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03-68.竜の友達

 昨晩のようにソラに朝食を食べさせた後、今度はファムが部屋を訪れた。また服を脱ぎたいと不満を零していたところだったので助かった。どうやらソラは私と二人きりの時以外は我儘を言う余裕も無いらしい。



「おはよ♪ ソラ君♪」


『……』


 ソラは私に隠れながらもどうにか頷いてみせた。相変わらず黙りだが、ファム相手なら少しは反応を示してくれた。



「そうだ。ソラ。ファムに撫でてもらうのはどうだ? 竜の時と同じくファムの方が上手いかもしらんぞ?」


『…………』


 ソラはたっぷりと悩んでからファムの方へ手を伸ばした。



「ふふ♪」


 ファムは何時ものように燥いだりせず、静かにファムの手を握って隣のベットに腰掛けた。


 ファムに導かれてソラがその隣に腰掛ける。まだ少し距離はあるが、それでもソラが私の下から離れてファムの方へと近付いてくれた。



『……』


 と思いきや、早くこっちに座れと視線で催促してきた。私とファムでソラを挟んでベットに腰掛け、私に寄りかかったソラをファムが少しずつ撫でていく。



『……』


 段々とソラの身体から警戒心が抜けていく。ファムの調教術に落ちかけているようだ。なんならこのまま寝落ちするかもしれない。それくらいリラックスし始めている。



「♪」


 ファムはそんなソラの姿を見て嬉しそうにしつつも、やはり言葉は発さずに、ただソラを落ち着かせることだけに集中して撫で続けた。




----------------------




「!?」


「目が覚めた?」


「!?!!」


「大丈夫。落ち着いて」


『主様!?』


「クーちゃんは今ギルドから来た人の応対をしているの。もうすぐ戻って来るからね。それまでボクが側にいるからね」


『……ファム?』


「そうだよ。ボクだよ。ファムだよ。わぁっと! ふふ♪ 大丈夫。安心して。何も怖いことなんてないんだよ」


 ソラ君が勢いよく抱きついてきた。この子はまだ怯えている。人の身体が心細いのかもしれない。今のソラ君には強靭な鱗や爪も無い。けれど竜の姿に戻るつもりも無いようだ。きっとクーちゃんと一緒に居たいのだろう。



「ソラ君もクーちゃんのことが大好きなんだね」


『……』


「ボクも大好き♪ クーちゃん優しいもんね♪」


『……ダメ』


「だめ?」


『……主様、我の主様』


「ふふ♪ そっかぁ♪ そんなにかぁ♪」


『……なんで?』


「喜んでるのかって? ふふ♪ なんでだろうね~♪」


『……』


「大丈夫だよ。焦らなくても」


 ゆっくりとソラ君を撫でる。刺激しないよう、ボクの心が伝わるよう、丁寧に撫でていく。



『……ファムも好き』


「ありがと♪ とっても嬉しい♪ ボクもソラ君大好き♪」


『……主様と違う?』


「う~んと、そうだね。ボクがソラ君とクーちゃんに向けている好きって感情は別のものだ」


『……』


「クーちゃんが言ってたの?」


『……うん』


「そっかぁ~。ふふ。クーちゃんも酷い人だねぇ」


『……むぅ』


「あはは。ごめんごめん。クーちゃんは優しい人だよね♪」


『……うん』


「そっかそっか♪ ふふ♪」


『……へん』


「ボクが?」


『……我が』


「どんな風に?」


『……』


「わかんないかぁ」


『……うん』


「大丈夫だよ。焦らなくて良いんだよ」


『……主様も』


「同じ事言ってた?」


『……うん』


「きっとね。ソラ君は頭が良いから。いっぱい考えちゃうんだろうね。けど知らないことはどれだけ考えても知らないまんまなんだよ」


『……』


「だから試してみるの。ボクは何時もそうしてる」


『……』


「試してみれば知れるから。そうしたら怖いものなんて無くなるんだから」


『……なにすればいい?』


「う~んと。そうだなぁ~。怖いことをいきなり試すのは難しいよね~。ソラ君の場合は~。そうだ! クーちゃんにいっぱい気持ちを伝えてみるのはどうかな? さっきボクに言ってくれたみたいに好きって言うだけなら簡単でしょ? それでクーちゃんの反応をよく観察するの♪ それに自分の心もね♪ きっとソラ君なら何か見えてくるんじゃないかな♪」


『……他には?』


「他には? ギュッてしたりとか、チュってしたりとか?」


『もうした』


「あ、そうだね。ずっと抱きついてるもんね。……え? まさかもう一つも?」


『うん。いっぱい』


「い、っぱい?」


『たくさん』


「……クーちゃんめぇ」


『……怒った?』


「うん。怒ってる。クーちゃんは皆のだから。ソラ君もあんまり独り占めしたらダメだよ。今だけ特別だからね」


『……』


「ふふ♪ 大丈夫♪ 少し怒ったくらいで嫌いになったりしないよ♪」


『……なんで?』


「う~ん。そんなんじゃやってられないからって言うのが本音だけど、ソラ君が知りたいのってそういうことじゃないよね~。えっとぉ……。うん。これだ。ボクがクーちゃんとソラ君のこと大好きだからだよ♪ 大好きがいっぱいあれば少しの嫌いなんてへっちゃらなの♪ だからボク達は毎日大好きを積み重ねるの♪ 少し嫌いになっても大好きなままでいられるようにね♪ ソラ君もそうしたら良いと思うよ♪」


