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03-61.自覚と両立

 それにしても随分と家族も増えたものだな。


『現在学生は五人ですね』


 ネル姉さん詳しいな。


 パティ、ユーシャ、シルビア、マーちゃん、リリィだな。ユーシャは一応付き添いのメイドだけど。


『リリィとはヴァレリアさんのことですよね?』


 うむ。他にもリアと呼ぶ者もおるな。


 そしてマルティナはティナ、マーちゃん等とも呼ばれておる。年少組は渾名が多いな。


『マーちゃんと呼んでいるのはギンカだけでは?』


 ティナの方が呼びやすいからな。私も変えようかな?


『やめてあげてください。きっと泣いちゃいます』


 まあ、うん。今更変えないけどさ。


 ところでネル姉さんはヴァレリアよりマーちゃんのことの方が詳しいのか?


『ご想像の通りギンカを中心とした出来事しか観測していませんので。ちなみにこれも掘り下げは禁止です』


 うむ。なんとなく慣れてきたな。


『流石は妹ちゃんです♪』


 もうなんでも褒めてくれそう。私のお姉ちゃんは甘やかし系だ。


『私の!?』


 そっか。表層というか、イメージした言葉を優先して読み取るからそういう取り違えも起こり得るのか。


 ……言う程取り違えるか?


『えへへ~♪ もぉ~ギンカったら~♪ ダメですよ~♪ お姉ちゃんには既に主様がいるんですから~♪ でも~♪ ギンカがどうしてもって言うなら~♪ 考えなくもないかもな~なんて~♪ きゃっ♪』


 え? ネル姉さんとめが、ごほん。主様ってそういう関係だったの?


『そういう? ……って!! 違いますよ! 誤解しないでください! 姉さんは純潔です!! まだ生娘ですぅ!!』


 ふむふむ。私がイメージして姉さんが読み取ろうとすれば言葉として固めなくとも伝わると。そう言えば本の内容も伝わっていたものな。便利だなこれは。


『ちょっとギンカ!? 聞いているんですか!?』


 ああ、すまん。勘違いだったようだな。謝罪する。


『なんですかこの温度差!? 恥ずかしいじゃないですかぁ!!』


 すまんすまん。先程姉さんが口走ったことは忘れよう。


『そういう気遣いが逆に辱めてるって言うんです!!』


 そうか。笑い飛ばすのが正解だったか。


『まだ辱め足りないんですかぁ!?』


 あかん。もうこの件は何考えても姉さんがパニクりそう。早く他のこと考えないと。


『そうしてください!!』


 ああそうだ。ネル姉さんに一つ聞いておきたい。


『って! 全然変えてないじゃないですかぁ!』


 でも知りたいじゃないか。もし私がネル姉さんの所有権を現主から奪えるなら、姉さんだって何時でも気軽にユーシャとも会えるのだぞ? 方法があるなら聞かせておくれ。


『手が早すぎです! そんなんだからあっという間に家族が増えていくんじゃないですかぁ!』


 姉さんに言われるのはなんか納得いかない。


『ちょっと生意気ですよ! 妹としてちゃんと姉を慕ってください!』


 勿論慕っているとも。だから姉さんが欲しいと言っているんじゃないか。


『なっ!?』


 それで? 方法はあるのか?


『……!!』


 ネル姉さん?


『無くはないです!! けど教えません!!』


 そうか残念だな。ならばもう少し好感度を稼ぐとしよう。


『もうもうもう! ギンカはやっぱり危険です! そんなことばっかしてたら回収しちゃうんですからね!』


 姉さんが私の所有者となるのか。それも面白そうだな。だがその時はユーシャ達のことも頼むぞ。


『またからかってぇ!!』


 そんなつもりは無いのだが……。


 ごめんなさい。ネル姉さん。謝るから仲直りしよう。姉さんに嫌われるのはとても心苦しい。姉さんが困るのも嫌だ。もう妙なことは考えないからどうか落ち着いておくれ。


『嫌ってなんていません!! 勘違いしないでください!』


 うむ。それは良かった。ありがとう姉さん。


『くっ! 何だか負けた気がします!! この借りはいずれ必ず返しますからね! 絶対ですよ!』


 よくわからんが心しておこう。


『もう! ギンカはもう!』


 さあ話を戻そうネル姉さん。姉さんは私の家族についてどこまで知っているのだ?


