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04-02.似た者同士

「そもそも貴方達の戦術は行き過ぎなのよ。恐れるのは魔物だけじゃないわ。この国がいくら強き者を尊ぶとは言え、やり過ぎれば排斥されることだってありえるのよ」


 だいぶ調子を取り戻してきたようだ。それにどうやら心配してくれているのは本当らしい。妙な策を弄さず最初からそう言ってくれればまた変わっていただろうに。



「誰でも思いつくことだろう? 竜に乗ってその背から魔術の雨を降らせる。私達以外のドラゴンライダーだって存在するのではないか?」


「皆無とまでは言わないわ。けれど従えられるのは知能の低いワイバーン程度よ。あんな巨大な飛竜と心を通わせた上で好き勝手乗りこなすだなんて御伽話の類よ。それに人間には妖精族のような魔力だって無いの。どう考えても火力が足りないわ。ワイバーンを育てあげるコストに見合わないのよ」


 そもそも高位の魔術師なら普通に飛べるしな。反して火薬の類はあまり発展していないようだ。手頃な爆弾とかは存在しないらしい。


 それでも貴重な魔術師ではない一般兵を偵察役に出来るなら十分価値はありそうだけど。それに魔術師を乗せる場合だって魔力の節約が出来る。


 後は高度な飛行魔術を習得出来る魔術師とワイバーンの育成にどの程度の差があるのかだな。ある程度技術として確立出来るならワイバーンの方が手頃な気はする。



「この場合重要なのは予め想定できたかどうかだ。我々がこう動く事を分かっていてお主らは放っておいたのだろう。そちらから焚き付けておいて用事が済んだから大人しくしていろなどとよく言えたものだな」


「ごめんなさい。そこは正直見誤っていたわ。本当に飛竜まで従えるとは思っていなかったし、貴方達があそこまで徹底的に魔物を狩り尽くそうとするとも思っていなかった。依頼が無くなれば自主的なパトロールまでしちゃうんですもの。どうかそれだけでもやめてくれないかしら? 先にも言った通り近辺の動物が皆逃げ出してしまうわ」


「ならば狩り場を移そう。王都から少しだけ離れた地を標的としよう。問題は無いぞ。既に近場の大型は狩り尽くしているしな」


「その土地の村々が困窮する事になるわ。貴方達は大型を狩るだけのつもりでも、その周囲の小動物達まで吹きちらしてしまうんですもの。それが王都から離れた地もとなれば支援も行き渡らなくなるわ。範囲を広げられるのも困るのよ」


「だが大型が消えればいずれ小動物達も戻ってこよう」


「それはいつ? 何ヶ月後? 何年後なのかしら? それまで小さな村に住む貧しい民達が生きていられると思うの? 無計画に狩り尽くせばしっぺ返しを食らうのは力無き民なのよ? 貴方達さえ良ければどうでもいいの? ギルドが何の為に制限を設けていると思っているの? 過剰に生態系を乱せば土地ごと枯れるのよ? せめてルールは守りなさい。貴方も今この国に住む限りは妖精王としてではなく人として生きているつもりなのでしょう? だからそうやって人に取り憑くのでしょう? もう少しだけ人間の事も考えて頂戴。私達は貴方のような力ある存在とは違うの。妖精王や飛竜が本気を出せば容易く蹴散らされてしまうの。ですからどうか、我々に慈悲をお恵みください。妖精王陛下」


「馬鹿者が。その力ある存在を好き勝手利用しようとしたのはお前達だろうが。やり返されたら弱者のフリか? 散々私達を見下しておいてそれが通ると本気で思っているのか? 民が困窮するのはお前達の責任だ。手を出すべきではない相手に手を出したのだ。償いはお前達でしろ。その一環として私に頭を下げるつもりがあるなら態度を改めろ。この期に及んでよく説教紛いの説得が出来たものだな。自分には立場があると傲っているのではないか? そもそもお前はこの国の地位としてもパティやレティより下であろうが。パティが姉と慕ってくれるからと勘違いしていないか? パティはお前の叔母にあたるのだぞ? それとも二人が王位を放棄したから見下しているのか? お前は父親の王位継承に拘っているものな。王に対してよっぽど強い思い入れがあるらしいな。それを蹴った二人に対して内心蔑んですらいたのやもしれんな。だからそんな馬鹿げた態度が取れるのだろう。お前の方こそ立場を弁えよ。妖精王の伴侶をそしると言うなら相応の報いを受けるのだと覚悟するがいい」


