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01-02.走馬灯

 少女の手を離れて地面に叩きつけられるまでの間、これまでの出来事が走馬灯のように脳裏を過った。脳は無いけど。


 始まりは定番のものだった。

社会人一年目にして早々にぶっ倒れた私は、あえなく帰らぬ人と相成った。


 その後もこれまたお決まりのパターンだった。

いつの間にか不思議な光る床に立っていた私は、やたら露出度の高いボンキュッポンな女神と名乗る不審者の言葉にうんうんと頷き続け、異世界転生の片道切符を手に入れた。


 「万能回復役」きっと聖女様のような役職なのだろう。

回復は大切だ。今度は二十やそこらで命を落とすわけにはいかないのだ。


 ぶっちゃけ私は真面目に考えてはいなかった。

それはもう、大層浮かれていた。

正直、異世界転生は夢だった。

別に向こうの世界にも思い残す事なんて無かったし。


 まあ、ちゃんと聞いていた所でこの先の展開を予想できたとは思えないけど。


 だってそうでしょ?

改めて冷静に考えたって意味がわからないもん。

何故あの不審者は私を回復薬に転生させる必要があったの?

それはこの世界にとってどんな影響を齎すの?


 きっと意味なんて無いんだ。

私は忘れない。忘れられるわけがない。

私を回復薬に変えた不審者のあの顔を。

首紐のついた薬瓶を拾い上げ、足元に空けた穴の上でぶら下げながら、私の懇願を笑い飛ばしたあの顔を。


 あれは愉悦ですらなかった。

私の滑稽で哀れな姿を見て楽しんでいるわけではなかった。


 ただついうっかり間違えた。

まるでそう言わんばかりだった。

オーダーミスを笑って誤魔化す陽気な店員そのものだった。


 これも意外と美味しいよ?

騙されたと思って食べてみて♪

代わりに次回サービスしてあげるから!


 そんな軽いノリで私の二度目の人生、もとい初めての薬生?は始まった。


 次の約束が間違いなく履行されるとは限らない。

あの不審者は信用すべき相手じゃない。


 それでも。

それでも私は諦めたくない。

諦めたくないのだ。


 私には生きてやりたい事がある。

成さねばならぬ事がある。


 暗い穴底を落ち行く間、私は一人、決意した。

必ずやこの穴底から這い上がってみせると。

再びあの不審者の下へ辿り着いてみせると。



『待ってろよ!!!!

 女神モドキ!!絶対に!絶対に!ぜぇ~ったいに!

 約束を果たしてもらうからな!!絶対だぞ!!!

 覚えてやがれ~~~~~~~!!!!!』




----------------------




 気が付くと私は何処かの遺跡に転がっていた。


 遺跡……であってるよね?

なんかやたらと古びた空気を感じる……気がする。


 不思議だ。

この身は単なる薬瓶に過ぎないのに。

なぜだか意識もあるし匂いや気配も感じ取れる。

どころか光や音も認識出来るのだ。

鼻も目も耳も無いのに。


 いやまあ、光なんてどこにもないけど。

辺りは完全な暗闇だ。

ただこの体はやたらと夜目がきくらしい。

どんな暗闇でも周囲を見通せる。


 とは言えこの感じはとってもよろしくない。

こう周囲が暗いと気が滅入りそうだ。

唯でさえ今の私は不自由な体で一人ぼっちなのに。

せめて気持ちだけでも明るく過ごしたいものだ。


 贅沢は言わない。

どこかに懐中電灯でもないかしら。

この際松明でも構わない。

ロウソクの一本でもいい。

少しでもいい。明かりが欲しい。


 しかし、待てど暮せど明かりなど現れなかった。

そもそも人が来るような場所では無いのかもしれない。

人どころか獣すらも。


 むむむ。

どうしよう。

どうにかして自力で動けないものだろうか。

意識も感覚もあるのだ。

手足が生えてきたっておかしくはない。


 おかしく……ないよね?

もしかしたら私、暗闇に長い事一人で居すぎておかしくなってるのかも?


 これは良くない兆候だ。

普通薬瓶は歩かない。

そもそも喋りもしないし意識はない。


 私はどうやって思考しているのだろう。

私の中身は液体だけだ。

どこにも脳みそなんか浮かんでいない。


 ならこの液体に私の意識が宿ってるのだろうか。

この液体に、五感のような知覚能力が備わっているのではなかろうか。

何か魂チックなやつが溶け込んでいるのかもしれない。


 もしかして材料は人間とかそういう系のお薬ですか?

実は私、賢者の石なの?


 賢者の石って事は、何でも出来そうじゃない?

両手をパンってやれば、どんな願いも叶えてくれそうな気がする。


 だが残念。

私には手がない。まさに手も足も出ない。

ちくせう。


 考察を続けよう。

私の中身は何か賢者の石チックな高純度のエネルギーとか何かそんな物でもあるのかもしれない。


 ならもしかして、魔法とか使えるんではなかろうか。

口が無くたって詠唱破棄ってやつがあるもんね。

頭の中で念じる系ならいけるんではなかろうか?


 むむ!目覚めよ魔法!

我が新たな力よ!

今こそ目覚めの時だ!

め~ざめ~よ~!


 ……。


 …………。


 まあ、うん。

わかってた。

そう都合良くいくわけ無いよね。


 そもそもさ。

私の中のエネルギーを私が使っちゃったら、万能回復薬、めんどいなこの呼び名。エリクサーでいいや。

エリクサーとして役目を果たせなくなったりしない?

誰かに飲まれた時には……待て!?エリクサーだと!?


 ダメじゃん!

これダメなやつじゃん!!

エリクサーって絶対誰も使わないやつじゃん!!

実際私は使ったこと無いよ!?

だって必要なかったもん!

過ぎたるは及ばざるが如しだよ!?

過剰なんだって!勿体無いんだって!

元気の塊だって使ってなかったくらいだよ!?

元気の欠片と凄い傷薬で十分なんだって!

ぴーぴー系もマスターのやつも使わなかったもん!


 いや、マスターは使ったか。


 じゃなくて!!

もう!ほんとどうすんのよ!

まさか更に状況が悪化するとは思わなかったわ!!

これ以上無いほどドン底だと思ってたのに!!


 は!?

そうよ!偽装すれば良いのよ!

私はポーション!私はアップルグミ!

私は傷薬!私は薬草!

よっしゃばっちこい!


 ……。


 誰か~ここに非売品の激レアアイテムありますよ~。

拾ってくれませんか~。


 ……。


 ぐすん。

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