言っても回収役だって弱いわけじゃないからね。大型の魔物の亡骸を守りながら戦うのは案外難しいものだよ。飢えたウルフやベアなんかの群れが集まってくるんだし。同業者だってそうだ。弱い連中は後から来た強者に追い出されるのが常だから」


 それもそうか。ならベテラン冒険者こそが回収役に収まるわけなのだな。魔物の生態や地理をも知り尽くしている必要があるのだろう。そこまで大きな荷物を持って誰より早く到着するのだ。悪しざまに言われてはいるが普通に必要な職業でもあるようだし、ただのならず者集団というわけではないのだろう。



「そんな彼らが一斉にギルドへ戻ってきたんだ。普段は殆どが出払っている筈なのに。それもとっても怒った様子で。残っていた冒険者達が萎縮しちゃうのも無理ないよね」


 完全なとばっちりだな。正直すまなかったと思っている。



「ギルドへの仕返しは十分に果たされたと考えるべきか?」


「う~ん。そこまではなんとも。けどギルドもこのままじゃ終われないと思うよ」


 完全に敵視されておるのだな。これは義姉上の方も大層面倒なことになっていると見て間違いないだろう。まあそっちは自業自得だ。私は知らん。



「今度は私達の溜め込んだ素材が焦点となるのね」


「それはどうかな? 彼らからしたらスライムに食べさせていたようにしか見えないでしょ? だから素材が実は丸々残ってるなんて想像もしてないんじゃないかな?」


 ああ。なるほど。そういう意味でも我々の行動は暴挙と映ったわけか。世間知らずのお嬢様クラブと揶揄されるのもそう遠い未来の話ではなさそうだ。回収役達の持ち帰った情報は既に広まっているのだろうし。


 だがそれでも気付ける者は居る筈だ。飲み込む時は討伐証明部位だとか関係なく丸ごと飲み込んでもらったが、納品する時はそこからアウルムが器用に一部だけ切り取って吐き出してくれたのだ。しかもそれをギルドで見せている。素材を納品する窓口はあまり人目につくような場所でもない裏口だからどういう風に伝わるかはわからないけど、丸々残っている可能性に気付いている者も皆無というわけではないのだろう。回収役達とギルドでの目撃証言を合わせて考えれば容易く答えに辿り着ける筈だ。


 容量とかまで考えだすと混乱するかもだけど。そこまで含めて我々がどれだけ溜め込んでいるのか想像が難しいところでもあるかもだ。この情報は後の駆け引きの材料になりそうだな。迂闊に明かさないよう気を付けねば。



 あと義姉上、まだ話していない事があったのだな。あの状況で手札を伏せたままにしておくとは。いったいどういう腹づもりなんだか。私達が素材を禄に納品していないことは知っていただろうに。


 単にあの時点で言っても仕方がなかったってところかな。既に消化されているなら吐き出せと言ったところでどうにもならんのだし。義姉上視点だと情報が不十分だったのもあるのかも。ならば先ずは乱獲をやめさせるのが最優先だったのだろう。手札が揃いきらずとも仕掛けなければならない程の事態でもあったのだろう。それに下手にギルドが困ってる事を伝えては、私達が逆にやる気を出すとでも思ったのかもしれん。その辺を考えれば別に義姉上が伝えてくる意味も無いわけか。



「やりすぎたわね」


「やりすぎましたね」


「ヤリスギデェ~スネ」


「ごめんね。ボクが気付いてれば……」


「いや、ファムのせいではない。そもそもファムを討伐に参加させなかったのは私の判断だ。もっと普段から相談しておくべきだった。すまんな。今更こんな事に巻き込んで」


「もう。クーちゃんたら。そんな水臭いこと言わないでよ。ボクもクーちゃんの眷属なんだから何時でも頼ってよね♪」


「……」


 パティ、そんな目で見ないでおくれ。お主も賛成してくれたではないか……。



「どうしたものか。いっそこのまま成り行きに任せて喧嘩別れでもしてみるか? 我々ならギルドを通さずとも食っていけるぞ?」


「そんなことしたら喧嘩別れじゃ済まないわ。しかも敵に回るのはギルドだけじゃないわよ」


「そもそも買い取ってくれるところがあるかな?」


「ギルドや国に睨まれてまでとなると難しいですね。当然無くはないでしょうが、そっちに手を出せば我らも晴れて裏ギルドの仲間入りですね」


「私の国に来マ~スカ? トッテモ良イトコロデェ~ス♪ ハニィも絶対気に入リマ~ス♪」


「亡命は気が早かろう。後一年は王都で暮らさねばならんのだ。それにここで逃げ出せば全ての責任がお父上に向かってしまうのだったな。やはり私達でこの事態を収めよう」


「ギルドと仲直りするってこと?」


「素材はその為の交渉材料ですね」


「足元見テ吹ッカケテヤリマショ~ウ♪」


「向こうの謝罪を引き出しつつ、回収役や諸々の補填にも充てられる程度の利益は確保させてあげないとだね」


 けど難しいなぁ。うちに商売の専門家はいないしなぁ。



「ファムは自信あるか?」


「ごめん……むり……」


「気にするな。私も自信無いし」


 魔物素材の市場価値とか知らないし。それだけじゃなくて怒れるギルド相手に交渉も出来ないといけないのだ。それも私達が勝利する形でだ。中々の大役だな。流石の我らが天才無欠才女パティでも難しかろう。


 その辺姉さんはどない?


『私がカンペを? 無茶言わないでください。折角ギンカが頼ってくれたのに応えられず申し訳ないとは思いますが』


 いや、無茶を言ってすまんな。


 でもどうしたものか。どうにかして事態の収拾を図れぬものだろうか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