『大体一通りは! ギンカの愛しのディアナちゃんは今も真面目にお勉強中ですね! お姉ちゃんをからかって遊ぶ悪いギンカとは違って!!』


 ディアナはもうじき編入試験だからな。レティとロロが専属家庭教師となって付きっきりで勉強を教えてくれている。何の心配も要らんだろう。


『……ギンカもたまに見てあげてますよね』


 最近は何かと忙しいから付きっきりとはいかんがな。パティも同様だな。パティはそれでもどうにか時間を作って様子を見ているようだ。


『それはギンカもです』


 まあ約束だからな。


 次は専属の二人か。


『話を逸しましたね? これは仕返しのチャンスでは?』


 私の姉さんはそんなことしないさ。


『むぅ。ギンカはズルいです。お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えありません』


 まあまあ。


 それでスノウとミカゲのことだな。まあ二人のことは今更言うまでも無いな。ネル姉さんも見ていたのだろうし。


『そうですね。最近のスノウさんは少し変わりましたね』


 そうだな。私の椅子でいる時間は随分と減ったな。リリィが積極的に絡んでいるのも大きいのだろう。スノウも邪険にしたりはせずよく相手をしてくれているな。姉妹仲が良好なようで何よりだ。


『私達だって負けてられませんよ♪』


 うむ。見せつけられないのが残念なくらいだな。


『むむ? そんなにお姉ちゃんのことが欲しいのですか?』


 正直魅力的だな。(ネル姉さんは知識も力も豊富だし)


『聞こえてますよ。まったく。打算的な妹ですね』


 勿論それだけじゃないさ。姉さんと話すのはこんなにも楽しいのだ。ユーシャ達に紹介出来ないのは勿体ない。


『えへへ~♪ もう♪ またそんな見え透いたお世辞言うんだからぁ♪ そう何度も騙されませんからね♪』


 可愛い。


『かわっ!?』


 いかん。また長引きそう。話を逸らさねば。


『もう♪ なんですかそれ♪』


 良かった。機嫌良い。


『そりゃぁ褒められて悪い気はしませんよ♪ 最愛の妹からなら尚の事です♪』


 なら次から積極的に褒めていこう。姉さんの口も軽くなるかもだし。


『わざとです? わざと距離取ろうとしてます?』


 まさか。ただ姉さんが心配なだけだ。それに姉さんに嘘は付きたくない。だが今はまだ打算的な考えもある。姉さんは私の知りたい多くの事を知っているからな。私は知りたがりだ。例え姉さんを利用する形になろうと聞き出そうとするだろう。精々油断しないでおくれ。致命的な亀裂に繋がるくらいなら厳しく叱っておくれ。頼りにしてるぞ。ネル姉さん。


『そうですね。ギンカは油断ならない妹です』


 うむ。


『けど家族想いの良い子です。流石は私の妹です』


 ありがとう。ネル姉さんにそう言ってもらえて嬉しいぞ。


『……それから人誑しです。ギンカは危険です。私はお姉ちゃんとして目を光らせねばなりません』


 肉体があった方が便利では無いかね?


