03-60.姉妹水入らず
簡単にソラの様子を確認したナタリアさんはギルドへと帰っていった。今日中に担当者を連れてきてくれるそうだ。
ナタリアさんはあくまで事前のアポ取りと、一先ずの状況確認の為に来ただけのようだ。一応こっちが王族やら貴族やらだから気を遣ったのだろう。ギルド内ならともかく、公爵邸でまでギルド内でのノリを通すわけにもいかんものな。前回はその延長で来ていたから別として。
「ここかな~♪ ここが気持ちいいのかなぁ~♪」
どこからか持ってきたブラシでソラの身体を磨くファム。ソラも気持ち良さそうに身を任せている。
さて私はどうしよう。今はまだあまりソラの近くを離れたくはない。流石に公爵邸に乗り込んでくる身の程知らずはそうそういないとも思うけど、第三王子みたいな面倒な奴らに目をつけられる可能性も無いでもない。
ファムとアウルムでも十分に事足りるとは思うけど、ソラとの約束もあるから側を離れるのは控えるべきだ。今は少しでもソラの信頼を勝ち取りたいものな。
『打算的ですね~♪ そんな妹ちゃんも大好きです♪』
もう何考えても好感度上がるじゃん。
『お姉ちゃんは妹の肯定者ですからね♪』
ちょっとネル姉さんの事が心配になってきた。普段から人と話す機会が無さ過ぎて何かの耐性が致命的に足りていないのかもしれない。
『心配してくれる妹ちゃんもグッドです♪』
いやこれただ単に燥いでるだけか。案外と心配は要らないのかもしれない。いっぱい相手をすればそのうち落ち着くだろう。私でよければいくらでも相手になろう。ネル姉さんには色々世話になったからな。それに私にとっても実の姉だ。理由なんかなくとも親しくするのはやぶさかでもない。
『まぁ! 実によく出来た妹ちゃんですね♪ お姉ちゃん感激です♪ これはまた何かご褒美をあげないとですね♪』
遠慮しておこう。姉を気遣ったからって一々褒美なんぞ貰わぬものだ。ネル姉さんも家族らしい付き合い方を学んでおくれ。
『くっ! なんですこの子!? 私をいったいどうしたいと言うのです!? そんな風に言われたら我慢できなくなっちゃうじゃないですかぁ!』
いずれ降りてこれるといいな。ユーシャとも会えるように願っているぞ。
『無理なんですぅ! 我慢してるんですぅ! これ以上誘惑しないでくださいってばぁ!!』
ああ、そうだな。すまん。ネル姉さん。話を変えよう。これ以上ボロが出ない内に。
『ボロ? ……はっ!?』
考えんぞ私も。ネル姉さんがやめろと言うからな。
『そういうのもダメです! 早く他の事考えてください!』
無茶言うなぁ。えっと……そうだ。ディアナの件だ。今晩の計画を立てねばな。
『素敵な初キッスの為ですね♪ お姉ちゃんも協力しちゃいますよ♪』
まあ、うん。程々に。けどまあ実はあまり心配はしていないのだ。パティとユーシャも巻き込むつもりだからな。パティはともかく今のユーシャならきっと上手く導いてくれるだろう。
『それはお姉ちゃんとして情けなくないです?』
良いのだ。私達は四人でと決めたのだから。ついでに今一度禁止令を出さねばならんからな。あの調子でユーシャが所構わず接吻してくるようになると困るのだ。それにやはり後一年は我慢してもらわねば。お父上にも顔向けできん。
『何と言うか、ギンカは面倒くさいですね』
えぇ……。
『まあでも気持ちはわからないでも無いです。何を隠そう、お姉ちゃんもそれなりに窮屈してますからね』
まあ、うん。それは伝わってきた。
『それはそれとして先ずはディアナと二人きりになるべきでは?』
やっぱり必要かなぁ。
『当然です。我らが末妹が同席しているとお姉ちゃんが見学出来ませんから』
え? そんな理由?
