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01-21.依頼の真相

「ユーシャ?

 これはどういう事ですか?」


 兵士の詰め所にある留置場で待っていると、何故かメイド長が現れた。


 当主様に会わせる前に確認でもしに来たのだろうか。

この様子だと、ここに来るまで捕まったのがユーシャとは知らなかったようだが。


 まあ、捕まったとはいえ別に拘束されてるわけでもないんだけど。

単に直接領主の下までは連れていけないから、確認作業の為の一時的な措置だ。

ハッタリが効いたお陰もあってか、特に酷い扱いを受ける事も無かった。



「お初にお目にかかります。私はエリクと申します。

 ユーシャは私の問題に巻き込まれたのです。

 あなたもユーシャのお知り合いのようですね。

 失礼ですが、どのようなご関係でしょう?」


「……あなたの声には聞き覚えがあります」


「!?」


 ツボを落とした時か!?



「おかしな話ですね。

 私は以前、この屋敷で務めていたユーシャの側であなたの声を聞いたのです」


 ヤバい!既に確信している!?



「あなたは領主様に会いにいらしたのですよね?

 何故今更そのような虚言を?

 既に屋敷内には忍び込んだ事があったのでしょう?」


「……なんのお話なのか、私にはさっぱりです」


「ご心配なく。

 この件であなたを咎めるつもりはありません。

 私は既に二度も見逃していますから。

 今更報告も上げられません」


 二度?

何の話だ?



「……あなた個人に何か目的が?」


 私にさせたい事でもあるのか?

やはりこれは脅迫のつもりか?



「察しが良くて助かります。

 少し二人で話をしましょう」


「お断りします。

 私はこの子の側を離れるつもりはありません」


「あなたこそ、ユーシャとはどのような関係なのですか?」


「家族です」


「……ご家族の安全は保証します。

 これから先何年でも。

 我が命を賭してお守り致します」


「何を言っているんです?」


「どうかお嬢様をお救い下さい。

 あなたにはその力があるのでしょう?」


 な!?

まさか!あの話を聞いていたのか!?

けどそれは……。



「……残念ですがご期待には添えません。

 私の力では足りないのです」


 今ならわかる。

例え私を飲み干したとしても、ディアナが助かるとは思えない。エリクサーに体力値を上げるような効果は存在しない。

病に蝕まれきったディアナの体を癒やすには、もはやエリクサー程度では足りないのだ。



「惜しくなったのですか?」


 そんなはずはない。

もしそれで本当に私の娘が幸せに暮らせるなら、いくらでもこの身を差し出そう。誰と何を話そうと、私が何を知ろうとも、その決断だけは覆り得ない。



「違う。そうではない。

 どうか力を貸して欲しい。

 真にあの少女を救うために。

 今の私には力が足りぬ。

 あれはとんだ思い上がりだった。

 貴殿らの心を弄ぶつもりもない。

 一度放った言葉の責任は果たすつもりだ。

 何より我が娘の幸せの為に死なせるわけにはいかない。

 私が必ず彼女を救ってみせる。

 だからどうか、話しを聞いてくれ」


「他に当てがあるのですか?」


「いや、まだ無い。

 だがそのヒントは見つけた。

 聖女の話しに聞き覚えは?」


「……どこでそれを?」


「本だ。町の図書館だ。

 ユーシャと共に調べたのだ」


「我々はユーシャこそが、その聖女ではないかと考えていたのです」


 ユーシャが?

いったい何故?



「根拠があるのか?」


「魔力量です」


 魔力量?

可視化出来る者でもいるのか?



「……なるほどな。

 だがすまない。それは勘違いだ。

 魔力を持つのは私だ。

 常に私が側に居たから誤解させてしまったのだろう」


「そのようですね」


「私が代わりを務めよう。

 そちらの集めた情報を共有してほしい。

 可能であれば魔術の師もだ。

 私ならば使える魔術もあるやもしれん」


「……」


「疑っているのか?

 ディアナへの想いに付け込んでいるとでも?」


「いいえ。ユーシャはそのような者ではありません。

 ですからあなたの言葉も信じられます。

 ですが……あなた方は聖女について誤解されているようです」


 誤解も何も、まだ何もわかってはいないのだが。



「聖女とはただ膨大な魔力を持つだけの存在ではありません。

 聖女の魔術は一つの奇跡です。魔力こそ使用していますが、結果は既存の魔術とは別物なのです。ですからどれだけ書物を漁ろうとも、聖女の魔術を再現する事は叶わぬのです」


「……そうか。

 それでユーシャに話を持ちかけなかったのか」


「はい。最初は自然と力に目覚める事を期待していました」


 最初は、か。それがあの依頼の真相だったのだろう。

仮にユーシャが聖女であったとしても、力に目覚めなければ意味がない。

何も言わなかったのは、ユーシャが気に病まないようにしたかったのだろう。

責任を感じて自分を責めないようにと気遣ってくれたのだろう。

本当に。どこまでもお人好しなのだな。


 しかしそれも私の愚かな行いのせいで、台無しになってしまった。

私が一人でディアナの下を訪れた際、メイド長は気が付いたのだろう。

魔力を持つのがユーシャではなく、薬瓶わたしなのだと。


 メイド長自身も魔力の可視化が出来るのだろう。

やはり只者ではなかったようだ。


 まさか……あの襲撃者は……。


 いや、今は問うまい。

メイド長がそうであるなら、理由にも得心がいった。

むしろこの者だからこそ、私を狙う理由もあったのだ。

私こそがこの者を追い詰めた元凶なのだ。

ならば今更蒸し返す事もない。

我々は手を取り合えるはずだ。



「だがまだだ。

 まだ諦めはするまいな」


「ええ。勿論です。

 場所を変えましょう」

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