「……」


 あかん。流石に言い過ぎた。少しばかり頭に血が上ってしまった。ジェシー王女が本気でパティを心配しているのはわかっているのに。それに彼女の言い分も理解出来ないわけじゃない。私達はやり過ぎた。その考えもまた正しいものだ。


 文明レベルを無視して戦闘機どころか空中空母らしきものまで持ち出してしまったのだ。やり過ぎだと泣き付きたくなるのも当然だ。そこまで想定しきれなかったと言うのも決してあり得ない話じゃない。


 それにジェシー王女の立場でヘコヘコ頭を下げるわけにいかないのも理解している。パティ達のことまで引き合いに出したのは完全にやりすぎだった。私もここで引くわけにはいかぬが、もう少し言葉には気を遣うべきだった。



「仰る通りです。全ては私の責任です。敗北を認めます。慈悲深き妖精王陛下。どうか償いの機会をお与えください」


 ……まずい。これは諦めだ。たった今ジェシー王女は私とはわかりあえぬと結論付けてしまった。完全にやり過ぎだ。



「すまない。言い過ぎた」


「いいえ。全て真実でございます」


「違う。貴殿はパティを見下してなどおらん。慈しんでいるだけだ。心配しているだけだ。本当に申し訳ない。失言を心より謝罪する。だからどうか線を引かないでおくれ。私は貴殿を義姉と思いたいのだ。此度の問題がどう決着しようと我々の関係性は友好的なものであってほしい」


「……ありがとう。エリクさん」


「良かった。こちらこそだ。ジェセニア殿」


 良かった。本当に。完全に決別すればパティが悲しむ事になっただろう。



「あら? 義姉とは呼んでくださらないの?」


「失礼、ジェセニア義姉さん」


「ふふ♪ 妖精王陛下からそう呼んで頂けるのは光栄ね♪」


 なんか軽いなぁ……。もしかして嵌められた?



「あら? 早くもお疑いですね?」


「気の所為だ。それより話を進めよう。このままではパティ達の方が先に戻ってきてしまう。如何に面の皮の厚い義姉上とて今ばかりは顔を合わせづらかろう?」


「シクシク。折角出来たばかりの義妹にまで嫌われてしまっているようですね。やはり先程のお言葉もパティの為でしかなかったのですね」


「一々話し方を変えるな。お主が嫌われる理由は単純に性格が悪いからだな」


「……随分と酷いことを言うじゃない」


「良かったではないか。理由がわかったぞ。後は改善するだけだ。私も微力ながら力を貸してやろう」


「あらあら。ふふ♪ 妖精王陛下のお力を貸して頂けるなら怖いもの無しですわ♪ おほほほ♪」


 なんだかなぁ。



「話を戻そう」


「ええそうね」


「私は譲らんぞ。今後も利用され続けるのは御免だからな」


「承知しているわ。けれど私が王女として喧伝するわけにはいかないの」


「そこまでしろとは言っとらん。こちらもこれ以上王家と事を構えるつもりは無い」


「ならどのような落とし所をお望みで?」


「自分で考えろ。謝罪するのはあくまでお前達だ」


「本当にそれでいいの? 私の事は信用できないのでしょう?」


「最後のチャンスだ。そこで我々の機嫌を損ねればそこまでだ。次はパティも許しはしないだろう」


「……酷いのね。力を貸してくれるって言ったのに」


「家族としては付き合おう。だが派閥としては敵対関係だ。そう考えればわかりやすいだろう?」


「間違いなく疎遠になるわよ」


「嫌なら努力しろ。パティに相応しい姉君であっておくれ」


「ごもっとも。じゃあ今日のところは帰るわね。見送りは結構よ」


「本当に良いのか?」


「あら♪ お姉ちゃんとのお別れが名残惜しいのかしら♪」


「勿論見送りの事ではない。話しが拗れた時の為の代案も用意してあるのだろう?」


「冷静に返さないでよ。可愛くない人ね。そんな貴方を満足させるには用意してきた手札だけでは足りないわ。引き際は大切よ。貴方達はまだ理解出来ていないようだけどね」


「その忠告は素直に受け入れよう。安心しろ。この週末の間は大人しくしてやる。少しばかり働きすぎたからな。休息も必要だ」


「全然素直じゃないじゃない。心配だわ。こんな人に私の可愛い妹を預けなくちゃいけないなんて」


「その心配はこの先も姉で居続けられると決まってからにするべきだな。いくら私達がそう望んでいても話しが拗れれば疎遠になる。そこは義姉上の想像通りだろうさ」


「……性格が悪いのはどちらかしら」


「ならばお互い様だ」


「……ふふ♪ そうかもね♪」

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