ネル姉さんも難儀してるなぁ。
『そうなんですよ~! 主様にも困ったものです!』
なるほど。女神様が根本原因と。
『ギンカ』
ごめんなさい。
『ダメですからね。余計な事考えたら』
これ実質私にも制約がかかるようになったのでは?
『姉と妹は一蓮托生です♪』
まあ良いけど。
あれ? そういえばユーシャが末妹なの? シュテルは?
『ギンカの姉で私の妹ですね』
え? 聖女が生きてたのってそんなに前だったの?
『ノーコメントです』
え? いや、考えるまい。ネル姉さんが言葉を濁したという事はダメなやつなのだ。話題を変えよう。
『ふふ♪』
そもそもユーシャって見た目通りの年齢なのか?
『ええ。ああなるほど。その書物の内容は随分と古いものですね。恐らく私よりも前でしょう。私やユーシャと同系統のプロトタイプか何かではないでしょうか。言うなれば我らの長姉ですね。今のところ確認されている限りはですが』
そうなの? 流石にそこまで古い書物にも見えなかったけど。それなりに年季は入ってたけどさ。
『そこまではなんとも。ただ主様の手口としてはそれくらい昔だという意味です。知っての通り今の主様は空から放るだけですから』
なるほど。今は物語の爺様のように世界を巡って人々を助けるような活動はしていないわけか。女神の落とし物なんて呼称が定着してるくらいだ。既に今のやり方になってから長い時が経っているのだろう。
とするとあの本は写本か何かだろうか。あの物語を聞いたか読んだかした者が後の世になって書き写したのだろうな。それでも百年近くは前の話だろうけど。本はそれくらい古そうだったし。
『ギンカは好奇心旺盛ですね。次から次へとよく考えるものです』
すまんな。ネル姉さんを困らせたいわけではないのだが。
『いえ。そういう意味ではなく。なんならむしろ褒めてあげます。お陰で退屈せずに済みそうです♪』
にゃるほど。そういう。
逆にネル姉さんは普段なにをして過ごしているんだ? 勿論答えられる範囲で構わない。私にもネル姉さんの事を教えてくれると嬉しい。
『ふっふっふ♪ 良いですね♪ そうきましたか♪ お姉ちゃんは嬉しいです♪ 最愛の妹から興味を持って頂けて♪』
早くも最愛にまで到達してしまった。どうやらネル姉さんの好感度はカンストしたようだ。
『主様以外とこうしてお話するのは初めてですから。無理もありません』
そんな他人事みたいな……。
『自分を客観的に見るのも大切な事ですよ』
まあそれはその通りなんだけども。でも人付き合いなかったらあまり意味も無い概念では?
『意地悪言わないでください。減点しちゃいますよ?』
ごめんなさい。
『素直に謝れる子も大好きです♪ 花丸あげちゃいます♪』
速攻で回復したようだ。ちょろい
『さてはお姉ちゃんを振り回して遊んでますね?』
いえいえ。滅相もございません。お慕いするネル姉さんを誂うなど。そのような事があろう筈もございません。
『なら良いですが』
……そうか。ネル姉さんが読み取れるのは表層の意識だけなのか。
『ギンカ。お姉ちゃんで実験しないでください』
これもネル姉さんを知りたいが故です。どうかご容赦を。
『ならば許しましょう。まったく仕方のない妹ですね♪』
危険だなぁ……。
『何がですか?』
大切な姉をどうしたら守れるのかと思いまして。
『ふふ♪ 可愛いこと言ってくれますね♪ 安心してください♪ お姉ちゃんに守りは要りません♪ お姉ちゃんがギンカを守ってみせます♪ その為なら全てを捨ててでも駆けつけてみせます♪』
どうかご自愛ください。私はネル姉さんの方こそ心配だ。
『もう~♪ ギンカったらシスコンなんだからぁ♪』
なんでそういうのは知ってるの?




