03-63.ドラゴンの悩み事
「終わりました」
ナタリアさん率いるギルドの職員達がソラの鑑定を終えたようだ。はてさていったいソラは何という種と判断されたのやら。
「現段階では断言出来ません」
どうやら持ち帰って会議する事になったようだ。やはり専門家達の目から見てもソラは特殊な個体らしい。
「登録の方は問題ありません。ポチさんとアウルムさんの方も進めさせて頂きます」
それは何より。
「ぴぃ?」
「お前は必要無いぞ。魔物ではないからな」
「ぴ~」
ピーちゃんも登録してほしかったのかな? でもピーちゃんサイズのプレートは無いんじゃない? ただでさえ手の平サイズの小鳥ちゃんなんだし。
「ふふ♪ 可愛らしいご家族ですね♪」
「まあな。……気にするな。この子はただの小鳥だ」
よく考えたらピーちゃんの存在こそ最も警戒されかねんよな。スパイ要因としては最適だ。蜘蛛達でも運ばせれば何処にだって忍び込ませられるだろう。下手に見せるべきじゃなかったな。
「そういうことにしておきましょう。では私達はこれで」
「うむ。結果が出たら教えておくれ」
「はい。また明日にでも伺います」
「早いな。そんなにすぐ結果が出るのか?」
「ええ。お待たせすることは無いでしょう」
まあ、分からないなら分からないなりの登録をすれば良いだけなのだろう。特殊個体ってそういう定義でもあるんだろうし。
それからギルド職員が帰って行くのを見送ってから、今度はファムとソラと共に散歩に出ることになった。
『我お腹空いてないんだけど……』
『サービスしておきました♪』
ネル姉さん? 何やったの?
『別におかしな事はしてません。力を多めにあげているだけです。消化器官とかはそのままなので食べようと思えば普通に食べられますよ。あくまで必要な栄養が既に賄われているだけですから』
どう伝えたものだろう……。
ソラってそういうの嫌がりそうなんだよなぁ。
それにネル姉さんの存在については言及出来ない約束だし……。それはたぶん存在を知ってるソラが相手でも例外は無いのだろう。そもそもソラの件と私の守護霊と化している件は別問題だし。
「ソラ。……すまん」
『なにが!? 急に謝られたら怖いんだけど!?』
「察しておくれ」
『うっそでしょ!? まさか我まで主様みたいな化け物になっちゃったの!?』
ドラゴンに化け物呼ばわりされる日が来ようとは。
「ねえ、クーちゃん」
「話せんぞ」
「そうじゃなくて。ボクが席を外せばソラ君に話せるの?」
どない?
『う~ん……アウト♪』
「無理だ」
「そっかぁ……」
『シクシク……酷いよぉ……あんまりだよぉ……』
本気か冗談か分かりづらいな。
「まあそう落ち込むな。普通に食べる事も出来るのだ」
『それって食べたら太るってことでしょ?』
『当ったり~♪』
「うむ。必要無い栄養だからな。全て脂肪に変わるだろう」
『あんまりだぁ~!!』
ソラもそういうこと気にするんだ。意外だなぁ。
「大丈夫だよ! ソラ君! 一緒にいっぱい運動しよう! 食べた分消費すれば良いだけだから!」
ファムは良い事言うなぁ。
『無意味ですけどね。消費した分は自動的に流れ込む力も増えますし』
もうちょい手心加えてあげて……。
『無茶言わないでください。今更術式の変更なんて出来ません』
私のネル姉さんに不可能なんて無いでしょ?
『良いでしょう! ギンカがそこまで望むなら叶えて差し上げます! お姉ちゃんに任せてください!』
流石お姉ちゃん! ひゅ~ひゅ~♪ 愛してる~♪
『クックック! 我が叡智の一端をお見せしましょう!』
ネル姉さんが「えいやっ」と唱えると、ソラの巨体が強烈な光りに包まれた。
『「「!?」」』
光は段々と小さくなっていき、ファムと同じ位の小柄な人型を形作っていく。
『「「!?!?!?!?」」』
光が晴れた場所に現れたのは一人の少女だった。
『……』
無言で私を睨む少女。
「ああ、なるほど。このサイズならいくら食っても微々たるものだものな」
『正解です♪ それとご安心を♪ 何時でも元の姿に戻してあげます♪』
毎回姉さんの手を煩わせちゃうの?
『仕方ありませんね。ソラに変身能力を授けてあげます』
流石姉さん。愛してる~。
『えへへ~♪ も~♪ しょうがないですね~♪』
『ちょっと!? 主様!? 次から次へと何してくれてんの!? もうやめてよ! 我のこと勝手に弄らないでよ!』
涙目の少女が縋り付いてきた。
「人化の術を授けてくれたようだ。自分で元にも戻れるだろう? 食事の時だけ人の姿に変わるといい。それ以外は好きに過ごせ」
ソラを抱き寄せて耳元で囁く。姉さんも一度だけ見逃しておくれ。
『仕方ありません。今回だけはセーフとしておきましょう。特例で』
ありがとう。姉さん。
『……』
「どうした? 難しそうか?」
「……ひっぐ」
あらら。
遂に諸々の恐怖やら何やらが限界を迎えたらしい。私に縋り付いたまま泣き出したドラゴン少女。
「えっぐ……ひっぐ……ぐすっ……」
しかもなんか泣き方が下手だ。人間の身体に慣れていないせいだろうか。
「大丈夫だ。落ち着けソラ。よしよし。良い子だ」
それから暫くの間ソラを抱きしめて頭を撫で続けた。