『その手には乗りません。お姉ちゃんは決してチョロくなどないのです』


 そうだな。どうやっても突き崩せぬ部分があるな。流石は私の姉さんだ。その意思の強さは見習おう。


『……別に意思が強いわけじゃありません。そもそもその意思を持つ事を許されていないだけです。我々は道具です。主様やギンカの秘密を知る者達は別け隔てなく愛してくださいますが、それだけは決して忘れてはなりません』


 ……すまないがその考えには賛同出来ないな。


『無理もありませんね。ギンカは特別ですから。そういう意味でならやはり私の本当の妹はあの子だけなのでしょう』


 そんな寂しい事は言わないでおくれ。


『勿論ギンカの姉を辞めるつもりはありません。こちらもまた真実です。私はギンカの姉です。誰が何と言おうと覆りません』


 そうか。良かった。


『ですが違いを認識してください。それこそギンカが私を手にする唯一の手段です。覚えておいてください。私は道具です。あの子もシュテルもです。いえ、シュテルはまた少し違うかもしれませんが。とにかくあるがままを受け入れてください。それは決して距離を作ることと同義ではありません』


 つまり家族と道具を両立しろと?


『あなたはあの子の母で姉で恋人で所有者です。つまりはそういうことです』


 難しいな。それは。例え努力するだけでも。


『ちなみにギンカにも所有者がいるんですよ?』


 え? ああ、ユーシャのことか。


『違います。道具は道具を所有しません。ギンカだけが特別なのです。道具でもあり人でもある。ですがあの子は違います。所有者にはなれません』


 え? だとすると誰が? 主様?


『いいえ。パティさんです』


 なるほど……。


『これもまた自覚しておいてください。いずれ役立つでしょう』


 まあパティなら嫌ではないけども。普通に嬉しいけども。ただユーシャじゃなかったことが複雑なだけで。


 あとディアナがまた拗ねそうだ。


『勿論今の話も他言無用です。下界の者が知る必要の無い知識ですから』


 なら何故その話を?


『ギンカが言ったんじゃないですか。私が欲しいと』


 ああ。その為に必要なのか。さっきもそう言っていたな。


『あれこれ言いましたが要は仕組みを知ってくださいという話です。ただ生きるだけなら必要の無い知識です。なんなら忘れてくださってもかまいません。ですがもし本気で私を奪い取るつもりならばその仕掛けを見抜いてください。これは宿題です。謎が解けたら晴れて私はギンカのものです』


 うむ。了解した。ふふ♪ 研究のし甲斐がありそうだな♪


『前向きですね♪ それでこそ私のギンカです♪』


 道具は道具を所有しないのではなかったのか?


『良いんです♪ 気持ちだけは別なんです♪ ギンカはもう私のものです♪』


 なるほど。それが両立するということか。うむ。なんとなくわかってきた。ありがとう。ネル姉さん。


『はい♪』


 試しにファムにも意見を聞いてみようか。参考になるかもしれん。


『わかっていますよね?』


 うむ。もちろんだ。先程の話は内緒だな。大丈夫だ。ファムに聞くのは魔物達のことだからな。


『なるほど。ギンカはファムさんが友達と研究材料を両立させているのではないかと考えていましたね』


 うむ。それにポチの認識も気になるのでな。


『興味深い試みだとは思います。ですがそういうのは敢えて言葉にしてしまうと問題もあるものですよ』


 ああ。なるほど。自分の中で線引をしてしまうのか。ファムも言っていたな。私の正体を正確に知ってしまえば今までと同じに見れなくなるかもと。ならやめておくか。聞き方に気をつけるにしても失敗して関係を悪化させても嫌だし。


『何も聞かず見守ってみては?』


 そうだな。ファムの無意識の行動から読み取ってみるとしよう。時間はかかりそうだがそれはそれで面白そうだ。


『やりすぎてトラウマを刺激しないであげてくださいね』


 あ、そうだった。それではまるであの研究者仲間達のような振る舞いだったな。家族と言えど遠慮や礼儀は必要だ。かと言って全く見ていないのもそれはそれで不自然だ。適切な距離感を守るとしよう。


『その意気です♪ めげないギンカも大好きです♪』


 姉さん? 妹から個人としての好意にシフトしてない?


『ふふ♪ 大切なのは自覚と両立ですよ♪』


 なるほど。意図的なのか。姉さんも中々やりおる。


『やられっぱなしではいられませんからね♪』


 ふふ。これは油断できんな。

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