『……よくわかんない』


「簡単なことだよ♪ さっきも言ったでしょ♪ 好きって言葉にして伝えてみて♪ そうすれば自然と相手を好きになれるから♪」


『……伝えてからなるの?』


「うん♪ 好きになりたいって気持ちがあればもうそれだけで良いんだよ♪ バンバン好きって言っていこう♪ そうしたらきっと毎日が楽しくなるよ♪」


『…………よくわかんない』


「ソラ君もおバカになっちゃおうってこと♪ さあソラ君も後に続いて♪ ボクはソラ君大好き♪」


『……ファム……好き』


「ふふ♪ その調子♪ 好き好き♪ ソラ君♪」


『……好き……なんかやだこれ』


「恥ずかしがらないで♪ もういっちょ♪ 好きだよ♪ ソラ君♪」


『……もうやめて』


「まだまだ♪ そこを乗り越えてこそだよ♪ ソラ君大好」


「おい、よせ。何バカをやっておるのだ。嫌がってるだろうが」


『主様ぁ!!』


「あ、クーちゃん。おかえり。話はどうだった?」


「急に素に戻るな。なんだその温度差は」


「言わせないでよ。恥ずかしかったに決まってるじゃん。それでもソラ君の為にって頑張ってたのに」


「無理やり絡んでいるようにしか見えんかったぞ?」


「あ~! そういうこと言う!?」


「いや、まあ、うむ。すまん。ファムなりにソラを焚き付けてくれていたのだよな。うん。なんとなくわかってはいるんだ」


「というかどっから聞いてたの?」


「まあ気にするな。それよりギルドとの話だったな」


「もう。クーちゃんの意地悪。でも好き♪」


「私もだ。それでだな」


「その前にちゃんと言って」


「……好きだぞ。ファム」


「えへへ~♪」


「ごほん。えっと、ん? なんだ?」


『……主様……好き』


「……う、うむ。ありがとうソラ。嬉しいぞ」


「クーちゃん!」


「……えっとだな。私も好きだ。ソラ。……こういうのは強制されるとかえって恥ずかしいものだな」


「何時もならすんなり出てくるのにね♪」


「全部ファムのせいだろうが」


「せいって言った!? そういうこと言う!? ボクのお陰でしょ!?」


「ああそうだな。全部ファムのお陰だ。ついでにユーシャの説得も任せるぞ」


「ユーちゃんのことナマハゲかなんかだと思ってない?」


「ナマハゲあるのか? こっちにも?」


「こっちって? この国にってこと? クーちゃん極東の島国に行ったことがあるの?」


「……いや、なんでもない。それよりいい加減話を戻そう」


「別にいいけどさ。それで?」


「ソラは竜王の娘で間違いないだろうとのことだ。今代の竜王と特徴が一致しているらしい」


「へぇ。ギルドってそんなことまで把握してるんだね」


「そもそも竜王なんてものが本当にいたとは驚きだ」


「実際竜の国があるらしいよ。ごく一部の人の国とも国交があるみたい」


「え? 本当か? ギルドからそんな話は聞いていないぞ? マズいな。一度ソラを連れて行くべきだろうか」


『!? 嫌! 絶対嫌! 主様と一緒にいる!』


「落ち着け。だからマズいと言ったのだ。私もソラを返すつもりはない。だが後から妙な形で知られて難癖を付けられても困る。正式にソラを貰い受ける為にこちらから先手を打つべきではと考えただけだ」


「心配は要らないよ。竜の国があるとされてる場所ってここからすっごく遠い地域だもん。大陸の反対側だよ。歩くなら年単位だよ。飛んだって結構な時間が掛かる場所だよ。逆に言うなら噂が届くとしても数年後だよ。だから気にしなくて大丈夫だよ」


「そうか。それは何よりだ」


『……』


 ソラ君はまたクーちゃんに張り付いてしまった。これは振り出しに戻っちゃったかな? でもきっと大丈夫だよね。クーちゃんならなんとかしてくれるよ。絶対。



「お姫様ってことはネームド扱いにはならなかったんだね」


「うむ。要するにそういうことらしい。プレートも無しだ。ギルドは大々的に公表するつもりのようだ。絶対手を出すなよと。仮に姫様を傷つければ竜の国から竜の軍隊が襲ってくぞと。大体そんな感じに誇張して話を広めるつもりらしい」


 勝手に姫を名乗るのもそれはそれで危険そうだけど。どうせいざとなったら責任は全部クーちゃんに押し付けるつもりなんだろう。それにギルド的にはもしもの時の為の抑止力が欲しいのかも。竜王と妖精王をぶつけ合う気かな? 妙なことに巻き込まれないといいけれど。



「そっか。なら思っているより早く噂も届くかもね」


「そうだな。ディアナが卒業したら皆で行くとしようか」


 その時はティナとリリィちゃんはお留守番かな? 学園もあるからね。あまり長いこと休ませられないだろうし。父様がきっと心配しちゃうから。



「それまでにうんと強くならないとね」


「うむ。必ずソラを守り抜こう」


『……』


「大丈夫だ。心配は要らん」


 ソラ君はクーちゃんに頭を撫でられて嬉しそうだ。


 ふふ♪ これはボクも負けてられないなぁ♪

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